ドラマーIN US #15 我が家のスペシャル

矢野アヤ

我が家のスペシャル

 ああ、この声、この音、なんという爽やかさ。清風が、テレビの画面を通して吹いて来る。駆け足、掛け声に汗と涙、変わらない光景。これぞ甲子園。

 三〇数年ぶりに甲子園の決勝戦を生中継で観戦した。夫が対戦するチームについて詳しく説明をしてくれる。仙台が実家の夫は仙台育英を、私は下関国際を応援、野球好きの息子はアメリカとの違いを楽しみに観戦した。

 「みんな走ってる!」、息子がまず驚いたのは選手達の機敏さ、いつでも走って移動する様子だった。そう言われてみればそうかも。太々しく感じるほど悠々と歩いて守備につくアメリカの野球を見ていると、常に小走りでキビキビと動く様子はなんとも爽やかに映る。次は、カキーンと鋭く響く金属バットの音。メジャーリーグ、高校野球共に金属バットは禁止されているので、聴き慣れない。打つたびにホームランなんじゃないかと思ってしまう程の気持ちの良い音を楽しんでいた。そして何より驚いていたのはテンポのはやさ。両チームのピッチャーが間を開けずボールを投げるので、試合がスイスイと進んで行くという。テンポ良く投げ、走った試合は、あっという間に終わった。勝っても負けても、号泣しながらも規律乱さず、最後までキビキビと動き続ける、なんという爽やかさ。

 大谷選手をはじめ、偉大なメジャーリーガーを輩出してきた高校野球に興味津々の息子と一緒に観戦できたことが、私にとっては何より嬉しかった。この日本人にとってのフツーが、我が家にとってはスペシャルなのだ。

  試合の後、夫は仙台の義父に電話をした。この夏は人と会う毎に白河越えが話題になったそうで、「生きている間に見れるとは思っていなかったと」喜んでいた。息子は何度も仙台を訪ねているが、いつも快適な新幹線で一瞬で通り過ぎるだけの白河越えだ。果たしてこの日本の文化は、アメリカ育ちの息子には、どのように映ったのだろう。

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