無人コストコ

ブロッコリー展

COSTCO

「誰かいませんか〜?」僕の声が響く。広いコストコの店内。


応答はない。


「ごめんくださ〜い」


こんな広い施設内で“ごめんくださ〜い”なんて言ったことないし、それが適当なのかさえわかない。


英語の方がいいかな。でも英語をでかい声で叫んだことがなくて断念する。


腕時計を確かめる。


開店時間はとっくに過ぎてる。


誰もいない。


スタッフも客も、僕以外は誰も。


お掃除ロボでも通れば少しは現実感が出るのに、それすらない。


ま、ミーティングでもしてるんだろう。


とりあえずカートを引っ張り出してショッピングを始める。


無人だと無駄遣いしてしまいそうな気になるのはなんでだろうか。


ピザの焼ける匂い??  


「あっ痛」とそこで僕は思わず声を出した。


何かが背中に当たったからだ。


それは床からの攻撃だった。


見るとちっちゃな人たちが僕に防犯撃退グッズで攻撃してきていた。


コストコのスタッフさんの格好の人たちもいる。


しゃがんで事情を聞いてみると、どうやら今日は、


“昆虫サイズになって何倍もコストコを楽しむ”というSDGsイベントの日だったらしい。踏んづけられそうで危ないから攻撃したんだそうだ。


申し訳ない。


みんな、入り口のところにある専用の機械で昆虫サイズになってから買い物をしているらしい。


つまり無人なんかじゃないわけだ。


よく見ると、あちこちに小さくなった人たちが群がっているのに気づいた。


てかピザ食べきれないだろ!?


上の方の商品どうすんだろ!?


まず一日じゃまわりきれんな。


疑問が湧きまくる。


とにかく今や僕はこのコストコで暴れ回るゴジラのような存在なってしまった。足元に気をつけよう。


再び床付近からプラカードのメッセージが来た。


「お客様がお呼びです」とのこと。


あのー、僕は客ですけど……。


家電が大きすぎて運べないらしい。


そりゃそうだ、みんな小さくなりすぎてるんだから。


その後もあちこちから僕にSOSが来る。


イベント主催者の見通し甘すぎないか、僕がこうやって間違って入らなかったらどうするつもりだったのだろう。


仕方なくバリバリ働く。


ようやく軌道に乗ってきたときに、とんでもないことが起こる。


えっ💦コストコにマジのゴジラが現る!?


いや、犬だ。ラブラドール•レトリーバー。かなり巨大な。


あろうことか、ペットとして外で待っていた犬が入り口の機械を誤操作して巨大になって入ってきてしまったのだ。


今度はウルトラマンやらされるのかよ(ため息)。


急いでフォークリフトを借りて、商品をパレットごとコストコテトリスしてバリケードを作るも、巨大犬のくしゃみ一発で、即撃沈。


無理ゲーって英語でなんていうのかな……。


なんとか、飼い主の人がパンコーナーのクロワッサンの上で見つかって、耳を近づけて手懐てなずけ方を教わる。


防災用品コーナーの拡声器を使って名前を呼ぶ。


「ココちゃん」


しっぽを振る。そのしっぽが棚の上のあちこちの商品を崩し落とす。まーそうなるわな。


喜んで吠えるととんでもない爆音だ。


危ないので全員にすみっこの冷凍品コーナーに避難しておいてもらう。


改めて対峙すると僕よりかなりでかい。犬の頭はコストコの高い天井を突き破りそうな勢い。対する僕は普通の人間サイズなのだから、とても太刀打ちできない。


でも昆虫サイズの人たちからすると僕はウルトラマンサイズという、なんとも厄介な展開だ。


「お手」と僕は試しにやってみた。


嬉しそうに巨大犬が前足を乗せててこようとする。


でも確実に潰されるので、


「待て」に変える。


なんとかこの犬を機械のところまで誘導するしかない。


そっか!ここはコストコだからペットフードは山ほどあるんだった。


僕はペットコーナーに急いで、アメリカサイズのドックフードの封を片っ端から開けて床にばら撒く、


そのまま入り口の機械への導線にして誘う作戦だ。


でも僕は忘れていた。この犬の食べるサイズもモンスター級なことを……。


ほとんどひと舐めで完食してしまった。


やばい、万事休すか。


巨大犬はなんの悪気もない顔でありがとうの意味で僕を舐めてくれようとするが、あのサイズに舐められたら僕は危機的な状況になる。


その時だった。


突然コストコの電化製品たちが合体しだし、遂には巨大なロボになった。やればできるじゃんコストコ。


しかも、競合するメーカー同士の製品なのにうまく合体できるなんてすごいっす。


僕がくだらないことに感心しているうちに、


犬と同じサイズのロボはあっという間に手懐けてしまい、入り口にある機械を使って犬を元のサイズへ。



助かった。


余韻に浸る間もなくロボはそのまま大統領選挙に立候補するために本国へ飛び立っていた。


もはや意味不だ。


コストコ内にはまた静けさが戻った。


もはや僕は自分のサイズ感がわからなくなっていた。


イベントもそのまま中止になり、みんなぞろぞろと普通のサイズに戻って、いつものコストコの風景に戻った。


僕は何を買いたかったか忘れてしまい、新しく新設された『何を買いたいかわからない人向けのコーナー』に向かった。


最近需要があるんだそうだ。






                      終

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無人コストコ ブロッコリー展 @broccoli_boy

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