『恋愛論―私論、初恋の貴女を引きずる私―』

小田舵木

『恋愛論―私論、初恋の貴女を引きずる私―』

 私は以前、エッセイで睡眠薬の影響で夢を見ないと書いたが。

 最近は夢を見るようになった。アルバイトを始めた影響かも知れない。

 これは喜ばしいことである。とりもあえず、私の脳はレム睡眠を取れるようになった訳だ。

 だが。困った事もある。

 夢というモノは。過去の再生であることが多い。

 それは脳の機能の一部であり。否定すべきものではないのだが。

 私は過去に対していい印象を持っていない。私の人生は間違いだらけだったからだ。

 産まれた時から今に至るまで。間違いを犯し続けた男。それが私だ。

 そもそも学生時代は不登校で過ごし。就職してからはジョブホッパーなのだ。

 こりゃあ振り返りたくない。見れば見るほど過去の自分の愚かさに身震いするハメになる。

 

 過去の再生たる夢に悩まされる私。

 最近は夢見が最悪で。目覚めれば後悔の嵐。

 眠る事が至上の喜びの私にとって。これは困った事である。

 

 あと。夢に関して困った事がもう一つある。

 ある特定の人物が夢に出続けているのである。

 その人物とは―私の初恋の人であり。中学生の頃の同級生だ。

 その人物とは…一応両想いであった、私の勘違いでなければ。

 だが、私は完全なる不登校に至る前の最悪の状態であり。

 彼女に告白したが。登校しなければ付き合わない、と振られてしまった…

 今や。もう忘れるべき人物なのだが。私は忘れずにいる。

 それは。彼女が。私が恋した最後の人物だからだ。

 

                  ◆

 

 恋。

 それは人が人を恋うる事。最近は異性でなくとも良いらしい。

 私は。思春期の頃から社会人になった頃までは、自分で言うのも恥ずかしいがモテる方であった。今や鬱持ちのデブなのでモテることはないが。

 

 その私の恋愛遍歴の中で。

 数少ない自分から告白した人物。それが夢に出てくる彼女である。

 そういう意味で彼女は特別だ。私は案外、恋愛に関して自分から動く事は少なかった。

 彼女は現在。どうしているのだろう?

 もう私の事なぞ記憶の外にあるに違いない。

 これは経験則と俗説から割り出された予想である。

 

 一般に。過去の恋を引きずるのが男である。過去の恋を捨てられるのが女である。

 

 これは生物学的に考えると分かりやすい。メスは。過去に恋うた者に執着していては現在のオスとの関係にに支障をきたすからだ。

 これを思うと切ない気分になる。32になろうとしている私は未だに中学生の頃の恋に悩まされているのだから。相手は忘れているというのに。

 

                  ◆

 

 恋。それは下心と形容される事が多い。

 これは男性的に完全に否定出来ないのが苦しいところだ。

 男性の恋の原動力は性欲にあるからである。

 私は。確かにあの恋をしていた彼女に対して性欲を抱いていた。

 だが、同時に。精神的な部分でも好きであった―と強弁したいところでもある。

 まあ?強弁したところで。脳内が完全に形成されていない思春期の頃の話である。

 脳は。思春期には完全に形成されきっていない。だから衝動性が強い…のだと言う。神経科学的には。

 

 私は恋という衝動に突き動かされていたのだろうか?

 15の頃の私。思い出すだけで愚かだった私。

 …否定はできない。

 だが。その衝動性こそが。過去の彼女との恋を神聖にしているような気がしないでもない。

 

 言いようのない力強さの衝動。

 それは理屈で語れないモノだ。

 それに突き動かされるのは気持ちよかっただろう。

 微かにそんな感覚を覚えている。その頃の私にはそれを言語化する術はなかったが。

 

 まったく。なんで大人になってから俯瞰ふかん視出来るようになるのか?

 それが成長というものだが。その頃の私に知恵があれば。

 …知恵があれば?

 私は賢く立ち回ることが出来たのだろうか?

 少なくとも。告白した時に不登校を撤回して、付き合う事が出来ていたかも知れない。

 

 だがしかし。

 私が彼女と付き合う事が出来たとしたら?

 この恋は。記憶に残るモノではなかったような気がする。

 実際、高校生になってからや、社会人になってから付き合った女性は居るが。

 その女性たちの事は全く思い出さないのだ、私は。

 

 彼女が特別なのは。

 私が手に入れられそうで、手に入れられなかった、だからではなかろうか?

 

                  ◆

 

 人は一般に手にしたモノより手にしなかったモノに執着することが多い…

 と一般論で語りだしたが。これは私論なのかも知れない。

 少なくとも私は。過去に手に入れられなかったモノに後悔を負いがちだ。

 彼女をモノ扱いするのもどうかと思うが。私は彼女を手にしたかったのだろう。

 彼女を。理解し、隅々まで知ってしまいたかった。

 これは。彼女だけに抱いた感情である。

 なにせ、高校生に入ってからの恋愛はセクシャルな要素が絡みすぎている。

 中学生の頃の方が、純粋に女性を見ていたような気がする。

 

 女性は彼岸の存在。

 アニメ、『エヴァンゲリオン』で加持リョウジが語っていた事である。

 私は始めて『エヴァンゲリオン』を見た中学生の頃はこの言葉にピンと来なかったが、今は身に沁みて分かる。

 

 …私は。女性が分からない。

 一応、3歳上の姉が居るが。全く女性という存在は意味が分からない。

 分からないからこそ好奇心が刺激されるという要素もあるが。

 

 今や、女性を知ろうとすることが面倒くさい。

 これは性欲の減退と関連付ける事が出来る。

 若い頃の私は。とかく性欲に突き動かされ。

 女性を理解するフリをしてきたが。

 本当は全く理解してなかったし、理解する気もなかっただろう。

 

 性欲が減退した私は。

 女性という存在が面倒くさい。

 そもそも。生理周期で機嫌がコロコロ変わる生き物は相手がし辛いのである。大変失礼な物言いだが。

 それに。

 女性には女性の人生観がある。これも安っぽいジェンダー論で申し訳ないが。

 だから。そもそも理解し合う事が不可能にも思える。

 これは。生物学的に考えると普通の事だ。

 女性には女性の性役割があり。男性には男性の性役割がある。

 これは男女同権を振りかざそうが揺るがない事実だと私は思う。

 

 私達は。

 理解不能な生き物とコミュニケートするのに夢中なのである。私から言わせれば。

 それは配偶者を得て、子孫を残すという力強い動機があるから。

 私達は遺伝子の奴隷なのである。遺伝子のキャリア。

 だが。そんな動機を除いた時。私達は理解し合うようになるだろうか?

 私は。そうは思えない。

 オスはオスとつるみ、メスはメスと連むような気がする。

 その方が楽だから。そして異性の相手はエイリアンみたいなモノである。

 

 ああ。性別って面倒くさいなあ。

 これがここまで考えてきた私の感想だ。

 性別なんてなければ。私は少しは生き易かったに違いない。

 少なくとも性欲のような糞衝動に行動をコントロールされる事はなかっただろう。

 

                  ◆

 

 大分、論がひねくれてきた。

 私は何を考えていたんだっけ?

 確か、初恋の人が忘れられないって話をしていたと思うのだが。

 これも。男性の性がなせる業だと思うと。

 つくづく性別が憎たらしくなる。

 ああ。女のように。過去を引きずらない人生が送れれば。

 なんて思うが。これは単に私が女々しいからだろうか。

 

 もう17年も昔の話だ。

 いい加減、記憶の底に封印してしまいたい気持ちもあるが。

 それは不可能だろう。それは私が男だからではなく。

 

 もう。恋は一生しない、という気持ちがなせる業のような気がする。

 

 一応、私にだって性欲はまだある。

 だが、醜く太ってしまった今、もう女性は私の事など見ない。

 それに。私自身が女性という存在に疲れてしまっている。

 性欲なんぞは。エロ動画でも見てれば何処かに消える。

 

 私はもう、恋とか愛とか面倒くさい。

 その為に努力するのも面倒くさい。

 一人の人生をささやかに送りたい。そして50でさっさと死にたい。

 そう、私は遺伝子のキャリアとして故障してしまっているのだ。

 これがうつの影響かは分からない。

 だが。今の負け組な私は。この世界に自分の遺伝子のコピーをばら撒きたくない。

 子どもとか考えるとゾッとするのである。

 これは両親には申し訳ない事だが。まあ、今のご時世なら許してもらえると思う。

 

                  ◆

 

 私は。

 15の頃に初めてで最後の恋をした。

 それは叶わぬ恋であった。私が引きこもりになる寸前の話だったから。

 そして。私は32の今までこの特別な恋を引きずっている。

 それは手に入らぬものだったからだ。一生をかけても手には入るまい。

 だが。それで良かったのかも知れない。

 もし。彼女と付き合っていようが。私は彼女を理解することなど不可能だったからだ。

 これが今までの人生の蓄積が出した結論である。

 

 ああ。たったこれだけの事を考えるのに。

 17年と3500字超を使ってしまったのか。ああ、勿体ない。

 こんなモノは、こんな感情は。15の時に解消しとくべきモノだった。

 

 …なんて思うが。

 何でだろう?この感情は私にとって大事なモノのような気がする。

 これがあるから。私はこの17年を生きてこれたような気がしなくもないのだ。根拠もなく。

 

 とりあえず。

 この感情をくれた彼女に。

 ウェブの片隅のこの雑文で。感謝を述べる。

 ありがとう。大切なモノをくれて。

 願わくば。貴女の人生が幸せなモノになりますように。

 

 

 

 

 

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『恋愛論―私論、初恋の貴女を引きずる私―』 小田舵木 @odakajiki

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