教師近藤と迷惑な話

 近藤が、自身が受け持つクラスの教室で、着席している生徒たちに向かってしゃべりました。

「私が以前マンションの管理人をしていたときのことなのですが、ある日そのマンションの通路の一角に、食べ終えたそば屋の出前の食器が置かれていました。

 それを、取りにくるだろうと思った店の人が、一向に姿を現しません。

 あれえ?

 まだ管理人になって日が浅く、仕事の経験が少なかった私は、それくらいのトラブルでも相当焦りました。

 三日経ち、一週間経ち、二週間が経過して、どこの店のものなのかや誰が置いたのかなどまったくわかりませんので、催促して解決することはできませんし、じきにホコリが目に余るほどかぶって、住人たちから苦情が出てきかねません。

 仕方がないから、どこかにしまうか廃棄するかしよう。

 そう考えた矢先、見ると食器がなくなっていました。私はようやく片づいたかとほっと胸をなで下ろしました。

 それからおよそ一カ月が経ちました。

 んんっ?

 あの一件は忘れかけていたところでしたのに、前と同じ場所にまるっきり同じように、出前の食器が置かれているではありませんか。私の頭に不安がわき上がりました。

 悪い予感は的中するもので、またしても食器は回収されないまま幾日もが過ぎていきました。

 そのため再び別の場所に移す決意を固めました。すると、今回も決めた直後にそれが消え去ったのです。

 これはおかしい。私は怖くなりました。誰かが私の心の中を覗いている。それも、冷静になれば馬鹿馬鹿しい話ですが、もしかしたらその誰かとは食器そのもので、捨てられたりしないようにどこかへ逃げていったのかもしれない。そのように思いました。

 とにもかくにも恐怖心でいっぱいになった私は、それからというもの通路に置かれた出前の食器には一切関与しないようになったのでした」

 そうして口を閉ざした近藤は、電気を切りカーテンをすべて広げて暗くしていた教室の中で唯一、そしてわずかに光を放っていた、教卓に置かれた目の前の一本のろうそくの火を吹き消しました。

「……」

 生徒たちは皆、微動だにせず静まり返っています。

 近藤は林間学校でやったのがきっかけで、評判が良かったわけでもないのに、怪談話をすることがマイブームになってしまったのでした。

 相変わらず、怖くはないし、けれども気味が悪いと言われれば否定はしきれない、結局何だかよくわからない中途半端な話を、ここのところしょっちゅう聴かされる羽目になり、生徒たちは担任教師相手で露骨に態度には表さないものの、うんざり、ぐったりしているのでした。

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