第139話 解放のクロノスタシス
過去から戻ってきていろんなことがあった。
紅百合に想いを告げ、それを受け入れてもらえた。
店長が気をきかせてくれたこともあり、職場に復帰することもできた。彼曰く、白君がそんなに簡単にくたばるわけがないとのこと。俺をなんだと思っているんだ。
借金についても生命保険なや事故の示談金などでうまいことなくなり、俺は晴れて自由の身となったといえるだろう。
そして、今――
「少しは節度というものを覚えなさい」
「「申し訳ございません……」」
俺と紅百合は恵莉花さんの前で仲良く正座させられていた。
「まったく、仲良し夫婦なのはいいことだけど、朱ちゃんがいるんだから少しは自重しなさい」
「返す言葉もございません」
俺達が説教をされている理由はただ一つ。
娘である
焦った俺達は育て屋ごっこという無理のある言い訳をするはめになった。
「あなた達だって見られるのは気まずいでしょ?」
「はい……」
「それはそれで……」
「えっ」
紅百合が頬を染めて俯く。やめろ、母親の前でそういう反応をするな。義理の息子の俺が果てしなく気まずい。
思えば紅百合は出会った頃から性癖がアレだった。
俺のせいでさらに歪んだところもあるので、恵莉花さんには申し訳ない限りである。
「と、とにかく、夫婦の時間が欲しいなら私も協力するから、朱ちゃんの前では控えること! いいわね?」
「「はい……」」
恵莉花さんの説教も終わり、俺達は痺れた足をさすりながらのんびりと過ごしていた。
「あー、お母さんの説教長かったぁ。昔はそんなに怒られなかった分が回ってきてる気がするわ……」
「やらかして母親に叱られるのも子供の仕事だし、いいんじゃねぇの?」
「あたし、もうアラフォーで一児の母なんだけど……」
俺が目覚めてからそれなりに時間も経つし、仕方のないことである。
過去から戻ってきた勢いのまま俺と紅百合は結婚し、そのまま英家に住むことになった。
娘ができたときも全面的にサポートしてもらったこともあり、俺は義両親である雄一さんと恵莉花さんには頭が上がらない。
「ガキの頃甘えられなかった分、甘えればいいだろ。もちろん、朱の前じゃ母親らしくするべきだとは思うけどな」
少なくとも、俺のように孤独な幼少期は過ごさせたくない。
俺は店長のおかげで融通は利くし、紅百合は新しく喫茶店でパートとして働いている。
年齢的にも本人はパートのおばちゃんを自称しているが、どう見てもバイト先のお姉さんにしか見えないだろう。
アラフォーで一児の母といっても、パッと見二十代にしか見えないからな。
旦那の俺としては若さを搾り取られてる気分である。
「そういえば、朱のことなんだけど」
「ん?」
俺がそんなことを考えていると、紅百合が何かを思い出したかのように話題を切り出してきた。
「なんか最近バスケにハマってるらしいのよね」
「ゲームにハマりすぎるよりいいんじゃないか?」
「それは、そうなんだけど……ハマった理由が、近所の公園でバスケを教えてるお姉さんがいるらしくてね。その人が格好良かったから、らしいのよ」
「別にいいんじゃないか」
どうやら、朱はそのバスケのお姉さんに憧れているようだ。
もう何度も関わっているっぽいし、悪い人ではないだろう。
しかし、紅百合はどこか複雑そうな表情をしていた。
「いやぁ、でも、ほら、やっぱり知らない人と仲良くなってるのは不安じゃない?」
「それもそうか。なら、今度挨拶にでも行っておくか」
この辺は、どうしても感覚の違いが出てしまう部分だ。
放任主義過ぎるのも良くないし、紅百合の意見にも同意できる。
「助かるわ。やっぱり持つべきものは頼りになる旦那ね!」
「助けられてるのはこっちだっての」
こうして俺達の平和な日常は続いていく――愛する最高の家族と共に。
未来じゃ共依存! サニキ リオ @saniki_rio
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