いちいち彗星のごとく現れる男

ブロッコリー展

☄️

かつてモハメド・アリは「部屋の明かりを消してから暗くなるまでの間にベッドに入ることができる」と言っていた。ちょっと速すぎると思う。


── その朝、目覚ましはいつも通り6時にセットしていた。でも、とんでもない時間に彗星のごとく目覚めてしまったので、ランニングでもすることにした。


爽やかな朝。彗星のごとく走り終えて帰宅。家を通過してしまわないように注意する。以前に、彗星のごとく家を通過してしまい、戻ってくるまでにえらい周期かかってしまったことがあるからだ。


シャワーを浴び、朝食、身支度。そういうのはすごく遅い。金曜日の今日は仕事のあとに合コンがある日なのでそういうのもある。


男が1人足りないとかで彗星のごとくメンバー入りできた。


それにしてもクローゼットの中にスパンコールのステージ衣装みたいなのがいっぱいあるのはなんでだろう。自分でもよくわからない。


バッチリ決まって靴を履く。いつもの時間の電車に遅れそうだ。急ぐ。


なんとか彗星のごとく山手線に飛び乗った。


僕が電車に彗星のごとく乗ると、高い確率で磁場が乱れてしまって迷惑をかけてしまうので、きちんと彗星専用車両に乗る。今日はなぜか彗星群のようにめちゃくちゃ混んでる。


彗星のごとく出社。


朝、トイレでいつも一緒になる人から「相変わらず用を足すの早いな」と言われる。


オフィス内で鳴っている電話を彗星のごとく片っ端からとる。


彗星のごとき早口でクレーム対応。


彗星のごとく歩き回っていたら社内で迷子になってしまう。


あっという間にお昼。社員食堂は行列。でも僕は彗星ごとく食べ終える。ステリーネ。


午後も頑張る。合コンのために。


新人くんが焦ってゴミを散らかしてしまい、箒は僕が一番早いので掃除する。


新プロジェクトのキックオフミーティングがあって、願掛けのために僕が会議室の中を流れるように走り回って、その間にみんなは成功を祈ったりしていた。


少しの残業を終え「お先です」と僕。


「いいなー、このあと合コンでしょ?」と先輩たち。


「僕なんかただの数合わせなだけっすから」


「そんなこと言っちゃって、彗星のごとく彼女できちゃうんじゃないの?」


「いや、ぜったいないっすよ」と頭をかきかき言いながらも僕は、窓清掃用のゴンドラで素早く1階まで降りる。やる気満々なのだ。


教えてもらっていた合コン会場到着。星のつくお洒落なお店。


「おそくなって、ごめーん」と僕。すでに乾杯の態勢。


僕のことを知らない女の子たちは「あれ??いつの間に座ってたの?」と、驚いた顔だ。


それに対して仲間が、「あ、ごめん、こいつ昔から彗星のごとく現れちゃうとこあってさ」とか雑だ。


「すいやせん……」


さらっと流して欲しかったかったけど、女の子たちは「えーおもしろー」とか「もっと彗星やってよ」とか掘り下げてきた。


仲間もいっしょになって「そうだ、やれやれ」と煽ってくる。


そういうのは僕は彗星のごとく傷つく。


でもそこでアストライアのような女神現る。


一番端っこでつまらなそうにしていた女の子が助けてくれた。


「もうよしなよ。乾杯もしてないのに。それに彗星がどこから来るかは現時点では明確にわかってないんだからね。彼を太陽系の果てに追いやるつもり?」


どんな星よりも彼女が輝いて見えた。


彗星の主成分は氷。


僕は斜め向かいに座るその彼女の飲み物の氷になりたくなった。彼女の指先で優しく溶かして欲しいっす。


恋なんだと思う。


一次会の後に思い切って彼女を僕の軌道上に誘ったらOKもらえた。


彗星やっててよかった。


その後の僕らの恋の観測日時は、


おそらくは誰にも予測できやしないだろう。






                      終

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