第138話 未来に至るまでの罰
目を覚ましたとき、あたしは絶望した。
まず目を覚ましてしまったこと。
両親から逃げ、大好きな人から逃げ、自分の気持ちからも逃げた。
大量に睡眠薬を飲めば、そのまま眠ったままでいられると思っていた。
でも、そうはならなかった。
泣き崩れて喜ぶ両親を前にあたしは何も言えなかった。
ただただ目を覚ましてしまったことに嫌気が差していたのだ。
それだけなら今までの繰り返しで済んだのに。
「えっ……純が意識不明の重体?」
お母さん達は純のことについて何も言わなかった。
あたしが純の容態について知ったのは、あたしが退院してからのことだった。
連絡が取れないだけなら関係を切られただけと思えた。
[白純:今から店いくけど、いつもの席空いてるよな?]
でも、あたしが長い眠りについたその日に送られてきたメッセージを見てそうは思えなかった。
『それとも純にはいるの? 必死になれるほど好きになれる人』
『いねぇよ』
以前、あたしの質問に純は鼻の頭を掻きながらそう答えた。
その癖は何度も見てきた純が嘘をつくときの癖だった。
そう何度も見てきたのだ。
純があたしのことを好きだってことくらいわかってた。わかってた癖に逃げていた。
「まさか……」
必死になれるほど好きな人が自殺を図った。そして、病院で意識を失って横たわっていた姿を見たとき、どんな気持ちになるだろうか。
「いや、いやよ……!」
その気持ちをあたしは痛いほどにわからされることとなった。
「純、どうして……!」
純は頭に包帯を巻かれた状態で病院のベッドで横になっていた。
「どうしてよ……!」
そんな台詞を吐いてみるが、白々しいにもほどがあった。
全部あたしのせいだったというのに。
お母さん達曰く、純はあたしの容態を見たあと、呆然と病室を出ていってそのまま事故にあったようだ。
こんなのどう考えてもあたしのせいだ。
あたしが何もかもから逃げたから純は、こんなことになってしまったのだ。
「純、目を覚ましてよ……!」
あたしはそう願わずにはいられなかった。
このまま純が目覚めなかったらと思うだけで息が苦しくなる。
ねえ、お願いだから目を覚ましてよ。
またあたしの名前を呼んでよ。
頭を撫でてよ。
抱きしめてよ。
キスしてよ。
でも、そんな願いもむなしく純は眠り続けたまま。
どんなに苦しくてもあたしはもう逃げることは許されない。
一生懸命生きて、純が目を覚ますのを待つ。
それだけがあたしの生きる意味。
今日もあたしは純の病室へと通う。
その苦しみが報われることになるのは、二年後のことだった。
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