魔王の花嫁
賢者
第1話
十八周忌の年。冬月生まれの娘は、十八になると魔王の花嫁として差し出される。それがこの村の掟だった。各村から選ばれた娘達の中から魔王が一人を選び魔王城へ召し上げられる。花嫁と言っても実際に、どのような生活をしているのか、どんな扱いを受けているのか分からない。分かっている事は、選ばれる女は毎回何かに秀でた若い女という事。そして花嫁に選ばれた女は一度も村に戻ってこない。村人達は、それが花嫁と名ばかりの生贄だと分かってはいたが、魔王を恐れ皆一様に口を閉ざしていた。むしろ十八年に一度魔王に若い女を一人差し出せば、それ以降十八年間、魔物の被害を受けなくてすむのだ。節操がない、魔物被害の多い村は進んで女を差し出す所もあった。しかしそれも少数派、少女一人守れない屈辱と恥に、やりきれない気持ちと宿罪を隠すかのように選ばれた女を盛大な宴とともに送りだすのだ。
私たち二人は親友だった。家が近かったこと。産まれた日がたまたま同じだったこともあり、小さな頃からずっと一緒だった。カエラは綺麗なストレートの金髪を腰まで流し、鼻筋の通った綺麗な相貌にすらっと長い足、その美貌は周りの村の人達に語り草になる程だ。そんなカエラと対照的に私は、チビで鈍臭い。癖のついた髪の毛はカエラの綺麗な髪とは違い万年くるりと跳ね、毛の伸びたアルパカみたいだ。いつも一緒にいるそんな凸凹の二人は村でも目立ちよく、嘲笑とともに、主に私だが、不思議がられる事もよくあった。そんな周りの声にも私たちは耳をかさなかった。私達はいつだって一緒にいた。大きな雨が降り続いて村で被害が起きた時も、作物がとれず村で皆飢えそうな時も、カエラの両親が亡くなった時だって、私はカエラの事が好きだったし、カエラと一緒にいるのが楽しかった。怖くて聞いたことはないが、きっとカエラも私のことを、好きなんだと思う。……少なくとも嫌いではないはずだ。
今日もお母さんにカエラと一緒に裁縫を教えて貰っていた。簡単な刺繍と編み物だ。お母さんはすらすら綺麗な模様の刺繍を作ると、カエラも手際よくお母さんと同じものを縫いあげた。器用なカエラらしく、細かく精緻で綺麗だった。私はあまり上手くできなかったが、お母さんとカエラはそんな私を優しく教えてくれた。何とか少し歪みはあるが不器用ながらも、お母さんとカエラと同じものができた時は嬉しかった。二人は私と一緒に喜んでくれて、完成できた事よりも二人が喜んでくれることが刺繍ができたことよりも嬉しかった。そんな二人が大好きだった。
お母さんは時折、私とカエラを見て悲しそうな顔をする時がある。その理由は分かっていた。私たち二人は冬月産まれ、そして今年は十八周忌、ちょうど私たち十八歳の誕生日でもあり、それは私たちが魔王の花嫁候補になるという事だった。もちろん花嫁候補は私たち以外にもいる。だから、選ばれない可能性もあるのだろうが、村一番の器量と美貌を持ったカエラは花嫁に選ばれるのだろうと皆核心をもっていた。それはつまり、私が候補から外れることを意味していて、それが分かっているお母さんは安堵の表情と離れ離れになると分かっている私達二人を見て時折悲しそうな顔をするのだ。私はお母さんのその顔を見るのが嫌だった。
私はカエラの腕をギュッと握った。カエラは一度不思議そうな顔をするが、私の腕を握ると優しい顔で私を微笑んだ。絶対にカエラを魔王なんかに渡すもんか!
魔王の花嫁 賢者 @kennja
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