第28話 パーティー

「ラナ嬢はユーイン第二王子と同じ4歳だよな?」

「はい、4歳です」

「そうか。すでに完成されたようなしっかりとした挨拶で驚いてしまったよ」

「! ありがとうございます」


 まさかの国王陛下からほめられてしまった。びっくりだけど嬉しい。

 カーテシーと挨拶、練習してよかった……!

 その後、お父様と国王陛下は少しだけお話しをしていた。


「——では、私たちはこの辺りで失礼致しますね」

「ああ、また後で話そう」


 そうして王族の皆様の前から下がり、広間の端の方へ来た。

 ちなみにレイ兄様は来る時と同じようにエスコートをしてくれた。嬉しい。


「ラナ、陛下に褒められていたね。本当に素敵な挨拶だったよ」

「お父様、ありがとうございます」

「父上の言う通り、素敵だったよ。いつの間に練習したの?」

「レイ兄様ありがとう。お母様とエディスと秘密の特訓をしていたよ」

「あらあら、言ったら秘密ではなくなってしまうわね。練習の成果が出ていたようでわたくしも嬉しいわ」

「あ……、そうですね。秘密じゃなくなっちゃいました。でもお父様とレイ兄様なので良いんです!」


 私たちの間に和やかな空気が流れる。

 なんか良いなぁ。家族って感じがする。心の中のラナもにこにこ笑顔になっている気がした。

 そんな中、さて、とお父様は話を切り出す。


「私とリリーは挨拶回りに行ってくるよ。二人はどうする? 付いてきても良いし、端の方で休んでいても良いよ」

「ラナはどうしたい?」

「うーん、少し疲れたから休憩したいな。レイ兄様はどうするの?」

「俺はラナと一緒にいるよ」


 そんなこんなでお父様とお母様は挨拶回りに向かった。

 私はレイ兄様と壁際に置いてあるソファーに座る。


「流石に疲れたね」

「ふふ、そうだね。でもパーティーはまだ始まったばかりだよ」

「そうだよね……」


 おそらくパーティー開始から30分ぐらいしか経ってないし。

 ……まあなんとかなるか。なんとかしよう。

 そのために座って休憩だ。

 あれ? 子ども5人組がこちらに向かって真っ直ぐ歩いてきてない? ……気のせい、だよね? というか気のせいであってくれ!

 だってその中心には第二王子殿下がいるんだから!


「レイ兄様」

「何かな?」


 レイ兄様はめちゃくちゃ良い笑顔だ。うん、これは察してるね。私ももちろん良い笑顔をしている。

 そしてお互いに頷き合って確認する。逃げるということを。

 私たちはすっと立ち上がった。レイ兄様の手をとり、ほんの少し早めに歩く。


「ところで、どこに向かってるの?」

「父上と母上のところだよ。これは俺たちだけで対処できそうにないからね」

「確かに——」

「おい! 止まれ!」


 後ろの方で誰かが叫んだ。おそらく第二王子殿下だろう。

 だが、私たちは止まらない。まだ名指しで呼ばれてないからね。

 これも時間の問題だろうけど。


「止まれって言ってる! ブライトこうしゃく家のラナ!」


 流石に言い訳ができなくなったので止まった。

 レイ兄様がさっきよりより良い笑顔になってる……。これは、怒ってない?

 面倒臭いポイントはたくさんあるけど、怒るポイントあったかな? そして怒る時笑顔になるんだね。

 そんなことを考えていくうちにも第二王子殿下一行は近づいてきた。周囲に目を向けてみると、たくさんの人がじろじろと私たちを見ている。

 レイ兄様は私を庇うように一歩前へ出た。


「……何かご用でしょうか?」

「お前に用はない。オレはそこにいるラナに用がある」

「……妹にどのようなご用でしょうか?」

「お前には関係ないだろ」


 レイ兄様と第二王子殿下はばちばちと火花を散らしている。

 レイ兄様がんばれ〜! と心の中でそっと応援をした。


「……いいえ、関係はありますよ。ラナは大切な妹ですから」


 ……レイ兄様、かっこいい。

 私がそう思う一方、何かに思うところがあったのか、第二王子殿下はすたすたと近づいてきた。その顔は怒りで真っ赤になっている。

 第二王子殿下は思い切り体当たりをしてレイ兄様をよろめかせ、私に手を伸ばす。

 ……え? 何!? レイ兄様大丈夫? 私はどうすれば良い!?

 心配と混乱からとりあえずレイ兄様に向かって手を伸ばした。

 だがその手は届くことはなく、第二王子殿下に掴まれてしまう。


「痛っ」


 手首の痛みに思わず顔をしかめる。相手は子どもだが、私も子どもなのだ。

 第二王子殿下は大きく手を振り上げる。

 あ、これ叩かれるやつじゃない? 混乱が一周回って妙に冷静になった。そんな自分が状況を俯瞰している。

 レイ兄様が止めようと手を伸ばしてくるのが見えた。


 パチン!


 ……叩かれた。思いっきり叩かれた。

 左頬が痛い。

 レイ兄様は座り込んでしまった私に寄り添ってくれる。


「お前なんか! お前なんか! 父上にほめられるようなヤツじゃない!」


 ……なんか捨て台詞的なものも言われた。

 第二王子殿下……、いやもう第二王子でいいか。何考えてこの行動に走ったの?

 そして、この状況どうしよう?

 ふと笑顔は最大の武器よと言ったお母様が浮かんだ。

 そうですね。笑顔は最大の武器。ならばこの状況も笑ってみよう。叩いた相手がにこにこしていたらちょっとは怯んだり怖がったりするだろうからね。

 怒りの感情を通り越して何で? って気持ちが強い。というか第二王子にこれ以上関わりたくない。自分の感情を動かしたくない。

 その気持ちを込めてお母様直伝? の作り笑いを浮かべてみる。


「……な、なんで笑ってる?」


 その言葉には返さず、ただただ作り笑いを浮かべる。


「……ラナ! レイ! 大丈夫か!?」

「ユーイン、何をしている?」

「父上、国王陛下——」


 その後、状況説明をしたり手当をしてもらったりした。

 一時騒然となった会場も、少ししたらもとの空気感に戻ったらしい。ちなみに、らしいというのはお母様から聞いた話だからだ。




「……はぁ」

「ため息が多いですね」

「そうだね。ごめんね、エディス」

「謝らないでください。悪いのは第二王子殿下ですから」


 そのエディスの言葉に苦笑してしまった。

 新年のパーティーから数日が経った。左頬はまだ少し痛む。ちなみに、これがため息の原因だったりする。

 あの日からエディスは第二王子を敵認定したようだ。


 コンコンコン


「お邪魔します」


 扉からひょっこりと顔を出したのはレイ兄様だった。

 下がっていたはずのテンションはいつの間にか上がっている。


「レイ兄様! いらっしゃい」

「うん、頬はまだ痛む?」

「……少しだけね」

「そっか。ところでラナ、一緒にティータイムはどう?」

「良いね! やりたい!」


 例の件に関して、お父様と国王陛下大人の間で何かしらの話はあったはず。と考えてみるが、何も言われていないということは大丈夫なんだろう。

 うん、気にしないでおこう。

 それより今はティータイムだ。

 お茶の用意がされていると言う場所にはお父様とお母様が居た。一緒にお茶をするらしい。

 やったね……! 家族団欒の時間だ!

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