歌舞伎の裏路地で。
@yu_05
第1話 冷たい日曜の朝
いつから彼と私の気持ちがすれ違ってしまったのか。
「この人と結婚して生涯を共にしたい。」それは紛れもなく私だけの気持ちだった。
「ごめん。俺が悪い。」
結局それの繰り返し。彼はいつもそうだった。でも今回だけは何かが違った。
いつもなら震えた声と目尻に大粒の涙を滲ませているはずが目の前の彼は覚悟を決めたようにまっすぐに私を見て
「もう香純とのこれからを考えられない」
それが記憶にある最後の彼の言葉だった。
私だけが追いつけないまま時は過ぎていき気づけば彼は私の家から姿を消していた
しばらくはその場から動けずに彼が去ってからも玄関の先を見つめていた
日が出てから初めて知った
人は本当に悲しく辛い時涙が出ないことを
日が顔を照らしてからようやく状況を理解出来てやっと涙が1粒だけこぼれた
そこから何かが切れたかのように頬を濡らし続ける。自分が自分でないようだった。身も心も崩れていくのが自分でもわかる。
「香純」
まだ本当は近くにいるのではないか。そんな錯覚を起こそうとすると同時に「ごめん」そんな言葉が現実へ一気に引き戻していく
涙が乾ききったのは午前10時をすぎる頃だった。泣きすぎて頭が痛い
スマホに1件のメールが届きそのバイブ音で少し我に返ることができた。スマホに視線をずらすと彼とのツーショットが画面に浮かび上がってくる。
「はは」
乾いた笑いが空白の部屋を埋めた。
何をすればいいんだろう
ふとそんな疑問が頭をよぎる。ここ最近仕事以外では彼との時間が半分以上だったため一人で過ごすことに慣れていない。
ソファーにべったりつけていた背中が少し痛む。変な体制で寝てしまっていたのだろうか
ゆっくりと体を起こして私はひんやりとした床に足をつける
ぬくもりのない場所はこんなにも冷たいのか
歌舞伎の裏路地で。 @yu_05
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