第27話 コルン視点(3)

 ディアが眠ったのを確認してから私は日記帳を開きながら、今日まで起こったことを読み返して行く。


 大森林にやって来たディアは姫と呼ばれる綺麗な森の民と真っ裸になって聖なる泉に入り解呪を受けた。

 子供体型のディアの真っ裸を見たのはメリー教授と共に服を脱がせた時以来だった。その時は可愛いな……、くらいだったのに解呪を受けて大人になった後のディアの素っ裸を見て大変興奮してしまった。

 見てはいけないと思いつつ、ムキムキな体、子供の時とは比べ物にならない男の象徴など、ただ見ただけで顔が赤くなっているのがわかった。それだけで彼は私を子共だと言って笑うのだろう……。気になる人の体を見たら顔が赤くなるのが当然でしょ。


 ディアの体は一時的に大人に戻ったものの、五分程度で子供に戻ってしまった。どうやら、森の民でも特級の呪いを解くことは難しいらしい。


 解呪を受けた後、ウォーウルフの群れが襲って来たと連絡が入った。フィーアは先に行き、私達も戦うこととなった。

 ディアは華麗な身のこなしで大きなウォーウルフをばったばったとなぎ倒し、森の民の戦士以上にウォーウルフを狩っていた。

 私はワイバーン種を倒したと言う自信から、討伐難易度四級のウォーウルフ程度に後れを取らなくなっていた。

 ディアに場を任され、信頼されているんだと無性に嬉しくなっていつも以上の実力が出せた。


 私を無意識に魅了するディアはブラッドウルフと言う討伐難易度特級と言ってもいいくらい狂暴で賢い魔物を森の民の援助がありながらも一人で倒していた。

 やはり、ディアは紛れもなく実力を持った冒険者だ。金級冒険者はだてじゃない。


 倒された巨大なブラッドウルフを見てちびりそうになりながらも、私は解体を手伝った。鑑定を使い年齢を見たところ『二五〇年』を超えていた。

 そんな昔からいる魔物なのかと疑問に思ったが、この場は大森林なのでいてもおかしくないなと特に気にしなかった。


  姫は体が伸び縮みしても割けない服を作るために七日間必要と言われたので休みが急に生まれた。その間に私はディアに勉強を教えた。デートもしたかったな……。

 ディアは呑み込みが早く、私に向って「コルンは勉強を教えるのが上手いな」と手放しで褒めてくれた。

 飛び跳ねたくなるくらい嬉しかったが捻くれた性格なのでつい流してしまった。あの時、喜べなかったので日記内ではちゃけておく。


 「ひゃっふーっ! ディアに褒められたっ、超うれしいっ!」


 ただ、女戦士のフィーアがブラッドウルフを倒したディアと近接戦闘をするようになった。戦いを学びたいそうだ。


 フィーアは戦闘面の才能があり、簡単な魔法も使え、森の民が得意とする解呪の魔法でディアを五分間だけ大人にすることができた。

 ディアがフィーアに付きっ切りで教えている場面を見ると、私は嫉妬してつい不貞腐れてしまう。心が狭いなと思わざるを得ない。

 私は近接戦闘がからっきしなので、中距離と近距離をこなせるフィーアがいたらディアの負担も減らすことができるだろうなと考えていた矢先、ディアを見つめるフィーアの眼が無性に色っぽく見えた。

 女の勘と言うのだろうか、フィーアが恋敵になったような……、そんな気がした。私の方が先に唾を付けていたんだから割り込まないでほしい。と思いつつ、ディアの魅力を共有できるかもとちょっくら嬉しかったり……。


 七日が経ち、ディアがフィーアを仲間に勧誘するも彼女は断った。私は心の中で歓喜の声を上げた。今思うと情けない。でも、ディアが好きすぎるのだ、許してほしい。

 ディアと一緒に里長の家に挨拶に行ったとき、産まれてから一度も聞いた覚えが無い身を震わす叫び声が聞こえたのだ。今、思い出しても体が震える。あの時は血の気が一瞬で引いた……。もうおしっこを漏らしていると気付かないくらい身を強張らせる事態に陥った。


 ディアの発言からブラックワイバーンだと知り、外に出てウルフィリアギルドのギルドマスターをしている元白金冒険者であるギレインさんを引退に追いやった討伐難易度特級の化け物を目にする。

 雰囲気が他の魔物と別次元すぎて言葉が出なかった。


 デカすぎる体や存在しているだけで威圧感が半端ではない。あの魔物を、腕一本を失いながらも討伐したギレインさんも化け物だと再確認することとなった。


 すぐにも逃げ出したい気持ちだったが、ディアが森の民を逃がすために動き、私も動かなければと自分を奮い立たせて半泣きの状態で付いて行った。ディアが死んだら後悔する、そう思ったのだ。

 フィーアが先に足止めしていたのを見て、負けたと思った。


 ディアが近接戦闘に加わり、私は後方支援と長距離から魔法の攻撃を繰り出す。

 でも、私の力では特級を足止めすることも出来ず、魔力を盛大に使って地面の底に追いやろうとしたが咆哮で底なし沼を吹き飛ばされ脱出される始末。

 もっと魔力があれば氷漬けにしたり、痺れさせたりして討伐出来たかもしれない。

 私は実力不足が浮き彫りとなる結果となり、ディアを守るために奇跡を信じて化け物の咆哮を反転させた。そのまま魔力の枯渇で気絶してしまった。

 ディアを危険に晒したあげく、足手まといとなり、天才ともてはやされていた学生時代が恥ずかしい……。


 ディアは大人に戻って戦ったそうだが、時間経過と大剣の破損により勝機が無くなったと判断したらしく、フィーアと私は避難させられた。


 意識を取り戻した私は何を思ったのか、誇りが邪魔をして森の民の戦士達と共にディアのもとに戻ろうとフィーアに提案してしまった。


 今、考えればそのまま逃げた方が正解だった。でも、戻ってよかった……。なんせディアの決死の勇姿が見れたのだ。あの時もカッコよかったなぁ……。


 ディアは討伐難易度特級のリッチに加え、ブラックワイバーンまでも討伐した。間違いなく白金冒険者に成れる。

 だが、ディアは呪いのおかげだと言っていた。謙虚な姿勢は高得点だが私は少々ムカついたので「気持ちがあれば大人の状態でも倒せていたはずだ」と心の内をぶつけてやった。

 ディアの驚いた顔が可愛くて身が熱り、彼のちょっと嬉しそうな顔を見たら心臓が鳴りやまなかった。ギュ~って抱きしめてチュッチュしたい!


 呪いを解いたらディアは引退するだろう。でも、特級を倒したと言う箔は残る。彼が満足して冒険者を引退できるように私が助けるんだ。


 私はブラックワイバーンを討伐した日の記録をしたため、床で眠るディアの顔を見た。寝顔が可愛すぎてキスしたくなる。唇にキスしたいと言う気持ちをグッと堪え、頬にチュッとしようとしたら……フィーアに見られた。


 フィーアは酔っぱらっていたのでしっかりと見られていないと思うが、顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。

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