第9話コルン視点(1)

「ディア、寝ちゃった……?」


 私はディアの柔らかい頬を突く。プニプニとしており本当に子供に戻ってしまったようだ。ディアが寝たのを皮切りに日記を開いた。


 一三年前、私は最愛の人に運命的な出会いをした。


 故郷のココロ村周辺で大量発生したオークに襲われていた当時五歳の私は死の間際、当時二五歳のディアに出会った。……一目ぼれだった。


 たくましい体で大剣を振るい、オークをなぎ倒す姿は英雄その者。顔も好みだし、匂いも好き。

 当時は漠然とした好きだったが、年齢を重ねるごとに好きが愛だと知った。生憎私は魔法の才能があり、一二歳のころ推薦でルークス魔法学園に入学することができ、天才やら神童と言われるような魔法使いになれた。

 ディアに会えなくなることだけが心残りだったが、特に話をするような仲でもなく、私は仕事をしているディアを遠くから見ていただけの情けない幼少期を過ごした。


 ――凄い魔法使いになってディアと一緒に冒険者になる。と言うのが私の夢で、大きな目標だった。目標があったから魔法の勉強や辛い学生生活を乗り越えることができた。その支えはディアで、彼を考えるだけでどんどん好きになっていった。


 学園を一八歳で卒業し、ココロ村に戻っていた時、コボルトに襲われた。いきなり襲われたからか、私は気を動転させてしまい、冷静な判断が出来なかった。

 怖すぎてお漏らしまでしてしまい、このままじゃあっけなく死ぬって思っていたころ……運命のいたずらか、私がよく知る男性に助けられてしまった。その時はもう、心臓がバックバクと鳴り響いていた。

 学生時代についてしまった防衛策の捻くれた性格が前に出てしまい、大好きなディアを罵ってしまった。何度も自己嫌悪に陥り、枕を濡らした。


 ココロ村に到着し、ディアが冒険者を引退するなんて言い始めた。


 私は金級冒険者のディア・ドラグニティを無理やり鼓舞し、私の初依頼に同行させることに成功した。

 移動中はいつもドキドキで真面な会話が出来なかった。彼のカッコいい姿を見ているだけで冒険者になってよかったと心から言える。

 夜、狼になった彼に襲われる姿を想像し、何度股を濡らしたか……。結局襲ってこなかったけど……。

 私の見た目が原因だろうか。


 ディアと共に呪いが付いた屋敷に到着し、唖然とした。彼が言っていることは全て正しくて完璧だった。でも、ここで私が身を引いたらディアは冒険者を引退してしまう。そう思ったら、いてもたってもいられなくなり、彼の言いつけを破って依頼を続行してしまった。

 でも、この判断は確実に私の失敗だった。なんせ、討伐難易度特級のリッチが屋敷の中にいたのだ。

 私が放てる高火力の光属性魔法も利かず、死を覚悟した。そんな時、ディアの声が聞こえた。私を探しに来てくれたんだと……そう思っただけで嬉しすぎておしっこを漏らしてしまった。もともと漏らしてたけど……。


 ディアと共に逃げようとした矢先、彼は私を窓の外に投げ捨てた。ディアは囮役を買って出たのだ。

 特級のリッチを相手にしているのなら正しい判断かもしれない。でも、私はバカと叫んでしまった。その後、ディアの意思を無駄にしまいと冒険者を集め、屋敷に向かった。そこにいたのはとても愛くるしい少年だった。

 黒色の短髪に眠たそうな眼、長いまつげに黒い瞳。眼元や口もとにあるほくろがやけに色気があった。その少年がディアと気づいた時、私は大泣きした。大好きな人が生きて帰って来てくれた……。もう、人生で一番泣きじゃくった。


 ディアを子供の姿にしてしまった原因は私にある。どんな方法を使ってもディアに掛けられた呪いを解いてやる。


 私は自分の想いを日記に書き連ね、気持ちを引き締めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る