第四章〈古代都市〉

第57話 水着選び

 俺達はルークス魔法学園からウルフィリアギルドに戻って来た。


「おお、ディア。何かいい情報は得られたか?」


 ギレインは俺達の帰りを待っていたのか、ギルドの受付に立っていた。ガタイが良く、他の冒険者とそん色がない。もう、冒険者を引退して何年も経つと言うのに、肉体は一向に衰えていなかった。

 裏で鍛錬を積んでいるのだろう。やはり、恐ろしいほど冒険者に向いた人間だ。


「ほぼ賭け事みたいな情報を得た。行ってみないとわからん」


「はっ、そうか。まあ、冒険者なんて博打とほぼ変わらん。だが、行動を起こさなければ宝や成果は手に入らない。情報が得られただけいいじゃないか」


「ほんと、ギレインも前向きすぎる考えの人間だな。そんなんだから腕を失うんだ」


「俺の腕とディアの命なら、俺は迷わず腕を差し出すさ。ほんと、未だに根に持って優しい奴め~」


 ギレインは俺の頭を右手でぐしぐしと撫でてくる。ものすごくうざい。


「止めろ。応接室にさっさと移動して俺の話しを聞け」


 俺はギレインの手を弾き、応接室に向かう。


「まったく、昔から素直じゃない奴だな」


 ギレインは俺の後ろに付き、移動した。


 俺は大剣をキクリに渡し、応接室のソファーに座る。ギレインは反対側のソファーに座った。


「俺達は南列島に向かう。あそこら辺にウルフィリアギルドの支部はあるか?」


「南列島? そんな秘境に支部があるわけないだろ。東国でギリギリだ」


「そうだよな……。南列島行の船や飛行船は?」


「無い。あるとすれば漁船だ。だが、ルークス王国からの漁船はないだろうな。飛行船でドンイ国まで行って漁港に話しを付ければ、南列島まで連れて行ってもらえるかもな」


「はぁー。行くだけでも一苦労じゃねえか……」


「南列島はほぼ手付かずの場所だ。先住民とか、見知らぬ魔物とか、冒険者として出会いたくない奴らがわんさかいる可能性がある。南列島を攻略するなら海の民がいるイワハ諸島を目指せ。あそこは良いぞー。美女と超綺麗な海、上手い海鮮が堪能できる」


「イワハ諸島……。どこにあるんだ?」


「南列島より北東側にある、広い海の臍と言われている場所だ。多くの者は滅多に寄り付かないが、俺みたいなもの好きなら足を踏み入れる。会話が難しいがコルンの魔法で何とかなるはずだ」


「わかった。行ってみる。何か必要な道具はあるか?」


「そうだな。海に行くわけだから遭難する可能性を考えておけ。荒波に攫われてばらばらになったら簡単に見つからないぞ。まあ、ロックアントの女王を二体倒せるだけの力があるパーティーだ。遭難しても一人で生きていけるだけの力量があるはずだ。仲間の生存確認ができる『信頼の腕輪』を買っていけ」


「そうだな。遭難しても生きているのがわかれば対処しやすい。四個買わせてくれ」


「わかった。持って来よう」


 ギレインは応接室を出て八分後に帰って来た。黒い板の上に銀色の腕輪に菱形の窪みが八個付けられた品と菱形の魔石が一六個置かれている。


「腕輪は一人一個。魔石は一人四個取ってくれ」


 ギレインは黒い板をローテーブルに置く。


 俺達は言われた通り『信頼の腕輪』と魔石を四個取った。


「腕輪は好きな方に着けろ。四個の魔石に魔力を込めて一個は自分が着けている腕輪の窪みに嵌めるんだ」


 ギレインは律儀に教えてくる。


 俺達は魔石を握り、魔力を込める。俺とキクリは魔力が薄いものの、無い訳ではないため、魔石が淡く光る。コルンとフィーアは元から魔力が多いので十分に発光していた。


「皆の魔石を一個ずつ腕輪に付けていけ。誰がどの魔石か覚えておけよ」


 俺の魔石は黒色になり、コルンは黄色、フィーアは緑色、キクリは橙色だった。皆の髪色なのでわかりやすい。


「その腕輪に付けられた魔石は連動する。死んだら魔力が無くなるからな、光が完全に消える。そうなったら死んだと思ったほうがいい。悲しいかもしれないが、自分が生き残ることを最優先に行動しろ。死んだら意味が無いぞ」


「ああ、わかってる……。料金は口座から引き抜いておいてくれ」


「わかった。体に気をつけてな」


 ギレインは父親のような言い方をした。


「死なずに帰ってくる。その時には体が戻っているかもな」


 俺はキクリから大剣を受け取り、背負った。その後、王都の店を回る。回復薬や食料、武器の予備を調達。その途中……。


「うーん、この水着は流石に破廉恥すぎるかな……」


 コルンは紐パンを手に取り、キクリとフィーアに見せた。


「いいんじゃないか? ディアはそういうのが好きそうだ。ならこっちも良さそうだな」


 キクリはビキニを手の取り、自分の体に合わせている。

 両者共に子供体型なのだから、似合わないだろと言いたい。俺の頭の中で両者の水着姿が用意に想像でき、あまりにも似合っていない。逆にフィーアに着せたらと想像すると鼻血が出そうになり、頭を振る。


「なぜ、私達は下着を買いに来てるんだ……?」


 フィーアは売られている水着を頬を赤らめながら見る。


「下着じゃなくて水着だよ。水に濡れてもすぐに乾きやすくて動きやすい布が使われているの。今から行くのは海だし、数枚持っていた方が良いかなって思ったんだよ」


 コルンはフィーアに水着の大切さを教えた。加えてフィーアに水着を見せ、試着させている。


「うむ、案外動きやすくていいな」


 試着室を開けたフィーアは綺麗な体に緑色のビキニを付けていた。白い肌と緑色の髪にとてもよく似合っている。ただ、ほどよく膨らんだ乳と大きめの尻が俺の頭を狂わせる。


「ディア、どうだ。いい感じか?」


 フィーアは椅子に座っている俺の前に来てかがんだ。胸の谷間が強調され、愛らしい美女の視線が俺に向けられる。


「あ、ああ……、い、良いんじゃないか……」


 ――おっさんにそんな姿を見せるな。飛びつきたくなるだろうが。


「そうか。なら、これにする」


 フィーアは水着を決め、試着室に戻った。


「ディア、どうだどうだー。良い感じじゃないかー?」


 キクリは布地が少なすぎるマイクロビキニを着て、試着室から出て来た。寸胴な体に付けられた布が少ない水着があまりに破廉恥だ。きっと彼女の中性的な顔からして男と見間違えるやつもいるだろう。だが、下半身を見ればすぐにわかる。って、ほぼ隠れていないじゃないか……。


 俺は彼女の頭に手刀を食らわせる。


「絶望的に似合わん。あと、破廉恥すぎる。他のやつにしなさい」


「えー、中々良いと思ったけどな。さすがに布が少なすぎたか?」


 キクリは背中を向け、ほぼ丸出しの尻を見せてくる。プリっと引き締まり、綺麗な丸みを帯びたひっぱたきたくなるくらい良い尻だ。

 ひっぱたいている姿を周りの者が見たら、俺が変質者になってしまうので引きとどまった。


「この、上と下が繋がっている品がいいんじゃないか?」


 俺は目に優しい藍色の水着を選ぶ。


「なんか、他のやつより可愛くないぞ」


 キクリは頬を膨らまし、あまり気に入っていない。


「お前はそのままでも十二分に可愛いから安心しろ」


 ――小さな布地で見えてはいけない所がポロリされても困る。


「ふーん、ディアはおれのことを可愛いって思っていたんだ~」


 キクリははにかみ、水着を持って試着室に入る。


「おれが着替えている時に覗いても良いからな」


 キクリはカーテンを閉める前に、俺に向って笑いながら言った。


「覗くわけないだろ」

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