教師近藤と怪談
ともに若い男性で友人関係のAとBが、ある日雑貨を売っている個人経営の小さい店に買い物に行きました。
しかし店はシャッターが下りて閉まっていて、その中央に定休日と書かれた札が掛けてありました。
「あのオヤジ、店を休んでテニスをしにいくなんて、ふざけてるな」
Aが腹を立てて言いました。
「はあ? 定休日なんだから別にふざけちゃいないだろ。それに、なんでテニスをしにいったなんてわかるんだよ?」
そこの店についてあまり知らないBはそう疑問を口にしましたが、直後にはっと謎が解けたという顔になりました。
「そうか、テニスは日本語で『ていきゅう(庭球)』だからか。お前もそんなシャレ言うんだな」
というのも、Aは非常に真面目な青年でした。彼よりもくだけた性格のBは、Aの意外な一面を見たと思い、カッカッカッと笑いました。
その話を彼らから直接ではなく、回り回って耳にした、雑貨店を営んでいる男性のCは、とても驚きました。
なぜなら、彼はAが冗談など決して言わない人だとわかっていましたし、あの日は定休日と偽って本当にテニスをやりにいったうえ、自分がテニスをたしなむことすらAは知らないはずだったからです。
どうしてあいつはすべてお見通しなんだ? この世の者ではないのか? しかも、そんなAを怒らせてしまった。
Cは恐怖で身震いし、それ以降は二度と遊ぶために店を休むようなことはなかったのでした——。
近藤はしゃべるのを終えて、真っ暗な部屋の中で唯一、そしてわずかに光を放っていた、目の前の一本のろうそくの火を吹き消しました。
「……」
静かに聴いていた生徒たちは、その態度を変えることなく、誰一人口を開きませんでした。
林間学校の三日目、つまり宿に泊まる最後の日の、夜遅くに、近藤は生徒を広間に集め、怪談が得意な芸能人がテレビでするようにおどろおどろしく語り始めて、話したのが今の内容でした。
こんな中身ですので、生徒たちは当然おびえたりなどまったくしませんでした。話が終わっても黙ったままだったのは、怖くて声も出なかったのではなく、感想一つ頭に浮かばなかったからでした。
ところが、少しして床に就くと、熟睡できないコが少なくなかったのです。
それは、本気で自分たちを怖がらせたかったんだか何なんだか、近藤の意図がつかめないその微妙な怪談でモヤモヤして、なんともいえない気持ちの悪さがなかなか抜けなかったためでした。
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