第4章 レイ兄様の誕生日

第29話 1週間

「ラナ様、おはようございます」

「うん、おはようエディス」


 いつもの起床時間より1時間程早いこの時間。外は薄暗く、寒さが身に染みる。

 ……よし、今から起きよう! 起きるよ! せーの!

 と言ったように自分を鼓舞し、気合を入れて起きる。

 なぜなら今日はお父様たちにいってらっしゃいを言う日だからだ。

 1週間程前、いつもより早い時間に目が覚め、偶然いってらっしゃいと言うことができた日があった。そうしたら思った以上に喜んでもらえた。

 味を占めた私は次の日も早く起きたいとエディスに相談する。だが今までのルーティーンが崩れるのは心配だと言われてしまった。

 このルーティーンだと寝過ぎな気もするが、早起きした日は必ずと言っていいほど眠くなる。私は睡眠時間を長めにとらないといけないようだ。

 そこで妥協案として1週間に一度だけ早起きをしていってらっしゃいを言うということになった。

 今日はその第一回目である。

 エディスに手伝ってもらいながら朝の準備をした。

 屋敷のみんなに挨拶をしながら食堂へ行く。


「おはようございます!」

「うん、おはようラナ」

「おはよう、良く眠れたようね」

「おはよう。……朝からラナと会えるなんて、嬉しすぎる。最高だ。幸せ。ありがとう」


 お父様たちは各々挨拶を返してくれた。

 レイ兄様、心の声が溢れるレパートリーが増えてない? ……いつの間に進化したのかな? まあ、進化という言い方があってるのかは分からないけど。

 席に着いて、お父様の合図で食事の時間は始まる。


「いただきます!」


 私は元気良くそう言って食べはじめた。

 お父様とお母様は不思議そうにこちらを見ている。


「……あの、何かありますか?」

「ああ、うん。その『いただきます』というのは何かな、と、気になったんだ」


 お母様も同意するように頷いている。

 そっか、この国では「いただきます」と「ごちそうさまでした」という文化はないのか。今まで何回か無意識に言っていた気がするけど、突っ込まれたのは初めてだ。

 果たしてなんと言うべきか……。


「……東方の国では食事を始めるときに『いただきます』、終わるときに『ごちそうさまでした』という文化があるらしいですね。ラナはそれを真似しているのでは?」

「そうなの? ラナ?」


 レイ兄様! ナイス助け舟! ぎりぎり嘘はついてないね。ありがとう!

 よし、そういうことにしよう!


「そうです。本で読んだと思います」

「そうなのか。……良いね、是非ともブライト公爵家うちで取り入れよう」


 その言葉の通り、朝ご飯の最後にみんなで手を合わせてごちそうさまでしたと言った。

 七海の頃を思い出してしまって少しだけ寂しくなったのは誰にも言わない。




「──それでは行ってくるね」

「はい! お父様、お母様、レイ兄様、いってらっしゃいませ!」

「いってきますね」

「いってきます。……行きたくない。ラナから離れたくない。でもこんな可愛い妹にいってらっしゃいと言われたからには行かないと……」


 レイ兄様は何かに葛藤している。

 そしてやっぱり心の声が溢れるレパートリーは増えてるね。

 ……あ、お父様とお母様はもう出発したよ!

 このままだと遅れない? 大丈夫?

 とりあえずもう一度言ってみよう!


「レイ兄様! いってらっしゃい!」

「……うん! いってきます!」


 レイ兄様は今度こそ出発した。

 よし、任務完了だ。……何の任務かって? お父様たちにいってらっしゃいと言う大切な任務です。




 お昼過ぎ、ティータイムの時間になった。私は相変わらずのんびりと過ごしている。

 ……何か忘れているような気がするんだよなぁ。とても大切なことを。

 1月に関わることだったような?


「……あ!?」


 忘れていた……。ゼロ兄ちゃんの誕生日、1月21日だった。

 でも、レイ兄様の誕生日はどうなんだろう?

 何事かとこちらを見ているエディスに聞いてみよう。


「……ねえエディス、レイ兄様の誕生日って1月21日1週間後だったりしない?」

「? はい、そうですよ?」


 ……そうだったー!?

 前世と誕生日一緒なのかな!? え? じゃあ私の誕生日は?


「……わ、私の誕生日っていつ?」

「9月1日ですよ?」


 七海の誕生日も9月1日。……まさかの前世と同じだった。びっくり。

 でもそれは今考えなくて良い。

 なぜなら、レイ兄様の誕生日の方が重要だからだ。本当に何も用意してない。一大事過ぎる。

 どうしよう? 何をプレゼントしようかな? ……そもそも私何か買えるようなお金持ってるのかな?


「……ラナ様。一度落ち着きましょう」

「そ、そうだね。深呼吸しよう」


 大きく息を吸って、吐いてを数回繰り返す。だんだんと頭がクリアになってきた。

 流石リラックス方法の一つ、深呼吸。効果は抜群だ。


「……突然取り乱してごめんね。ちょっと落ち着いた」

「はい、落ち着かれたようでよかったです。……何か悩み事などありましたらお聴きしますよ?」


 確かにこれは一人で考えていても何もできないか。

 とりあえずエディスに話してみよう。

 ……でもエディス、レイ兄様に話さないかな? 結構頻繁に会話してるし。まあでも、話さないでと言ったらきっと話さないでいてくれるはず!


「うん、ありがとう。実はね、レイ兄様に誕生日プレゼントを贈りたいんだけど、そもそも私が使えるお金ってあるのかなぁって……」

「それでしたらございますよ」

「え? あるの? どうして?」

「ラナ様は公爵令嬢であらせられますから、生きているだけで毎月収入がございます」


 まさかの……!? 生きてるだけでお金がもらえる!?

 公爵令嬢だから? それにしても何でだろう?

 っていうかどれぐらいあるんだろう? その疑問をエディスにぶつけたら更に衝撃的なことを言われた。

 そこそこ広い家が建つぐらいはある、と。

 ……あるのかぁ。そんなにあるんだね。

 プレゼントに贈るようなものはほとんど何でも買えてしまう。

 それに4歳の私でそれだったら、11歳のレイ兄様はもっとあるだろう。

 欲しいものは手に入れてるよね? さて、どうしようか?

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ネットの兄と異世界転生? 〜本当の兄妹になったからにはお兄様に甘えまくるぞ!〜 色葉みと @mitohano

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