第47話 武器

「じ、じっちゃん……、これ……」


 キクリは地面に空いた穴から放たれる光を見た。


「は、ははっ! やっぱり出やがった……」


「ゲンナイさん! ロックアントの女王の胸からアダマンタインが出ました! ど、どど、どうしましょうっ!」


 八階層から伸びるローブを下りて来た小人族が叫ぶ。


「そっちもか! こっちも出やがったぞ!」


 ゲンナイは皆が耳を塞ぎたくなるほど大きな声で叫んだ。


 キクリは鶴嘴で穴を広げていき、光る金属を少しずつ掘り出していく。


「はは……、す、すごい。本当にアダマンタインだ……」


 キクリは目を輝かせ、お宝を見つけたように笑っていた。


 アダマンタインは劣化しない金属らしく、多くの王国がアダマンタイン製の剣を一本は保有したいと願うほどいい品だそうだ。

 不滅の金属なので国が滅びないと言う願掛けもある。実際、アダマンタイン製の武器を持っている国は滅んでいない。だからこそ希少価値は上がり続けている。

 ここ数十年は見つかっていなかったそうだ。どうやら、ロックアントの女王たちがたらふく食っていたらしい。

 アダマンタインは劣化しないため、女王が食ったあとも吸収されず、胸の中で残っていた。

 金属がロックアントの女王の中に含まれていたため、所有権は俺達にある。運がいいか悪いか……、女王と新女王の胸の中に上質な金属がたらふく残っており、俺とコルン、フィーアが一生豪遊しても余裕で資産が残るくらい金が舞い込んでくるそうだ。

 ありがたいが……、俺の体が戻らないと金がいくらあっても意味が無い。なんせ、俺があと何年生きられるかもわからないのだ。もしかすると呪いによってぽっくりと死ぬかもしれない。そうなったら金がいくら残っていても意味が無い。今、俺に必要なのは金よりも呪いに負けない武器だ。


「ディア、お前はどんな武器を望む」


 目をギラギラと輝かせ、やる気によって若さを取り戻しているのかと思うほど活力に満ちた顏をしているゲンナイは俺に訊いてきた。


「俺は……、大剣が欲しい。俺は大剣を使っていた方がやっぱりしっくりくる。子供や大人でも使えて持ち運びがしやすい大剣があったら良いなとずっと思っていた」


「なるほどな。わかった。出来るだけのことをしよう」


 ゲンナイは体を動かし、アダマンタインが大量に入った木箱を持って鉱山を出る。


「ディア、おれとじっちゃんでディアが使っても壊れない傑作を作って見せる! 待っていてくれ!」


 キクリもゲンナイを追って鉱山を出た。


「うわーい、うわーい。私達、お金持ちー」


 コルンは鉱物が大量に並べられている一階層で飛び跳ねていた。あまりにも子供っぽい。


「金があっても命を奪われたら終わりだ。強くならないとな」


 フィーアは金に執着しておらず、あくまで強くなることが目的だと自分の芯をしっかりと持っていた。そう言うやつを見るとカッコいいなと思ってしまう。なんせ、昔の俺は大金を稼いだら結構な確率で豪遊してたからな……。

 あの時の金を残しておけばよかったと何度思ったことか。だから、今回は運よく大金が入って来たと考え、あくまでも目的は俺の体を治すことだと心に言い聞かせる。金は体が治った後にどう使うかしっかりと考える。まあ、ぱっと思いついたのは俺が冒険者を辞めた時の祝い金にするくらいか……。

 金は四等分にするつもりだ。それでも一生遊んで暮らせるくらい金が入ってくると言うのだから、アダマンタインの金額は俺が想像もできないほど高価だ。そんな高い品を欲しがる王族ってすごい……。


 俺は大金が巡り込んできて喜びまくっているコルンと剣を振り、すでに鍛錬を始めているフィーアを見ながら、自分の心を見つめ直す時間を取った。


 ロックアントの女王を二体倒し、素材を回収してから一ヶ月が経った。

 春が近づいてきているのか、気温が少々暖かくなった。


 俺とコルン、フィーアは鍛錬に勤しみ、東国で過ごした。もう、ずっと住んでいたいと思うくらい良い場所だ。都会が好きじゃない俺からすれば余生はここで過ごしたいと本気で思っているくらい好きな国になった。


 ゲンナイとキクリは食事の時以外、朝から晩までずっと鍛冶場にこもっていた。キクリの父親が使っていた大剣は俺が丁寧に綺麗にした後、家の壁に横向きに飾ってある。


「ディアっ! 完成したぞ!」


 キクリは全身汗まみれの状態で息を荒げながら、家の庭で鍛錬をしている俺達のもとにやって来た。


「……見せてくれ」


 俺はついにこの時が来たかと腹をくくり、唾を飲み込む。


「ああ、ついて来い」


 キクリは俺の手首を握り、引っ張った。コルンとフィーアも俺と一緒に鍛冶場に向かう。

 鍛冶場に入ると、ゲンナイが漆黒の大剣を持って待っていた。大剣は柄、唾、剣身のすべてが黒く、以前見たアダマンタインの光を一切放っていない。だから目がちかちかせず、細部まで見れた。


「それが、アダマンタイン製の大剣か?」


「ああ。ディアのために作った、ディア専用の武器だ」


 ゲンナイは大剣の柄を握り、捻って剣身を裏返す。


「光っていないんだな」


「光っていたら他の者が見てアダマンタイン製だと気づく。貴族にぶっ殺されて奪われたいのなら光らせておいてもいいが?」


「い、いや。黒くて構わない」


「そうか。この大剣は表面を加工してアダマンタインの輝きを完全に閉じ込めた姿だ。これで、誰もアダマンタイン製だと気づくことは無い。お前は貴族から狙われる心配をしなくていいわけだ」


 ゲンナイは笑いながら歩いてくる。


「はは……、そりゃありがたいな」


 俺はゲンナイから大剣を受け取る。子供の俺からしたらデカいが持てなくない。今は身体強化を受けているわけじゃないんだが……。


「なんか、この大剣、軽くないか?」


「そりゃあ、アダマンタイン製の武器だからな。重さは通常の鉄の八分の一だ。強度は測れない。魔力で形作り、一度決めると直すことは出来ん。だが、腐食せず、耐久年数は半永久的だ。だから、武器が壊れる心配をしなくていい」


「そりゃ、ありがたい。もう、心強いったらありゃしないな」


 俺は大剣に革製の背負いベルトを取りつける。鞄のように背負って持ち運べるようにした。


「様になってるじゃない。まあ、大剣の方が大きいのはいつ見ても違和感だけど……」


 コルンは俺の姿を見てぶっきらぼうに呟く。褒めているのか、けなしているのか、謎だ。


「まあ、呪いが解ければ大人の俺に似合うだろ。その時までの辛抱だ」


 俺は自分の本来の姿を想像し、少々にやける。やはり俺は生粋の大剣好きらしい。


「ディア、これが頼まれていた米酒だ」


 鍛冶場の裏が酒蔵になっており、キクリは一升瓶が一二本が入った木製の箱を持って来た。酒造りは趣味だから金は要らないと言われた。そもそも、酒を造って良い許可をもらっていないから金を貰えないそうだ。

 コルンは木製の箱を異空間に入れる。


「ディア。依頼の完遂、実に見事だった。里長として感謝する」


 ゲンナイは頭を深々と下げ、感謝してきた。


「依頼の報酬の方は得られた素材の買い取り額と一緒にウルフィリア冒険者ギルドに送金する。ディアのギルド番号に送ればいいだろ?」


「ああ。大金を渡されても困る。ギルド口座に入れてくれていた方が安全だ」


「わかった。そうさせてもらおう」


 ゲンナイは大きな石にのっそりと腰掛けた。


「ディア、これからどうするつもりだ?」


「そうだな……、王都にいったん帰って知り合いに呪いの解き方を聞きに行く。何かわかれば行動を起こすし、無理なら冒険者として仕事を続ける」


「そうか。なら、呪いが解けたら顔を見せに来い。お前達と過ごす日々は楽しかったからな。また歓迎してやろう」


 ゲンナイは長い髭を撫でながら、パイプを吸い、一服していた。


「わかった。俺達も東国が物凄く気に入ったからな。すぐにでも来たいくらいだ」


「ふっ、東国が気に入るなんて物好きな奴らだな。だが、自国を好いてもらえると嬉しいものだな」


 ゲンナイはパイプを吸い終わり、吸い殻を竈に捨てた後、木製の箱を手に取って渡してきた。

 俺は受け取り、箱を開ける。三本の剣が入っていた。長さは短めだが、目を見張るほどいい品だった。


「選別だ。わしが本気で打った剣を持っていけ。多少は役立つだろう」


 ゲンナイは手を腰に当てながら微笑む。


「いいのか?」


「ああ。友好の証ってやつだ」


 ゲンナイは人差し指で頬を掻き、照れくさそうに呟いた。


「そうか……。ありがとう」


 俺は三本の剣の内一本を腰に掛け、残りの二本をコルンとフィーアに渡した。

 コルンは剣を使ったりしないが、素材の採取などで使えるので飛び跳ねながら喜んでいた。その後、礼儀正しい感謝の言葉をゲンナイに向って伝えていた。

 フィーアは短剣を多用するので長い耳がピコピコ揺れるくらい嬉しがっている。ゲンナイをぎゅっと抱きしめ、感謝していた。


「ディア、選別の代わりと言ってはなんだがキクリに世界を見せてやってほしい。この国のやつらは自国愛が強すぎて他国に滅多に行こうとしないからな、世界を知らないんだ。かくいうわしも国から数回しか出た覚えが無い。だが、それでも文化や生活の違いに驚かされた。その刺激はどの職業に就いたとしても有意義なものになる。丁度、キクリもやる気になっているからな」


 ゲンナイはキクリの背中を押し、俺の前に出させた。


「え、えっと、炊事とか洗濯とか、雑用諸々頑張ります。戦いも精一杯します。おれを仲間に入れてください!」


 キクリは珍しく敬語で喋り、頭を深く下げた。

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