教師近藤と恋愛

 それは近藤が高校生のときでした。

 別のクラスの女子の戸倉路子が、なんと彼に恋をしたのです。近藤は当時も誰からもハンサムなどとは思われない、度が過ぎるほどの地味な容姿でしたが、その素朴さがむしろ彼女にとっては見ていると心がなごむといった良い印象を抱くものであり、惹かれた大きな要素だったのです。

 そうした詳細な点は把握していなかったために、あるいは、していたとしても同じだったかもしれませんが、自分が路子にホレられている事実のみを周囲からの情報で知った近藤は、途端にモテる男らしくかっこつけ始めました。なにかにつけ、スカすわ、気取るわ、ダンディーに振る舞うわで、それをしょっちゅう目にする羽目になった同級生たちのほうが恥ずかしくなってしまうくらいでした。

 ただ、浮かれモード全開な一方で、彼は路子が好みではありませんでした。

 彼女から熱心にアプローチされていたわけではなく、それどころか直接気持ちを伝えられたことも皆無で、勝手に盛り上がっていただけですけれども、ともかくモテている状況を味わい尽くして満足した近藤は、彼女を校舎の片隅に呼びだして、こう述べました。

「おそらく、きみに対しても僕に対しても、他にも思いを寄せている人は大勢いるだろう。だから僕らが付き合うと、お互いに恋の独占禁止法に抵触することになってしまうから、残念だけど交際するのはやめておこう」

「……はあ」

 路子は、近藤のことが好きだったのは嘘でも間違いでもありませんでしたが、そこまで強い恋心ではなく、ショックもない様子で、あっさりとその言葉を受け入れました。

 そうして二人の恋愛が絡んだ関係ははかなく終わりを迎えて、学校が一緒なだけの状態に戻ったのですけれども、近藤はそれ以降、交際の断りを簡単に承諾した以上に、自分が自信満々で放ったシャレた言い回しに対して極薄のリアクションだった彼女とは、どうあがいてもうまくいくことはなかったなと、思いだすたびに考えるのでした。

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