11月

『スライム』

ぽろりと零れた涙がスライムになった。

ぽよぽよぷよぷよ跳ね回って、私の手に乗ったり、指の間に挟まってぷるぷる震えたり、ころころ転がったりしていたけれど、涙が乾くのとおんなじくらいに蒸発して消えてしまった。

ほんのりとした切なさだけが胸に残ったので、私は立ち上がって大きく伸びをした。

(2022/11/13)


『いのち』

ふやふやと泣き続ける小さな体を抱きしめる。

私の腕の中に、いのちがある。私がいなければ、これは生きていかれない。生殺与奪の権は私が全部握っている。そんな、いのちがある。

これはきっと夢だ。それはよく分かってる。

だから、このあたたかくて重たいいのちを、ただひたすら抱きしめていよう。

(2022/11/16)


『北風』

寒さに染まった頬を両手で包むと、君はますます色づいた。手に伝わる冷たさにひやりとする。

まだ冬の足音が聞こえてきたばかりなのに、君はこんなに冷たい。

ずっと腕の中に隠して、温もりを分けてあげられたらいいのに。

北風に攫われてしまいそうな君を、今はただ、行かないでくれと抱きしめる。

(2022/11/19)


『影』

影が伸びすぎたので、半分ちょきんと切り取った。

真っ黒かと思っていたら、地面の色と混ざったのか少し茶色いようだ。

ペラペラだから、何かを包むのにちょうどいい。まぁまぁサイズもあるから、色んなものが包めるだろう。

くるくる丸めた影を握って家路についた。半分になった影が追いかけてくる。

(2022/11/22)


『支える』

明けない夜はないけど、沈まない太陽だってない。ずっと落ち込んではいられないけど、ずっと元気でいられるわけじゃない。

隣で膝を抱えながら笑う練習をしている君は、まるで沈まない太陽になろうとしているように見えるから。

無理するなを聞かない君が落ちた時、支えるために私は両手をあけておく。

(2022/11/26)


『溶ける』

吐き気を催すほど強い花の香りに、私がどろりと溶けていく。

どこで何を間違ったのだろう。もう目も耳も利かなくなって、指の一本も動かせない。溶けてしまった。

私はただ、幸せになりたかっただけ。あなたと幸せになりたかっただけなのに。

どろどろに溶ける。花の香りと混ざって、ただ溶けていく。

(2022/11/28)


『前を歩く』

前を歩く君の、長く伸びた影を踏んで歩く。

頭を踏んで、肩に乗っかって、胸を潰して。

どれだけ攻撃したって、君は倒れないし、止まってもくれない。

何してるんだよって、こっちを見てもくれない。

前ばっかり見てる君が、憎らしくて誇らしくて。

走って君を追い越す。君の視界に入り続けるために。

(2022/11/30)

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X(旧twitter)放流小説(2022年) 須堂さくら @timesand

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