第64話 かよわい乙女
「おい、コルン。森の中に一人でいたら危ないぞ」
俺は蹲っているコルンのもとにゆっくりと歩いていく。
「うるさい。勃起不全のおっさんは黙ってて」
コルンは顔を隠しながら俺が気にしている状態を呟く。俺への精神攻撃に慣れ過ぎだ。
「事実だから怒れん。まぁ、なんだ。さっきは子ども扱いしていると勘違いさせて悪かった。俺はコルンを子ども扱いしているわけじゃない。仲間としてコルンが心配だったんだ」
「…………あっそ。じゃあ、傷心している仲間にどうする気」
「そうだな……。どうしたら許してくれるんだ?」
「それくらい考えたら。妻子無しの人生半ばに差し掛かったおっさん」
「うぐ……。あぁあ」
俺は髪を掻き、言い返す言葉が何も思いつかずにイライラしていた。なんで俺はこんな面倒臭い魔法使いに手を焼いているんだか。
「はぁ、何も思いつかん」
俺はコルンの横に胡坐で座り、じっとする。
「俺はコルンの心の傷が癒えるまでここにいる」
「ふっ……。ほんと、それじゃあ、ただのうざいおっさんじゃない……」
コルンは猫のように気まぐれな行動をとり、俺の膝の上に頭を乗せた。
――頭を撫でろってことか?
俺はコルンの小さな頭をそっと撫でる。サラサラだった金髪が潮風のせいで少しベタベタしていた。だが、コルンが嫌がっている様子は一切無い。
「これは子ども扱いに入らないのか?」
「こ、これは……、は、入らないわよ……」
コルンは一瞬迷いながら呟いた。正面を向き、素顔を隠す。
「そうか。なら、好きなだけ頭を撫でてやる」
「す、好きにすれば……」
コルンは俺に撫でられるたび、耳をじんわりと赤くしていった。恥ずかしいなら、やめてと言えばいいのに。
俺はコルンの気が済むまで頭を撫で、二人で宴会場まで戻る。
「コルン、いいことでもあったのか?」
フィーアは焼かれたイカを食いながらコルンに訊く。
「べ、別に。いいことなんて無かったわ」
コルンはフィーアの横に座り食事を再開した。
「ふっ。コルンはわかりやすい奴だな」
フィーアはイカを食べ終わった後、焼きタコに手を伸ばす。
――フィーア、お前はどれだけ食べるんだよ。
俺はフィーアの周りにある食べ物の残骸を見て苦笑いを浮かべた。もう、四人前を一人で食べているような状態で、大食い度合が半端ではないとわかる。
楽しい宴会が終わると、コルンの水属性魔法で俺達は体を洗う。潮風と高気温、高湿度の影響で体がベタベタだ。気持ち悪くて寝られやしない。
「ディア、おれと一緒に水浴びするか?」
キクリは茂みの奥から大きな声を出してきた。加えて水が流れる音も聞こえる。今、水浴びの真っ最中なのだ。そんな時に俺を呼ぶなよ。
「さ、さっさと終わらせろ。俺は一人でいい」
俺は胡坐をかき、じっと待った。
俺が瞑想をしている間にキクリとフィーア、コルンは水浴びを終えた。その後、俺も茂みから出てコルンの前に立つ。
「じゃあ、さっさと終わらせてくれ」
俺はパンツ一枚をつけた状態でコルンに魔法を放つようお願いした。
「下も脱ぎなさいよ……。ちゃんと洗えないでしょ……」
コルンは視線を反らしながら呟く。彼女は水着姿になっており、先ほどよりも髪が潤っていた。水も滴るいい女と言うが、まさにそれ。やはり若いとみずみずしくて新鮮だな。大人っぽさはないが洗ってつやつやのミニトマトを見ているようだ。
「俺の息子を曝せってか? 大きければ堂々と脱げるが……、小さいのを見られるのは案外恥ずかしいんだぞ」
「そ、そんなところで恥ずかしがるな。もっと女子に見せるのは無理とか、そう言う方面で嫌がれ! ディアのちっさい性器なんてこっちは見慣れてるんだよ!」
「うぐ……。ち、ちっさい……」
俺は大きな傷を胸に受け、四つん這いに倒れる。
「良いからさっさと全部脱いで。私は目をつむってあげるから」
「はぁ……。わかったよ」
俺はパンツも脱ぎ、コルンの前で全裸になった。ここまできたら堂々としていないと情けない。俺は腰に手を当て、産まれたばかりの姿をさらす。
「じゃあ、魔法を放つから自分で体を洗って『ウォーター』」
コルンは俺の頭上に魔法陣を展開し、滝のように水を流した。真水で体がベタベタしない。加えて案外冷たかった。
「はぁ……。生き返るー」
シャワーで体を洗っているような感覚になり、髪に付いた砂汚れや汗、皮脂、塩も全て流した。不衛生だと病気にかかりやすくなるし、体力が奪われる。出来る限り清潔でいた方が冒険中は仕事がうまく行く。
「コルン、もう十分だ」
「そう。じゃあ、止めるわ」
コルンは魔法陣を光の粒にして、散り散りにした。
俺は置いてあった乾燥している布で体を拭き、清潔な下着と衣類を着る。今日着ていた品はコルンが洗濯してくれた。
コルンは家事全般が案外出来るんだよな。
「コルン、ありがとうな。凄く助かる」
俺はコルンに日ごろの感謝を伝えた。伝えられるときに伝えておきたい。
「な、なによ……。まあ、数が少ないし、真水が出せるのは私しかいないし……」
コルンは少し微笑みながら濡れた品を風属性魔法と火属性魔法を使ってすぐに乾かす。二つの魔法を同時に扱える時点で物凄く優秀な魔法使いだ。ビチャビチャに濡れていた服はあっという間に乾燥した。俺のボンサックに入れ、仕事を終える。
「ふぅー。後は歯を磨いて寝るだけね。えっと……。夜中も長袖長ズボンを着ないと駄目?」
「そうだな……。着た方がいい。ハンモックで寝れば少しは快適に寝られるはずだ」
「はぁ……。こんなに暑いのに長袖長ズボンを着ないといけないのか……」
コルンは水着姿から寝間着に換装した。周りが森なのに可愛らしい猫の寝間着で違和感がすごい。
「フィーアは森の民で虫に刺されないし、キクリは体が頑丈で虫の毒牙が刺さらない。私とディアはただの人間だから、気を付けないと病気になる可能性もあるのよね……」
「虫を寄せ付けない魔法は無いのか?」
「あったら使っているわよ。煙を焚いて少しでも寄せ付けないようにするしかないわ」
「そうだな。まあ、暑くても夜中は汗や風で冷える。水分補給を怠らず、一夜を明かそう」
「ええ。そうね」
俺達は虫に気を付けながら一夜を明かした。
俺は比較的どこでもぐっすりと眠れる。フィーアとキクリも性格が図太いので何ら問題なかった。ただ、コルンはまだ慣れない様子で、よく寝付けなかったらしい。食べすぎも関係していると思われる。
「はぁ……。眠たいわ……」
俺が朝起きた頃、コルンは目の下が黒く、寝不足だとすぐにわかる顏をしていた。
「コルンは魔法の才能があるのに、冒険者に向いていない体だな。まあ、体質なら仕方がないことだ。少しずつ改善していこう」
「うん……」
コルンは弱々しく頷き、足下がフラフラとしていた。
「寝られないのは辛いよなー。私は案外寝られたからよかったが、心中を察するよ」
フィーアは体を伸ばし、すっきりした表情で言う。
「ただ寝るだけだろ? おれは目を瞑れば、あっと言う間にすぴーだ」
キクリは一番元気だった。やはり東国の小人族は体が丈夫だな。
「私はあなた達みたいに体力バカじゃないのよ。かよわい乙女なの。だから仕方ないでしょ」
コルンは無い胸を張り、堂々とした。堂々とする場面じゃないと思うが……。
「だが、睡眠不足はいただけない。コルンの体調が万全じゃないと俺達は最悪死ぬ。コルンの体調を戻すことから始めよう」
俺はコルンの体調を戻すために快適な寝床を探す。だが、地形がわからないので、海の民であるマリンに話しを聞いた。
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