第38話 仕事中の食事
「コルンとフィーアはいつも通り、俺の背後からロックアントを確実に倒せ」
「了解!」
コルンとフィーアは頷き、武器を握りしめる。
「キクリ、扉を閉めたら、ロックアントを挟み撃ちにして一気に片付ける。危険だと思えば、叫べ。俺が助ける」
「わかった。でも、助けられてばかりじゃ、情けない。逆におれがディアを助けてやる」
「ははっ、言うじゃないか。そうだ。冒険者は助け合いだ。その気持ちを忘れるな。って、キクリは冒険者じゃなかったな」
俺は冒険者に成る気は無いキクリに持論を説いていた。
「助け合いは冒険者だけじゃないさ。どの職種でも言えることだ。肝に銘じておく」
キクリは熟練冒険者並の威圧感を放ち、俺達を安心させた。心が強いやつがいると、身が引き締まる。
――どこか、ギレインを思わせるたたずまいだな。さすが小人族。万能種と呼ばれるだけはある。いや小人族と言うだけじゃない、キクリの父親に対する想いがキクリを突き動かしているのか。
俺は七階層に繋がる通路の扉を開けた状態で二五メートルほどはなれ、指笛を吹く。するとキクリが七階層の扉を開き、ロックアントたちを引き入れる。
指笛を吹き続けていると音につられてロックアントが大量に入って来た。その後、指笛を二回吹き、キクリに合図を送る。ボガンッと言うぐらいでかい衝突音が起こる。扉が閉められたようだ。
「ギュィイイイイイイイイイイイッツ!」
視界を覆うロックアントの大群が津波の如く、攻め込んでくる。あまりの数に足が引けるも、歯を食いしばって一歩前に出る。剣の柄を右手で握り、引き抜いて構えた。
「二人共……、行くぞ」
「ええ、準備は出来てるわ」
コルンは魔女帽子を被り直し、魔法杖の先についている大きな魔石を光らせる。金色の髪が靡き、魔力の練り込みが終了したらしい。
「ああ。いつでも行ける」
フィーアは左手で弓を持ち、三本の矢を持って弦を引いていた。
「ギュィイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
ロックアントの大群は敵である俺達を見つけると誰彼構わず、突っ込んでくる。
「すぅ……。フラーウス連斬っ!」
俺は狂犬の如く超絶低い姿勢を取り、小さな足で大きな破壊音をかき鳴らしながら稲妻の如く走る。
ロックアントの頭上に跳躍し、頭部を狙って連撃した。一呼吸の間に八〇匹ほどの頭部を切りつけた後、ロックアントの胸を足場にして移動。死んだロックアントが急停止することで生きているロックアントの動きも制限される。
「『ウォーターショット』」
コルンは遠距離から小さな小さな水の粒を高速で発射し、ロックアントの動きを鈍くした。頭部に当たれば儲けもの。体に当たれば怯ませることができる。命中率はいまいちだが、牽制にもってこいだ。
「『エアアロウ』」
フィーアは一本の矢を放ち、ロックアントの頭部を破壊させる。そのまま風の矢を連続して放ち、周りにいる個体の頭部を射抜く。正確な射撃が、ずぼらなフィーアと全く違い、才能を感じた。
俺はフラーウス連斬でロックアントの頭部を何体も切り割き、群れの動きを鈍くしていった。
「おらああっ! おらああっ! おらああっ!」
後方に見えるのは手斧をぶん回し、ロックアントの頭部をトマトかと言うくらい容易く叩き潰しているキクリの姿だった。
可愛らしい見た目とは裏腹に豪快な戦い方で気分が晴れる。
――やっぱり、性格がギレインと似てるな。
キクリの姿が若かりし頃のギルドマスターと被り、昔を思い出した。
「まったく、才能がある奴しかいないのか……。これだからおっさんは世知辛い。だが、凡人も舐めるなよ!」
俺は自分の鍛錬を信じ、ロックアントの頭目掛けて剣を振り続けた。ゲンナイの剣なら通常のロックアントの頭部など、容易く切れる。一撃で相手を倒せば呪いは発動せず、剣の寿命が削れることはない。そのため威力より正確性重視で攻撃した。
七階層の入り口付近にいるロックアントをあらかた倒した。いったいどれだけのロックアントがいたのかわからないが、俺達は皆、無事だった。四人の初陣としては上々だな。
「はぁ、はぁ、はぁ……。やっぱり、一人増えるだけで全然違うな。キクリのおかげで大分楽になった。ありがとう」
俺は水筒の水を飲み、一息つく。
「はぁ、はぁ、はぁ……。皆の力になれたならよかった。にしても、冒険者って大変だな。でも、凄い楽しかった」
キクリは体を伸ばし、筋肉を解していた。くびれた腹部と汗が滲んでいる臍が妙に色っぽい。
「コルン、魔法の命中率が前より上がったな。日頃の練習の成果が出てきてる。援護射撃がすごい助かった。まあ、身体強化の魔法は言わずもがな、本当にありがとう。感謝してる」
「な、なによ。いつも通りでしょ……。まあ、素直にありがとう……」
コルンはつばが広い魔女帽子を深く被り、はにかんでいる顔を隠した。
「フィーア。俺の手が届かない所を上手く攻撃してくれて助かってる。近接戦闘も十分様になって来たな。手伝ってくれてありがとう」
「そうなのか? ディアがそう言うのなら、よかった。また頑張る」
フィーアは緑色の瞳を輝かせながら微笑んだ。肌に浮かぶ汗の雫が魔石の光によってキラキラして見える。やはり美人だ。
「よし、いったん休んで八階層のロックアントを少しでも倒す。そうしておけば、明日楽になるだろ。なんなら、ロックアントの女王がいる可能性もあるんだ。相手の数を減らしておいて損はない」
「そうね、相手の数が少ないに越したことはないわ」
コルンはロックアントの胸の上に座り、一呼吸置いていた。
「魔力の回復と武器の修正を終えたらすぐに戦える」
フィーアは弓と矢の状態を確認し、瞑想に入った。動きに無駄がない。
「じゃあ、おれは昼食でも作るか」
キクリはコルンの水属性魔法で手洗いを行い、異空間から食材と料理道具を取り出した。そのまま暖かい食事を作っていく。あまりにも早い手際であれよあれよという間に昼食の準備が整った。
干し肉や干し椎茸が入った熱々の味噌スープと飯盒で炊かれた暖かい白飯だけだが、それだけでも十分すぎるほどありがたい。
キクリは箸が使えない俺達を気遣い、白飯を塩むすびにして食べやすくしてくれた。
握り具合が完璧で口の中で一粒一粒ほろりとほろける。
完璧な炊き具合の米を噛むと塩気と甘みが融合し、何個でも行けそうなくらい美味かった。
キクリが作った即席料理にも拘らず、パンや干し肉を齧るだけの腹ごしらえとは全く違う一時になり、心の底から温まりすぎて正直泣きそうだ。
「ううう……。昼食が美味しい……」
コルンは食べることが好きなので美味しい食事が取れてご満悦。やる気もあがっており、午後も十分戦えそうだ。
「はむ、はむ、はむ……」
フィーアは頬に米を付けてしまうほどおにぎりを夢中で食していた。こちらも食べることが好きなので、お腹が膨れるごとに元気が回復している。
「休憩中の食事が変わるだけで、気の持ちようが全然違うな。何なら、八階層まで攻略できそうだ。キクリのおかげだな」
俺もおにぎりを食しながら味噌スープを飲みむ。合わせ食いが美味すぎて身が震えた。
「ディア達に喜んでもらえてよかった。おれが出来ることは何でもする、遠慮なく言ってくれ」
「じゃあ、剣の手入れをお願いしていいか?」
俺はゲンナイに借りた短剣をキクリに見せる。
「おやすい御用だ!」
キクリは俺の剣を手に取り、武器の手入れを行った。もう、気が利くなんて話じゃない。パーティーに一人いてくれたら最高の援護係りだ。この戦いが終わった後も一緒に旅をして欲しいくらい頼もしい。
一時間の休憩を取り、錬金術により綺麗になっている七階層の扉を開ける。八階層に繋がる階段を通り、八階層の扉の前に到着する。先ほどはここまで到達した。錬金術ですでに新品同様の輝きを放った扉が前にあり、フィーアの魔物避けの魔法が効いているのか、ロックアントの声は聞こえない。
「よし、ここが最後の階層だ。ロックアントの数を減らし、いると思われるロックアントの女王を倒す。今日はロックアントの数を減らすだけ減らして、女王の討伐を楽にするぞ」
「了解」
コルンとフィーア、キクリは大きく頷く。先ほどと同じ作戦を行い、キクリが扉を開け、七階層におびき寄せた後、扉を閉め、挟み撃ちにする。
作戦を決行し、八階層のロックアントをかたっぱしから始末した。
気づけばロックアントの数が少なくなっていた。昼食の効果か、美味しい料理で気分が上昇し、午後も午前中と同じような攻略が出来たのだろう。
「いい流れだし、このまま行く?」
コルンは魔力量に余裕があるのか、俺に訊いてきた。
「私もまだまだいけるぞ。矢も全て回収したし、魔力も最低限残ってる」
フィーアは体の準備運動が終わった後のように調子が良く、良い流れに乗っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます