教師近藤とテスト
近藤が教鞭を執っているのは、彼の外見と同じくらい、さしたる特徴がない、普通の公立の中学校です。
そして中学校なので定期テストがあります。その日、彼は他の教師同様に試験官の役割をしていました。
生徒たちがテストに悪戦苦闘するなか、近藤は教室の前方にある教卓のところで椅子に座り、じっと試験の様子を見守っていました。
ところが、試験が開始して三十分が経過した頃です。彼はおもむろに立ち上がって廊下のほうへ歩きだし、ドアを開けて教室を出ていってしまいました。
テストでそれどころではなく、気に留めない生徒が多かったですが、不正が行われないかチェックしたりする立場として、特別な事情でもない限り目を離してはいけないのは当然であって、不適切な行動でしょう。気にかけたコたちも皆、トイレにでも行ったんだろうなどと考えて、まったく混乱にはなりませんでしたけれども。
また、近藤がいなくなったのはほんの十秒程度で、あっという間に教室に戻ったのでした。出てすぐの廊下に何かがあったのでしょうか? ともかく、これならばなんとか問題にはならずに済むかもしれません。
そうして近藤は再び教卓の位置に腰を下ろしました。
しかし、彼の目の前にいる、最前列で中央の席の女子生徒の鈴木麻美が、あることに気づき、こう思いました。
あれ? なんかチョコレートのにおいがする。
そこでさりげなく近藤に目をやると、なんと彼の下唇の一部分が茶色くなっているではありませんか。
嘘でしょ? テストが終わってから食べればいいのに、我慢できなかったの?
麻美が呆れるなか、近藤の態度は毅然としていましたが、そうやって平静を装うのはわかるものの、その表情はなぜだか妙に男前な感じだったということです。
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