第二章〈解呪の冒険〉

第10話 ルークス魔法学園

「ディア、交代の時間」


 コルンは俺の体をゆすり、起こして来た。


「あ、ああ。わかった」


 俺はコルンと火の番を交代した。


 その後、一ヶ月もしないうちにルークス王国の王都に到着した。俺達は真っ先にウルフィリアギルドに向かった。


「おいっ! ギルドマスターを出せっ!」


 俺は馬鹿みたいな依頼書を新人に渡した男に不満を言ってやらなければ気が済まない。加えて俺の現状を話すため、ウルフィリアギルドにコルンと共に突撃する。


「なんだ、うるせえガキだな……。は? え……。ちょ、ちょっと待て! お前、ディアか!」


 幼いころから顔なじみのギルドマスターが俺の姿を見るや否や、早々に気づいた。


「もう半年近く見ないと思ったら……。こりゃ、どういう状況だ?」


 ギルドマスターはいかつい顔にいくつもの傷が入り、左腕を欠損している。薄毛が少々気になり始めた赤色の短髪。昔使っていた古い冒険着を今も着ていた。

 今は冒険者を退き、ギルドマスターと言う役職に付いているが俺の師匠みたいなやつだ。名をギレインと言う。


「ギルドマスターが手抜きの依頼を出したせいで俺はこんな体になっちまったんだ!」


「待て待て、話しが見えん。ちゃんと説明しろ! このクソガキ!」


 ギルドマスターは俺の胸ぐらを右手で掴み、やすやすと持ち上げる。俺は大剣をしょっているのに未だこの怪力、俺の手足が短く、攻撃が届かない。


「え、えっと。ギルドマスター。私が説明します!」


 俺達は応接室に移動した。その後、コルンは起こった出来事をギルドマスターに包み隠さず伝えた。


「なるほど。そう言うことか……」


 ギルドマスターは応接室の床で土下座し、死ぬほど謝って来た。どうやら、コルンの天才具合を鑑みてお願いしたらしいが、それでも過信しすぎたらしい。

 一人の天才と熟練冒険者の二名を同時に失う大惨事になりかけたことを床が破損するほどの強さで頭を打ち付けながらあやまられた。


「も、もういい。こうなったのは俺が特級のリッチを倒したからだ。言わば勲章だな!」


 俺は腕を組み、子供の背丈のまま、胸を張る。


「そうか……。とうとう特級の魔物を倒したか。よく頑張ったな」


 ギルドマスターはいきなり師匠面をしながら、俺の頭を撫でてきた。おっさんに撫でられて嬉しい子供がいるか。


「止めろ、俺は子供じゃねえ。見た目は子供だが、中身は大人だ」


「だが、どうしたものか……。特級の呪いを解呪するなんて並大抵のことじゃないぞ」


「え、えっと。私の通っていたルークス魔法学園の教授に相談してみても良いですか」


 コルンはソファーに座りながら、俺の呪いに付いて真剣に考えていた。こいつなりに申し訳なく思っているらしい。


「確かに、あそこの教師たちは頭の丈が外れているからな。何かいい案を出してくれるかもしれない」


 ギルドマスターは顎髭を撫でながら言う。


「そう言えば、ディア。お前はココロ村の依頼を達成したら冒険者を辞めると言っていたそうだが、本当に辞めるのか?」


「こんな状態で辞められるか。まあ、今、辞める必要もないからな。呪いを解呪したら辞めるさ」


 俺はココロ村の依頼達成書を出し、銀貨を貰う。


「コルンが受けた依頼は特級の魔物が出たと言う証言とディアの状態を見て達成難易度が確実に一級以上あると認める。謝罪料と依頼達成料を支払わせてもらう」


 ギルドマスターは謝罪料中金貨五枚と依頼達成料の中金貨一〇枚を差し出してきた。


「たくっ! もっと出せや! 俺はこんな目に合ってるんだぞ!」


「お前がそうなったのは呪い対策系の魔道具を持っていなかったのが悪い! 何年冒険者やってるんだ! このクソガキ!」


 俺とギルドマスターは子共と親のような喧嘩を繰り返し、ウルフィリアギルド内を苦笑の渦に巻き込んだ。


 俺とコルンは応接室から出て受付に戻る。


「ディア先輩……。子供になっちゃったんすね」


 コルンと同じく天才冒険者のライトが達成難易度二級の依頼達成書を何枚も受付に渡しながら俺を見てきた。


「うるせ、仕方ないだろ」


「じゃあ、俺が解呪できるか一度やってみても良いっすか?」


「ああ、やってくれ。もう、今すぐ元に戻してくれ」


 ライトは俺の頭に手を置き、目を瞑る。体全体が白っぽく光り、魔力操作を行っていることは確かだった。



「『解呪(ディスペル)』」


 ライトは詠唱を放つ。すると俺の体に光りが纏わり、弾けた。


「ぐあっ!」


 ライトは光りに弾き飛ばされ、床を何度も転がり、壁に衝突。


「ライト! 大丈夫か!」


 俺はライトに駆け寄り、様子を見る。

 コルンがライトに回復魔法を掛け、大事に至ることは無かった。


「す、すみませんっす。ディア先輩。ディア先輩に掛かっている呪いは生半可じゃないっす」


「俺の方こそすまん。大事な体を傷つけちまった」


「気にしないでくださいっす。体は丈夫な方なんで、何ともないっす」


 ライトはすぐに立ち上がり、軽快に動く。無理をしているようにも見えたが無事と言うことにしておいた。


「にしても、君、かわいいっすね。今日、俺と食事にでも行かないっすか?」


 ライトはキラキラした笑顔をコルンに向ける。


「結構です。私、あなたに微塵も興味ありません」


 コルンは珍しくイケメンにきゃーきゃー言わない系女子だった。ただ単にライトが気に食わないだけかもしれない。


「コルン、ルークス魔法学園に行くぞ。お前が言う教授を紹介してくれ」


「わかったわ。その前に、あんたの服、どうにかしなさいよ。もう、ボロボロで見っともないわ。子供服なら大人の品よりも安いのがあるでしょ」


「ああ……。そうだな。服装を整えてから行くか」


 俺とコルンは服屋に向かった。店員に可愛いご姉弟ですねー、なんて言われ、あまりにも恥ずかしすぎた。全然似てないだろうが。


 俺は子供用の黒っぽい訓練着と牛革の防護用具、靴を購入した。冒険者用の子供服が無かったので仕方がない。

 まあ、材質はそこまで変わらないから問題ないだろう。内着や下着、靴下類を購入し、ボンサックに詰め込む。俺の買い物は終わったが、コルンは下着類を念入りに見て品定めをしていた。

 子供体型なので、きゃわいいー、と言う感じのカボチャ下着くらいしかない。俺が「くくくっ子供っぽ」と笑うと、魔法で容赦なく吹き飛ばされる。


 服屋を出てルークス魔法学園に向っている途中、コルンが話しかけてきた。


「あんた、大剣をずっと背負ってるけど、その体で大剣を使い続けるつもり?」


「俺の個性を奪おうとするなよ。俺が大剣を持ってなかったらただの子供じゃねえか」


「別にあんたが大剣を持っていようといなかろうと多くの人がどうでもいいと思うけど」


「よくないだろっ。金級冒険者ディア・ドラグニティと言ったら大剣! 大剣と言ったらディア・ドラグニティくらい大切な武器だろうが。コルンのその杖が小さなロットになった嫌だろ」


 俺はコルンが持っているデカい魔法杖を指さす。


「ま、まあ……。でもこれは、私が大きくなって超カッコいい魔法使いになった時ように買ったの。あと、三〇センチメートルくらい伸びるつもりだから。あと、胸とお尻も大きくなるし!」


 コルンは鼻息を荒くしながら、背を反らせ、胸を張る。まっ平な子共が何を言っているのやら……。


「諦めろ、お前はもう一八歳だろ。成長期なんてとっくに過ぎてるって。お前の体型は一生ロリっ子、ぐほっ!」


 俺はコルンが持つ魔法杖に叩きつけられる。地面と熱いキスをして、口の中が砂まみれだ。


「もう! 私はまだ成長期なの! あと、ロリっ子じゃない! カッコいい魔法使いお姉さんなんだから!」


 コルンは自分で言っていて恥ずかしくないのだろうか。


 俺とコルンは多くの貴族や優秀な者の学び場であるルークス魔法学園に到着した。敷地面積が広すぎて初めて入る者は地図がないと移動できない。色々な手続きをした後、学園の内部に入る。

 コルンが知り合いの教授のもとへと案内してくれるようだ。


 城のような巨大な建物中に入り、昇降機で八階に移動。すると辺り一帯が重苦しく、暗い。


「メリー教授。去年卒業したコルンです。起きていますか?」


 コルンは最も禍々しい雰囲気を放つ部屋の扉を叩き、声を出す。すると扉の鍵がガチャリと開き、木製の扉が外側に開く。


「んー、ふわぁー、おはよう。コルンは早起きだなー」


 扉が開くと紫色の髪が床に付きそうなほど長い美魔女が現れた。キャミソールとパンティーしか身に着けておらず、どちらもよれよれで薄汚れているが……何ともエロっちい。

 身長は一六〇センチメートル。顔は寝不足気味でアンデッドと同じくらい顔色が悪い。だが、絵にかいたような美女だ。俺がおっさんの状態なら正直抱ける。


「ちょっ! メリー教授! なんて、恰好をしているんですか! 今すぐ着替えてください」


 コルンはメリー教授を部屋に押し込もうとする。


「あれあれー、こーんなところに、可愛いぼくがいるー。迷子になっちゃったのかな」


 メリー教授はコルンの押し込みをひらりと躱し、俺の前にペタンコ座りをした。


「んー、ぼく、何歳?」


「三八歳」


 俺は自分の年齢を言う。


「もー、冗談がきついなー。どう見ても子供でしょう。コルンの弟君?」


「違います。その人、本当に三八歳のおっさんなんです」


 コルンは俺を見下すように言った。


「えー、こんなに可愛いのにー?」


 メリー教授は俺に抱き着き、俺の顔を放漫な乳の間に埋めた。汗臭くて仕方ないが、その中にある女の香りが良い……。


「ちょ! メリー教授! 何してるんですか!」


「ぼくー、精通してるー? お姉さんとちょっと楽しいことしてかなーい」


 ――この女、やばい奴だ! 


 俺の冒険者の勘が叫ぶ。小さくなった手で教授の乳を押しながら拘束を逃れる。


「お、おお……。すごい柔らかさだ……」


 俺はメリー教授の乳から手を離せなくなっていた。加えて鼻から血を流し、下半身への血流増加を感じる。そう思っていた矢先、魔法杖をフルスイングし、俺の顔面に打ち付けてくる赤面したコルンの顔が一瞬見えた。

 次の瞬間、俺の意識は途切れる。目を覚ました時、俺はベッドの上に寝転がり、素っ裸にされていた。


「おはようー。すっごかったねー」


 隣にメリー教授が寝転がっており、色気むんむんだ。


「お、俺はいったい……。まさか、あんたと……」


「別にやましいことはしてないよー。ちょっくら調べさせてもらっただけだ。にしても、顔と同じくらい、可愛い下半身だね。いじめたくなっちゃうよ」


 メリー教授は俺の下半身に視線を向ける。


「よ、よけいなお世話だ!」


 俺は両手で股を隠し、女みたいな格好になる。

 すると赤面したコルンに服を投げられた。どうやら俺は気絶している間に服をひん剥かれ、あんなことやそんなことをされそうになりながら、メリー教授に調べつくされたようだ。


 俺は服を着て研究室の椅子に座る。

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