第14話 新人冒険者の成長

「コルン! 今のお前なら、グリーンワイバーンを一人で倒せるはずだ!」


「ふぅ……。言われなくても、やってやるわよ! 『パラライズ』」


 コルンは杖先に付いている大きな魔石を光らせる。電撃を放ち、グリーンワイバーンに命中させた。


「グッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 グリーンワイバーンは麻痺し、体の動きが一段と鈍る。


「『ロックバレット』」


 グリーンワイバーンの周りに小さな魔法陣がいくつも浮かび、細長い岩が射出される。細長い岩はグリーンワイバーンの体に何本も容赦なく突き刺さった。


 グリーンワイバーンは血を流しすぎた影響で意識を失い、地面に真っ逆さまに落ちていく。誰が見てもまごうことなきコルンの大勝利だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……。や、やった。やったっ!」


 コルンは息を荒げながら、木の上で飛び跳ねた。すると……。バキッと言う音が響き、木の枝が折れる。


「あ……」


 コルンは真っ逆さまに落っこちる。


「っと、あぶねえ。枝の上で飛び跳ねるとか、馬鹿なのか?」


 俺はコルンのもとにさっと移動して落ちてくる少女を優しく受け止め、他の木の枝に飛び乗る。


「べ、別に助けてくれなくても浮かべたのに……」


 コルンは頬を赤らめながら、小さく呟く。


「いや、コルンに無駄な魔力を使わせるわけにはいかないだろ。あと、さっきの戦い、よかったぜ。魔法の命中率を考えて上手く立ち回ったな」


「う、うぅ……。な、何度も戦ってたら嫌でも上手くなるでしょ……」


「いやいや、コルンの成長率は目を見張るものがある。ちゃんと努力している証拠だ。よく頑張ったな」


 俺はギレインに修行を付けてもらった時、結構褒められた。あの時、確かに嬉しかったのを覚えている。だから、俺も同じようにコルンを褒めた。


「うぅ、う、うっさい! いつまで抱いてるの! お、おっさん臭い!」


 コルンは暴れ、俺から離れる。そのまま木を飛び降り、浮遊魔法を一瞬だけ使って着地。高さが七○メートルほどあったのに恐怖を感じていなかったようだ。それだけでも成長が伺える。


「さてと……」


 俺は頭上を見て木の枝にぶら下がっている森の民を見る。


「な、なんだこの縄は……。私はいったい……。くっ、縄が擦れて……」


 女性は内ももを擦り、縄を股間に食い込ませながら吐息混じりに喋る。無償に厭らしく見えるのはなぜだ。


 俺はぶら下がっている森の民のもとに移動する。縄を木の枝から外して女性を抱きながら枝を足場に使い、地面に降りる。錯乱している女性を仲間のもとに運び、落ち着くまで待つことにした。

 その間に俺はレッドワイバーンの腹部から大剣を回収し、コルンと共に三頭のワイバーン種の解体に取り掛かる。鱗や魔石、巨大な爪など、ワイバーン種は高く売れる。そのため無駄にすることはできない。


「ディアは解体がすごく上手いわね……。こんな綺麗に取れるなんて……」


 コルンは俺が解体したワイバーン種の肉や皮、油が一切ついていない巨大な爪を見つめた。


「売る相手や買う相手の気持ちを考えて採取する。そんなの冒険者の基本だろ」


「そ、そうだけど……」


 コルンは自分が採取した血肉や皮がへばり付きグチャグチャの鱗を見る。落胆したのか、ため息をつきながら俺の近くによる。


「も、もっとうまく採取する方法を教えなさいよ……」


「ただってわけにもいかねえな。頬にチュっとでもしてくれたら教えてやるぜ。ガキンチョ」


 俺はいつも弄られている腹いせに自分の頬を突きながら言う。その後、杖で殴られると言うのがいつものお決まりだった。

 だが花の香りがふわっとした後、頬に柔らかい感触が当たった。はっとして頬を手の平で触り、左側を向くと頬を真っ赤にしたコルンがいる。


「こ、これでいいんでしょ! これで解体技術が学べるなんて安い代償だわ!」


「な、何してんだよ! こんなことしなくても教えたっての!」


 俺まで体温が上がり叫ぶ。大人のお店以外で可愛い子に頬にキスされるなんて経験は初めてだった……。


「な、なーに赤くなってるの。ぷぷぷっ、もしかして、ドキドキしちゃった? やっぱり、私の大人っぽさに当てられちゃってたのね。おっさん」


 コルンは初初しく耳まで赤くした後、笑っている口もとを手で隠し、これでもかと弄ってくる。


「く、くぅ……」


 一瞬ドキリとしたのは事実で何も言い返せない。


 三頭のワイバーン種の解体を終えると、すでに夕方になっていた。倒れていた者達はコルンの回復魔法により、一命をとりとめたのに加え、意識を取り戻した。


「あ、ああっと……」


 俺は目の前にいる森の民らしき者を見下げる。


「くっ……。私達をこのように縛り上げ、何をする気だ……」


 美しい女性が縄で縛られながら藻掻いていた。だが、どこか嬉しそうに見えるのは気のせいだよな。


「コルン、翻訳の魔法とかないのか?」


 俺はダメもとでコルンに聞いてみる。


「あるわよ。でも、喋るたびに魔力を消費するから勉強しないといけないわね」


「勉強か……。俺が大の苦手なことじゃねえか……。解体を教えるから、逆にコルンが勉強を教えてくれ」


 俺は先ほどのキスよりも、勉強の方が断然ましだと確信した。ずっとあんなことをされたら気がおかしくなる。おっさんの心が持たねぇ。


「なによ。頬にチュッ、ってされただけで参っちゃったわけ? ぷぷっ……、キスで参っちゃうなんてほんとにおっさんは雑魚雑魚だねー」


 コルンは嫌味たらたらな表情で笑っていた。いちいち気分を逆なでしてくるガキだ。俺を弄るのに飽きるや否や詠唱を呟き、森の民と言葉が通じるようになった。


「えっと、あんたらは森の民で合ってるか?」


 俺は腰を地面に降ろし胡坐をかきながら訊いた。


「あ、ああ。確かに私達は森の民だ。それにしても、なぜ言葉が通じているんだ?」


 縛られている女性は目を丸くしながら俺達を見る。


「ここにいるロリっ子魔法使いは天才でな。よくわからない魔法が使えるんだ。気にしないでくれ。ぐはっ!」


 俺はコルンに魔法杖で叩かれ、悶絶する。なぜ叩かれた?


「はぁ、えっと森の民の里に行きたいんです。連れて行ってくれませんか?」


 コルンは俺の代わりに森の民と交渉し始めた。すると、森の民は小さな声で呟き合い、頷く。


「こちらが助けられたんだ。そちらの要求を呑もう。とりあえず、この淫猥な縄を解いてくれ」


 森の民の女性はもぞもぞと動くたび縄に締め付けられ、綺麗な体の曲線が浮き彫りになっていく。俺が鼻の下を伸ばしているとコルンに魔法杖で殴られた。


 俺とコルンは意識が回復したが動けない森の民を担ぎながら森を歩く。


「そろそろ、見張りが交代の時間だ。他の者が来る。その時は私が話そう」


 俺が助けた女性は体が丈夫なのか他の者が動けない中、俺の横をスタスタと歩けるほどまで回復していた。


「ああ……。そうしてくれ……」


 俺の顔はコルンに殴られすぎてボコボコだ。俺が森の民の谷間に顔を埋めながら運ぼうとしたのがまずかった。


 数分後、前の方から風のように走る者達が五名ほど現れる。攻撃されそうになったが俺の隣を歩いていた森の民が話しを付けた。理解してもらったのか他の五名は颯爽と駆けて行く。


 夜が深まり、月が真上を過ぎたころ、ようやく明りが見えてきた。森の民の里だと思われる。


 火を使っているわけではなく魔法や蛍光、光るキノコなどが里を照らしていた。建物は木製……と言うか、蔓で作られており、魔法製なんだろうなと想像がつく。


 俺とコルンは傷が深い森の民を一番元気な森の民が教えてくれた施設に預けた。そのあと元気な森の民は俺とコルンを里長の家に連れて行ってくれた。


 里長の家は一番大きく古めかしかった。蔓の色が濃く、あまりに幻想的だ。


「じっちゃん、お客を連れてきた」


 森の民が扉を開けると蛍光がうようよと動き、座布団の上に座る若い男性を照らす。明らかに歳をとっているのに、若々しい見た目が羨ましい。


「なんじゃい、バカ孫娘か……。ん? 珍しい、人間じゃないか。しかも、呪い付きときた」


「は、初めまして。ディア・ドラグニティと言います」


「森の民の言葉がわかるのか? いや、そう言う訳でもあるまいな。魔法か」


 どうやら、この森の民は眼が大分超えているようだ。


「はい。その通りです。初にお目にかかります、コルン・ティアラと言います」


 コルンは魔女帽子を取り、頭を深く下げた。俺以外には礼儀正しいなぁ……。


「久しぶりに人間を見たが悪い奴らじゃなさそうだ。ほら、さっさと座りなさい」


 森の民が指を動かすと棚に積まれた座布団がすーっと動いて木製の床に乗る。


「無詠唱で物を動かせるなんて、さすが森の民……」


 コルンは目を見開き、驚いていた。天才のコルンでもやはり彼らの魔法技術は凄いようだ。


「遅くなったが、私はフィーア・リーン。森の民の戦士だ。よろしく頼む」


 里長の隣に正座し、胸に手を当てながら元気な森の民が自己紹介をした。綺麗な緑色の短髪が蛍光に照らされるとより一層、美しさを増した。


「わしの名はスージア・リーン。この里の長をしておる」


 緑色の短髪で孫娘のフィーアと雰囲気が似ている里長が胡坐をかきながら頭を下げた。

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