第58話 経由地

「うーん、これでいいのか?」


 キクリは俺が渡した上と下が繋がっている水着を付け、カーテンを開けた。とっても健全で、誰が見ても問題ない。ただ、キクリの短くも凛々しい腕と脚が可愛らしい顏に合っておらず、つり合いが取れていなかった。でも、それもまたキクリの個性なので気にしない。


「う、ううん……。でぃ、ディア……、これは流石に……」


 コルンは紐の水着を付けて出て来た。隠れなければいけない部分が隠れきれていないので即座に着替え直させる。結果、フリフリが付いた青っぽい水着に決めたようだ。普通だが、コルンは普通くらいでちょうどいい。


 必要な品を購入した俺達は王都で三日過ごし、移動の疲れを癒した。

 すぐに移動してもよかったがコルンの体調が心配だったので休暇を取った。それぞれ好きなことをして時間を潰す。

 俺は体と心を鍛え、精神を整えた。コルンは死ぬほど眠り、よく食べ、軽く運動をして体調を万全に戻す。

 フィーアは俺と鍛錬し、近接戦闘と魔法の技術を磨く。

 キクリは食材と調味料で料理を作ったり、武器の手入れをしたり、鍛錬にも参加した。皆、体調を万全に整え、ドンイ国行きの飛行船に乗る。


「うーん、はぁー。いやー、酔い止め様様だわーっ!」


 今回、コルンは酔い止めを持参し、以前よりも体調が安定していた。その姿を見て俺は安堵する。ルークス王国からドンイ国までざっと八日ほど。長めだが、コルンの体調が良いので以前よりも気分が楽だった。


「コルン、体調が悪くならないように注意しながら生活しろ。酔い止めが利くからと言って飛行船の中で暴飲暴食は控えるように」


 俺はコルンの体調が悪くならないよう、注意を促す。


「わかってるって。もう、何度も気持ち悪い経験をして来たんだから、自分の限界くらいわかる。だから、心配しすぎないで」


 コルンは笑い、飛行船内にある食堂で料理を得た。体調が悪くならないか緊張したが酔い止めの効果が強く、コルンは体調を悪くしなかった。


「ほっ……。よかった。これで俺もゆっくりできるな」


「今まで、悪かったわね……。ディアに何度も迷惑かけたけど、もう、心配いらない」


「そうか。辛そうな顔をしているコルンを見るのは俺も辛かったから、よかったよ」


 俺はコルンの頭を撫で、そのまま寝室で横になる。大剣はコルンの異空間に入れてあるので、身軽に動けた。

 ゲンナイが打ってくれた短剣を近くに置き、なにがあっても問題ないように備える。熟練の冒険者は武器さえあればどこでも生きていける。ギレインがまさにそうだ。俺はそこまでの高見にいるのか……、自信は無い。


 飛行船で移動し、八日目。

 多くの寺院がたてられたドンイ国にやって来た。ルークス王国の香辛料はほとんどこの国原産らしい。そのため、鼻の奥を擽る香辛料のにおいがそこら中に広がっている。きっと臭いと思う者もいれば、良い匂いと思う者もいるだろう。


 検問を終え、俺達はドンイ国の中に入った。ドンイ国を歩いていると金持ちと平民、貧乏人が一対三対六の割合でいる。服装はローブに近いが少し違う。ターバンを巻いており、宗教上の違いが見られた。


「うーん、臭い!」


 コルンは第一声を上げる。


「臭いとかあまり言うな。心の中で思い止めておけ」


「でも、臭いのはうざいでしょ。香辛料のにおいがそこら中からして体に染みつきそう」


 コルンはローブの布地に鼻を近づけ、嗅ぐ。


「うん。臭い!」


 コルンはまた大きな声を上げた。


「香辛料自体は良い匂いだが、ここまで量が増えると匂いもきついな……」


 フィーアは鼻を指でつまんで、匂いが入るのを防いでいた。


「香辛料は便利だからな。ある程度買っていこうぜ」


 キクリは香辛料が売っている屋台に向かい、品定めをする。


「この八種類の香辛料が入ったやつが良さげだな。ディア、買ってくれ」


 キクリは種類ごとに瓶に分けられ、木箱に綺麗に収納できる品を持ち上げ、ねだって来た。


「まあ、キクリの料理の幅が広がるなら……。コルン、翻訳魔法を頼む」


「言われなくても」


 コルンは詠唱を言い、俺に魔法を付与した。その後、屋台の店主と話し合う。交渉の末、金貨八枚から金貨五枚まで値段を下げてもらった。


「うわーい、ディア、ありがとう。ちゅってしてもいいぞ」


 キクリは子供のように喜んだ。


「ちゅっはしない。まあ、キクリが喜んでくれてよかった」


 俺はキクリの頭を撫で、微笑む。


 ドンイ国を歩き、香辛料をふんだんに使ったカリーと言う郷土料理があると知る。現地人はパンに似たチャパティと言う薄焼きした小麦粉をカリーに付けて食べていた。


「手づかみってなかなか冒険者気質ね……」


 コルンは現地人が手づかみで料理を食している姿を見て少々引いている。


「まあ、ルークス王国の冒険者でもフォークやスプーンを使う。無ければ仕方なく手で食うが、少し抵抗があるな」


「野菜は手づかみでも食べられるぞ」


 フィーアはなぜか勝ち誇ったような顔をしていた。


「手づかみだと猿みたいだな」


 キクリは何気に酷い発言をした。まあ、周りに聞こえてなさそうだったので大目に見よう。


「とりあえず、俺達も食べてみるか。船旅じゃ、真面な料理が得られるかわかわからない」


「そうね。他国に入ったら他国の文化を堪能しなきゃ」


 コルンも腹を決めた。


「美味い飯なら何でもいい。とりあえず、腹が減った」


 フィーアは堂々と言う。


「はー、カリーがどんな味なのか気になるー」


 キクリも食べる気満々だ。


 俺達は一番人気があるお店に並び、待っているとテーブル席に案内される。


「いらっしゃいませー。四名様ですね。あちらの席にお座りください」


 肌の色が濃いめな女性が元気よく接客し、俺達を誘導する。

 俺達は木製のテーブル席に座り、メニュー表を見た。


「いろんなカリーがあるのね。どれを食べたらいいかわからないわ」


 コルンはメニュー表の羅列を見て頭を悩ませる。


「とりあえず人気な品を頼めばいいんじゃないか?」


「相変わらず安直ね……。まあ、一番外れないでしょうけど」


 俺達は一番人気のスパイスチキンカリーを頼んだ。牛の乳を発酵させ、砂糖を加えたラッシーと言う飲み物とチャパティよりも質が高いナンと言う品もお勧めされたので追加した。


「お待たせしました。スパイスチキンカリーとラッシー、ナンになります。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」


 店員さんは銀製の皿に茶色っぽいカリーと三〇センチメートル以上あるナン、白いドロドロした飲み物が入ったコップを置いていく。

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