エターナル・ストーリー ~転生先がわたしの小説の世界だったんだけど!?~
ささみし
短編
わたし、森山みさき。19歳の浪人生……だったのはちょっと前までの話。
バイトに遅刻しそうで吹雪の中を走っていたら、タンクローリーが横転してきて爆死しちゃった。
え? 死んじゃったのに、なんでこんなふうにしゃべってるのかって?
「そんなの、わたしが聞きたいよ!」
「ならば教えてしんぜよう……」
どこからともなく声がした。
「だれっ!?」
「こっちじゃ」
見上げると、空の上から入道雲みたいに大きなおじいさんの顔がこちらを覗いていた。
「えっ、なに? こわっ!」
「うむ。そなたの思った通り、わしが神様じゃ」
「……思ってないですけど」
「お主の事故は、運命の外にある出来事じゃった。まことに不運。よって、お主に第二の人生をさずけよう」
「えっ? 生き返れるってこと……ですか?」
「いや……。残念じゃが、元の世界の因果を変えることはできぬ」
生き返れないのに第二の人生って、どういうことだろう。
っていうかちゃんと聞こえてるじゃん。てっきり耳が遠いのかと思ったよ。
「お主の思い描いた理想の世界へと送ってやろう。そこでお主は生きていくのじゃ。あと言っておくが、わしは耳が遠いわけではないぞ」
「わたしの理想の世界……?」
「ではなー。アディオス」
「えっ、ちょっと待って? どういうことなのーー?」
神様(自称)の大きな顔が霞のように消えてしまうと、空に黒い渦が現れた。その渦はだんだん大きくなって、ついには台風か竜巻みたいにものすごい風が吹いてわたしの体を巻き上げた!
「えーーー? ちょっと、きゃあーーーっ!!」
地面がみるみるうちに遠退いて、わたしは黒い渦の中に吸い込まれてしまった。
どすん。
わたしはお尻から地面に着地した。
「いったあ……。なんなの? もー」
高いところから落ちたわけじゃないみたい。だって、もしそうだったら痛いなんて言ってられる場合じゃないもんね。
きょろきょろと周りを見回してみると、わたしがいるのは暗い森の中に通った一本道の上だった。
舗装もされてない、土を踏み固めたみたいな道だ。
「ここ、どこだろう……」
こんな森の中がわたしの理想の世界って、冗談でしょ……?
だけど、わたしはなんとなくこの景色に懐かしさみたいなものも感じていた。
――きゃー!!
森の中に女の子の悲鳴が響いた。
普通なら怖いって思うかもしれない。だけど、わたしは『助けに行かなくちゃ』って強く思ったんだ。
悲鳴の聞こえた方向に、わたしは走った。
あれ? わたしってこんなに速く走れたっけ……って、速すぎる!?
わけわかんない。ジェットコースターみたいな速度で風を切って走っていたら、前に馬車が見えた。
なんか、周りに緑色の小さい人が集まっている。
「だれかっ、助けて!」
女の子の声だ。馬車の近くに人の影が見えた。緑色の小人に取り囲まれてるみたいだ。
って、こんな速さで走ってたらすぐには止まれないよ! このままじゃ馬車にぶつかっちゃう!
避けなくちゃ! と思ったら、緑色の小人がわたしにとおせんぼしてきた。
「ウギッ! ギギ!」「グギャー、ゲギャー」「ゴゲゴ!?」
ちょっと、急に止まれないんだから、前に出てきたら危ないってばー!
――どっかーん!
ボーリングだったらストライク! みたいな感じでわたしは緑色の小人たちの中に突っ込んだ。
わたしとぶつかった小人が車にはねられたみたいに宙を舞う。
「うっそー!?」
急ブレーキ!
ずさーっと土埃をあげて地面を滑る。後ろから聞こえたドサドサッという重いものが落ちるような音は聞こえないふりをしよう……。
馬車の扉の前に、まだ何人か小人が残っていた。
「わ、悪気があったわけじゃないからねっ? そっちが飛び出してきたんだから!」
「ギャーッ! グギャー!!」
「……え、うそ。言葉通じない系?」
っていうか、肌の色が本当に緑だった。
これじゃ、まるで……。
「お願い! 誰だかわからないけど手を貸してっ! このゴブリンたちに襲われて……! くっ!」
「えっ、ほんとにゴブリンなの!?」
見た目どおり本当にゴブリンだって女の子が言う。
この展開……。デジャヴ? ってくらい既視感がある。
だけどまさか。そんなわけないじゃん。……ううん、実際に目の前にゴブリンがいるんだもん。本当に『そう』なのかも。
このバカみたいなわたしの考えが合っているとしたら、きっとこれで答えが出る。
わたしは手のひらをゴブリンに向けて、意識を集中させた。じんじんと手のひらが熱くなってくる。やばい。本当にできちゃいそう。
どきどきしながら、わたしは叫んだ。
「シャドウアロー!!」
暗い闇と熱を伴った矢がわたしの手のひらから放たれた。
闇の矢はゴブリンたちの体を突き抜けて、一瞬のうちに焼き尽くして炭にしてしまった。
「うそ……無詠唱で攻撃魔法を使うなんて……。しかもたった一発でゴブリンを3体も……!?」
驚いたようにわたしを見つめているのは、片手に剣を携えた、燃えるような真っ赤な髪をツインテールにした女の子だった。
「リゼット……?」
わたしが思わずつぶやいた名前を聞いて、女の子がぱちぱちとまばたきを繰り返す。
「あたしの名前……。どうして知ってるの……?」
「それは――」
ガチャリ、馬車の扉が開いて金髪の女の子が飛び出してきた。
「リゼット! 無事だったのね! よかった……」
金髪の女の子がリゼットに抱きつくと、リゼットは「いたた……」と顔をしかめた。
右腕を怪我しているようで、手の先から血が流れている。他にもいくつか痛めている箇所があるはずだった。
「まあ、ひどい怪我……! どうしましょう……」
「怪我なら、わたしに任せてください」
近づいたわたしにリゼットが警戒の目を向ける。こんな状況で知らない人間に名前を呼ばれたら当然の反応だと思う。
「大丈夫。敵じゃないよ」
両手を上げて丸腰アピールをする。
あれ、でも魔法って手のひらから出るんだよね。このポーズ意味なくない?
「あの……あなたが助けてくれたんですか?」
金髪の華奢な女の子がわたしに問いかける。
この子の名前は、ジーナだ。
「まあ、そういうことになるのかな。ただの通りすがりなんだけど。わたしはミサキ。その子の手当をしてもいい?」
「え? ええ。あなたはお医者さまなのですか?」
「医者じゃないけど傷の手当くらいはできるよ。見せてもらうね」
リゼットはわたしを警戒しながらも、拒むことはしなかった。
右腕がざっくりと斬られて血が流れている。早く止血しないと血が足りなくなってしまうだろう。
……普通ならね。
「ヒール」
わたしは右手をかざしてそう唱えた。癒やしの光がリゼットの体を包み込む。
傷は、みるみるうちにふさがっていった。
「治っちゃった……信じられない……」
「す、すごいです! ミサキさま! あなたは高位の治癒師さまなのですか!?」
「いや、攻撃魔法を使える治癒師なんて聞いたことがないよ!? もしかして賢者さま!?」
リゼットとジーナが口々にわたしを褒めてくれる。
えへへ。照れちゃうな。
だけど、ここまでの展開は全て、こうすればいいって知ってたからできたことだ。
なぜって。これはわたしが3年前に書いた小説『転生したオレは記憶喪失で最強魔術師だった件』の中で起きた出来事そのままだったからだ。
赤髪ツインテールの女の子はリゼット。駆け出しの冒険者で戦士職を担当している。
金髪の女の子はジーナ。商家の娘でリゼットの友人だ。
ここに至った経緯を簡単に説明すると、自立心の強いジーナが護衛のリゼットとともに父親の代わりに近場の村まで買付に出たが、その帰りをゴブリンの群れに襲われてしまった、というわけだ。
「あたしだってゴブリンの2,3体くらいならなんとかなるんだけど、あんなにまとまって襲ってくるなんて……本当に危なかったよ」
「そうですね……ミサキさまが助けてくださらなかったら、いまごろどうなっていたか……」
「うん。だから、ミサキには本当に感謝してる。その……ありがとう」
リゼットがぽっと顔を赤らめる。
「わ、わたくしだってリゼットに負けないくらい感謝しています! ミサキさま!」
ジーナがわたしに抱きついた。
「あっ、ずるいぞジーナ!」
リゼットも負けじとわたしに肩を寄せる。
「わわっ、ふたりとも、狭いんだからそんなに動くと危ないよ!?」
なぜか3人そろって御者席に座っている。
わたしが真ん中で手綱を握り、リゼットとジーナは両隣。二人とも、わたしに対する好意を隠そうともせずにぶつけてくる。
やっぱりこうなるんだー?
わたしの書いた小説『転生したオレは記憶喪失で最強魔術師だった件』(以下『転オレ』)の中では、ピンチを救った主人公が二人に好意を持たれる、という展開だった。
だから、その展開をなぞったわたしがこうなるのは順当といえばそうなのだけど……。
あの小説の主人公って……男……なんだよね。
わたしはこの世界に来て男の姿になったわけではない。前の世界で生きてきた森山みさきの体のままだった。女としてここにいるのだ。
もちろん、リゼットとジーナだって女の子だ。
っていうか、可愛いなあ。なにしろわたしの理想の女の子なんだもん。可愛いのは当たり前だよね。
ああ、二人がわたしを取り合ってケンカしてる。
やだー、わたしのためにケンカしないで!!
「もう。二人ともケンカはだめだよ」
「ミサキがそういうなら」
「ミサキさまがそうおっしゃるなら」
三人ぴったりと肩を寄せ合って、馬車はゆっくりと進む。
うふふ。幸せだなあ。
このあと、わたしはジーナに招かれてお家のご両親に挨拶をした。
深い話を聞かれても答えられない事が多いので、小説に書いたように『記憶喪失』という設定を使うことでごまかすことにする。
ジーナのご両親はわたしにとても感謝していて、ぜひ滞在していってほしいというので2,3日泊まっていくことにした。
だけど、ずっとお世話になっているわけにはいかない。
そう。物語の都合上、ずっとお世話になるわけにはいかないのだ。
わたしはリゼットの誘いを受けて冒険者になることにした。……と言っても、これも小説通りの展開なんだけど。
ジーナは寂しがっていたけど、「大丈夫。きっとすぐに会えるから」と言って頭をなでたら顔を赤くして照れていた。かわいい。
その言葉を言ったからなのか、もともとそうなる運命なのかはわからないけど、近いうちにジーナは家を出て冒険者になるのだ。
かわいい一人娘が危険に飛び込もうというのに『家業を継ぐための修行』とかいう言い訳で両親は納得するらしい。なんで? わたしが書いたからだ。
でもジーナにも魔法の才能があったりして、色々とうまくいくので大丈夫なのだ。
でもそんな展開はまだ先の話。
わたしはリゼットと一緒に冒険者ギルドに来ていた。
「ここで登録すると冒険者になれるんだよね」
「ミサキが冒険者じゃなかったなんて信じられないよ。でも、ミサキなら有名パーティーに入ってあたしのDランクなんてすぐ超えちゃうんだろうなー」
「リゼットはわたしとパーティー組んでくれないの?」
そうするのが当前とばかりに尋ねると、リゼットはぽかんとした顔でわたしを見た。
「え、でも……良いの? あたしなんかがミサキと一緒のパーティーだなんて。だって、ミサキくらい強かったらいくらでも強い人たちと組めるのに」
「うん。わたしはリゼットが良い。一緒に冒険しようよ」
「み、ミサキ~~!」
リゼットがわたしのことをぎゅーっと抱きしめる。
「わ、ちょっと、人前だってば~」
わたしはそう言いながら、まんざらでもない気分だった。
「オイオイ、冒険者ギルドでいちゃつくとはどういう了見なんだぁ?」
ドスのきいた声がわたしに向けられる。
あっ、このイベントが来ちゃったかー。
小説では冒険者登録を済ませたあとに絡まれるはずだったんだけどなあ。
「えっと、ちょっとまってね。いま冒険者登録してくるから、絡んでくるならそのあとにして」
いったん暴漢を待たせて先へ進もうとしたら、がっしりと腕を掴まれてしまった。
「ふざけてんのか、てめえ」
「ふざけてなんかないよ。後でちゃんと相手してあげるから大人しく待っててって言ってるの」
「それがふざけてるって言ってんだよぉ!!」
暴漢が腕をふるって殴りかかってきた。
腕に自信があるみたいだけど、わたしにはまるでスローモーションみたいに動きが止まって見える。
わたしは左手でパンチの方向をちょっとずらして、相手の打撃をよけると同時にみぞおちを殴りつけた。
「ぐわーっ!!」
思ったより力の加減ができなくて、暴漢が壁までふっとんでいった。
バキバキ、ガッシャーン。近くに置いてあった机や花瓶が割れて大惨事になってしまった。
「あっちゃー……。やりすぎちゃった」
小説に書いた展開では壁に叩きつけられるくらいだったのに、襲われるタイミングが早かったせいで被害が増えてしまったみたいだ。
「ミサキって近接戦闘もできちゃうの!? 魔法だけじゃなかったんだ……!」
リゼットが目をまるくしている。そういえば格闘術を見せるのはここが初めてなんだっけ。
騒ぎのタイミングがずれてしまったけど、冒険者登録は問題なくやってもらえた。
ああ、もちろん、魔力測定器は破壊しちゃったし、ランク認定試験官は気絶させちゃったけどね。
「でもDランクまでスキップできてよかった」
「ミサキがDランクなんておかしいよ。試験官も見る目ないな~」
リゼットは変なところで文句を言っている。自分のことでもないのに。優しい子だなー。
「だけどDならリゼットとおそろいだね。すぐに一緒にクエストができてうれしいな」
「う、うん。そうだね……」
リゼットはすぐ顔を赤くする。
今日からわたしはリゼットと同じ宿に泊まる。もちろん部屋は別だ。
だけど、その晩、リゼットがわたしの部屋を訪ねてきた。
え? こんな展開あったっけ?
わたしには書いた覚えがないけど、小説に書かれていない行間の物語っていうこともあるのかな。
「ミサキ……一緒に寝てもいいかな……。隣にいると思ったら、会いたくなっちゃって……」
「う、うん。いいよ」
知らない展開だ。
わたしの知らないリゼットの言動を見ていると、なんだかどきどきしてしまう。リゼットが隣にいるベッドはちょっと狭くて、暖かかった。
息遣いと鼓動が聞こえる。リゼットは生きているんだ、って思った。
初めてのクエストはゴブリン狩りだった。
リゼットにとっては馬車を襲われたときのリベンジってところ。本人もそれを意識してるみたいで、やる気は充分。
わたしたちはクエストで指示されたゴブリンの巣穴に向かった。
「居るね、ゴブリン。3匹?」
「手前に3匹。巣穴の中の通路に5匹……奥の広間に8匹……かな」
わたしは探知魔法を使ってゴブリンの頭数を調べた。
「え、あたしには見えないけど……どうしてわかったの?」
「探知魔法を使ったの」
「探知魔法って……もう、ミサキはなんでもありなんだね」
「こっちが攻撃したらゴブリンも襲ってくるから、その前に一応強化魔法をかけておくね」
リゼットに攻撃強化と防御強化をかけた。これで万が一ゴブリンの攻撃を受けても大丈夫なはずだ。
「す、すごいよミサキ、体が軽い!」
「手前の3匹はリゼットに任せるね。わたしは魔法で巣穴の中にいる奴らを倒す」
「わ、わかった!」
合図とともにリゼットが走る。まずは背後から一匹。奇襲は成功した。
残りは2体だけど、強化魔法をかけたリゼットなら問題ない。位置取りを考えて立ち回っているおかげで1対1になる形を保っている。
わたしは探知魔法に闇属性をエンチャントして巣穴の中で魔法を発動させた。
「ダークネス・シーカー!」
標的を見つけ次第、闇の雷を発射する半自動の遠隔魔法だ。
1匹,2匹,3匹……順調にゴブリンの数が減っていく。
リゼットのほうも最後の一匹を片付けた。
「ふうっ……。すごいよミサキ! レベルも上がっちゃった!」
リゼットが飛び跳ねて喜んでいる。かわいい……けど血まみれなのでスプラッター映画のワンシーンみたいになってるよ。
「ミサキのほうはどう?」
「うん。12匹やった。あと1匹……」
「ええっ、なんにもしてないように見えたのに、12匹も!? 信じられない。でもミサキの言うことだから本当なんだろうなあ……」
ダークネス・シーカーが最後の一匹を捉えた、と思ったそのときだった。
――グォオオオオ!!!
凄まじい雄叫びが巣穴の中から響いた。
同時にダークネス・シーカーがかき消される。
「み、ミサキ……? いまのって、なんなの?」
「うーん、やっぱだめだったかー。リゼット、でかいのが来るよ。下がってて。わたしが相手する」
ズン……ズン……
地響きを立てて巣穴の中から出てきたのは――
「うそでしょっ! ゴブリンキング!!??」
リゼットが悲痛な声を上げた。
「ゴブリンキング……Aランクの魔物なんだよね」
いまのリゼットのランクで遭遇したら絶望的。だけど、不運だったのはゴブリンキングのほうだ。
だって、わたしがいるからね。
「気をつけてね、リゼット。さすがに、あんまり手加減できそうにないや」
わたしはリゼットから借りたナイフを右手に構えた。
ゴブリンキングは自分の存在を誇示するように、怒りの感情がこもった咆哮をあげる。
「……あ……あ……」
リゼットのひざがガクガクふるえて、その場に尻もちをつくようにへたりこんだ。
恐怖の咆哮。範囲内の対象に恐怖の感情を叩きこんで動けなくするスキルだ。
「でも残念。わたしには効かないよ」
恐怖の咆哮が効果を発揮するには対象のレベルが自分よりも低くなければいけない。
「わたしのレベルは666だからね! エンチャント・ダークネスソード!」
ナイフの刀身に手をかざしてスライドさせると、手でなぞったところに漆黒の刃ができていく。
短かったナイフが、あっという間にわたしの身の丈ほどもある太刀へと変化する。
ゴブリンキングが巨大なこん棒を頭上に振りかざした。
「それも知ってる」
ゴブリンキングのスキル、アースシェイカーの予備動作だ。アースシェイカーは広範囲の地属性攻撃。発動すれば空中を除いて逃げ場はない。
わたしだけならどうにでもなるけど、ここには身動きの取れないリゼットがいるからね。やらせるわけにはいかないよ。
「先手必勝! ダークネス・ブレイク!!!!」
ゴブリンキングがスキルを発動させる前に、わたしの放ったダークネス・ブレイクの黒の斬撃が辺り一帯を闇の力で包み込んだ。
真っ暗な闇が晴れると、ゴブリンキングの姿は跡形もなくなって、その後ろの巣穴があった岩山まで消し飛んでいた。
「な……なに……これ……」
へたりこんだままのリゼットが放心したようにつぶやいた。
「もう大丈夫。やっつけたよ」
「やっつけたって、ゴブリンキングはAランクモンスターなんだよ!? ミサキってどうなってるの!?」
「うん、まあ。それよりリゼットは大丈夫?」
「こ、腰が抜けちゃって……。あ…………」
かああっとまたたく間にリゼットの顔が紅潮していく。
見ると、リゼットの下の地面が水をこぼしたみたいに濡れている。
「やだっ、見ないでっ」
半泣きになってリゼットが手を振り回す。
「だ、大丈夫だよリゼット。命の危険を感じたときに失禁しちゃうのは自然な反応だから、恥ずかしくないよ!」
「ミサキのばかあ!」
結局動けないリゼットを私がだっこして街まで運んだ。
「もう、お嫁に行けない……」
「じゃあわたしと結婚しよう」
「えっ……ちょっ……冗談だよね?」
「ううん。本気だよ。わたしはリゼットと結婚したいと思ってる」
だって、リゼットはわたしのヒロインだもん。他のだれかのところにお嫁に行くなんて絶対イヤ。
「あ、あたしでいいの……?」
「うん。リゼットがいい」
「あ、アリガト……。あたしも、ミサキが好き………………ねえ、なんでこんなときにプロポーズしたの……? ミサキのばか。こんなの、恥ずかしくて思い出話もできないじゃない!」
「えへへ」
リゼットがぽかぽかとわたしの肩をたたく。それからリゼットはギュッとだきしめて、ほっぺにキスをしてくれた。
わたしもほっぺにキスをしかえす。
ちょっとくさいけど、とっても幸せなひとときだった。
「ゴ、ゴブリンキングを倒した、ですって!!??」
リゼットが着替えてから、わたしたちはギルドまでクエストの報告をしに行った。
ゴブリンキングの名前で大騒ぎになったのは言うまでもなく、それを倒したという報告でまた一騒動になってしまった。
「た、たしかにこれは……ゴブリンキングの討伐証にまちがいありません」
ダークネス・ブレイクで跡形もなく消し飛ばしてしまったのでどうなるか不安だったけど、身につけていたギルドカードにはちゃんと討伐の証が刻まれていたようだった。
「わしがここのギルドマスターだ」
ギルド職員に一通り説明したら、白髪のいかついおじさんが出てきてもう一度同じことを話す羽目になった。
でも、その面倒の甲斐もあって、わたしとリゼットは冒険者ランクを上げてもらえることになった。
リゼットはレベルの上昇もあって一つ上のCランク、わたしは一気にBランクにまで上がった。ちなみにレベルは隠蔽魔法で隠してる。だって、レベル666なんて知られたら大変だもんね。
その日の夜はリゼットと抱き合って眠った。
それからしばらくして、わたしとリゼットは順調にクエストをこなしていった。
小説ではリゼットに結婚を申し込むなんて展開はもちろんなかったから、この先どうなるかと思ってたんだけど、大きな出来事に変化はないみたい。
部屋でリゼットといちゃいちゃしていると、突然ジーナが現れた。
「わ、わたくしを差し置いてリゼットといちゃいちゃするなんて!! ミサキさまの浮気者~~!!」
そうなのだ。リゼットと同じくらいジーナもわたしのことが大好きなのだ。
冒険者になるべく家を飛び出してきたジーナは、いつのまにか冒険者ランクをDまで上げていた。
「いつのまに!?」
「タイミングがあわなくていつも一人でクエストをこなしていたのです!」
「確かに最近は野営をすることも多かったけど、それにしてもジーナはすごいね。こんな短期間でDランクまで上げるなんて」
「うふふ。もっとほめてくださいミサキさまっ」
ジーナがわたしに頭をこすりつける。
「ちょっとジーナ、ミサキはあたしと結婚するんだからっ」
「ずるい! リゼットが結婚するならわたくしもミサキさまと結婚します!」
「うん、ふたりとも結婚しよう」
「えっ」
「嬉しいですっ。ミサキさま~っ」
わたしが宣言すると、リゼットとジーナのふたりが声を上げた。リゼットはちょっと不服そうだったけど、なだめたら納得してくれた。なんだかんだでリゼットはジーナのことも大好きなんだよね。
ちなみに、この世界では何人とでも結婚できるし、それが女同士でもまったく問題ないのだ。できないなんて、誰も言ってない。
それから色々なことがあった。
厄災の魔物が現れた。これは世界に災いをもたらすとっても危険なやつで、これを倒すのがわたしの物語の目的と言っても良い。
この厄災の魔物は獣人の村を襲った。だけど人間と獣人はあんまり仲が良くないので人間は手を貸そうとしない。
じゃあわたしが行くしかないでしょ。
なんやかんやあって厄災の魔物を倒して獣人の村を助けたんだけど、その村の猫獣人がわたしのことをすごく気に入っちゃって、こっそりついてきちゃった。名前はタオ。
「タオもごしゅじんさまとけっこんするにゃあー!」
タオの可愛らしさにはリゼットとジーナも逆らえなかった。見た目は10歳くらいだけど、これで大人なんだって。
そのタオは今わたしの上で寝てる。獣人だけど猫形態にもなれるのだ。
最近借りた町外れの一軒家で、こうしてタオと日向ぼっこをするのがわたしの日課になっていた。
そんな幸せな日々を過ごしているわたしの元へ、不穏な影が変な形で現れた。
みんなで街の中を買い物がてら散歩していると、騒がしい声が聞こえた。
「食い逃げだー!!」
「えっ? あ、ち、違うんですっ。お金を払うのを忘れて外に出てしまっただけでっ」
飲食店の前で、大きなマントを羽織った短髪の女の子がひざをついて言い訳をしている。
「ふん、なんだい。じゃあさっさと払ってもらおうか」
「あ……あれ?」
女の子はぺたぺたと自分の体をさぐって真っ青な顔になった。
「ごめんなさい、お財布を落としちゃったみたいです……」
「ほら見ろやっぱり食い逃げじゃねえか!」
「ち、ちがうんです~~!」
悪い子じゃないみたいだ。それはわかってる。財布を落としたのは本当のことで、あとでタオが拾ってきてくれる、というちょっとしたイベントだったはず。
だけど、この女の子の格好、ずいぶんキャラが立ってるなあ……。あとの話に出てくるんだっけ。どうも思い出せない。
ともかく、ここはわたしが行かないといけないんだよね。
「まったく。ミサキは人がいいんだから」あきれたようにリゼットが
「そこがミサキさまのいいところですっ」うれしそうにジーナが
「タオもおなかすいたにゃー」能天気にタオが言った。
わたしは近づいて店主に話しかけた。
「まあまあ。今日のところはわたしが払うから許してあげてよ。悪気はないみたいだし」
「ん? なんだあ、ミサキちゃんじゃねえか。うーん。まあ悪人には見えないしな……あんた、ミサキちゃんに感謝しなよ」
女の子の代わりにわたしが払い、店主は納得して帰っていく。
「あ、ありがとうございますっ」
「大丈夫? 財布落としちゃったんだって?」
「そうなんです。どうしよう……路銀全部はいってたのに……」
「おさいふって、これかにゃー?」
猫形態のタオが巾着袋を口にくわえてトコトコと歩いてきた。
「あーっ! これ、これですぅ!」
「あっちに落ちてたにゃ」
「わあ、さすがタオ。いい子だね~。うちのこは天才!」
抱き上げてなでなですると、タオはごろごろと喉を鳴らした。
小説では、このあとタオにご褒美をあげて話が終わる。
「本当にありがとうございますっ! ぼく、カエデっていいます。これでも勇者やってるんですけど……えへへ」
「えっ、勇者……?」
こんなポンコツ勇者、わたしは知らない。
わたしの書いた小説『転オレ』に登場するメインキャラクターは、主人公以外にはリゼットとジーナ、タオの3人だけだ。
だけどうっすらと記憶に残っているのは、走り書きした設定……。結局本編には登場させることができなかった、キャラクターにもなっていないただの設定だ。
あの中に、カエデという名前の勇者がいたかもしれない。
「ごしゅじんさま、どうしたにゃ?」
「う、ううん。なんでもないよ」
よっぽど難しい顔をしていたんだろう。タオに心配されてしまった。
『勇者』という重要そうなキャラクターを設定に書いたのは、それがこの物語の山場になるからだった。
にも関わらず物語には出てこない。
なぜか。
この小説が、完結していないからだ。
わたしは勇者という存在を扱いあぐねて、登場シーンをうまく書くことができなかった。
そして、それ以降更新することなく物語を投げ出してしまったのだ。
だからタオを仲間にした時点でわたしの物語はほとんど終わりを迎えていた……はずだった。
あとは何事も起こらない、のんびりとした日常が永遠に続くものだと。そう思っていた。
「わたしは……ここまでしか書いてないのに……」
だけど、ここにきて小説に登場しなかった『勇者』が現れてしまった。
わたしの知っている物語は、もう変わり始めているんだろうか。
白紙のページが、わたしの知らない物語で埋められようとしていた。
「大変だ! 東の空に厄災の魔物が!!」
買い物に出ていたリゼットが部屋に飛び込んできた。
「ミサキさま! 西から厄災の魔物が現れました! こちらに向かってきます!!」
「そんな……厄災の魔物が同時に現れるなんて……」
知らない。わたしはこんな展開知らない!
「どうする!? ミサキ!!」
「ミサキさま!」
「ごしゅじんさまにゃー」
みんながわたしに期待の目を向ける。これまでは、どんな困難でもわたしの機転で乗り越えてきたからだ。
だけど、それは答えを知っていたからだ。
「……わかんない、わかんないよ!! みんなわたしに聞かないで! こんなのわたし知らないもん! どうすればいいのかわたしが聞きたいよ!! 厄災の魔物を同時に相手なんてできない。一体を相手にするのがわたしの限界なんだよ!」
沈黙が怖い。
当たり前だよね。ずっと頼れるリーダーだったのに、突然こんな弱音を吐くなんて……。みんなの失望した顔が目に浮かぶ。
「ミサキ……」
何を言われるのかこわくって、ぎゅっと目をつぶった。
「大丈夫。あたしたちがいる。ミサキはまず一体を相手してくれればいい」
「そうです。このためにわたくしたちは修行してきたんですもの。残りの厄災はミサキさまの力が戻るまでわたくしたちに任せてくださいっ」
「まちをまもるにゃー」
二手に別れる。確かに現実的に考えればそれしかない。
確実に一体を倒せる私と、リゼット・ジーナ・タオの三人で分かれて戦う。
だけど、そんなことは私の小説では一度もやらなかった。
「でも……わたしがいない間にみんなに何かあったら……。し、死んじゃうかもしれないんだよ!!?」
情けないことに、涙がぽろぽろとこぼれだした。
この世界ではわたしは無敵だった。全部勝てるって知ってたからだ。
でも今回は違う。何が起きるかわからない。
「ミサキ……」
「ミサキさま……」
「ごしゅじんさまにゃー」
3人が集まって、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「怖いのはあたしたちだって一緒だよ」
「にゃー」
「そうです。わたくしたちと離れたミサキさまが一人でどんな無茶をするかと思うと」
「にゃー」
「だけど、あたしはミサキを信じてる。だからミサキもあたしたちを信じてほしい」
「にゃー」
「この世界にミサキさまがいるかぎり、わたくしたちは無敵なんです!」
「にゃー」
あったかい。
みんな生きてるんだ。
わたしの作った世界に生まれたキャラクターは、いつの間にかわたしよりもずっと強くなってた。
ずっと思ってた。描かれなかった物語の先には何があるんだろうって。
「ここから先は何が起きるかわからないけど……。みんな、戦ってくれる……?」
「当たり前でしょ」
「離れていても、心はミサキさまと共にあります」
「にゃー」
これはもう私の物語じゃない。この世界は、みんなで守る。
「行こう。災厄なんか、やっつけちゃおう!」
東の空に現れた厄災の魔物。
おどろおどろしい雲海の中に潜むそいつがわたしの相手だ。
「エンチャント・ダークネス! ダークネス・ブレイク!!」
出し惜しみはしない。私はクエストで手に入れた漆黒の刀・闇姫に闇の刃をエンチャントして必殺技のダークネス・ブレイクを空に向けて放った。
切り裂かれた雲海の中から、龍のように巨大なムカデが現れた。
「こいつが今回の厄災……ドラゴンセンチピード!」
たったいま名付けたドラゴンセンチピードが、わたしに向かって牙をむいた。ジェットコースターみたいにすさまじい速度で降りてくる。
だけど、向こうから来てくれればこっちのものだ。
「全力全開! フルバースト!」
強化魔法をオーバーパワーでかけまくる。後先考えない一撃を決める。厄災の魔物を倒すには、それしかないのだ。
「ウルトラ・スーパー・ハイパー・アルティメット・ダークネス・デストラクション・スラァーッシュ!!!!」
私はドラゴンセンチピードをぎりぎりまで引きつけて、必殺の一撃を解き放った。
ドラゴンセンチピードの頭に叩き込まれた必殺奥義が、うなぎをさばくうなぎ職人の包丁のようにドラゴンセンチピードを真っ二つに切り裂いた。
「はあっ、はあっ……まず一匹……!」
疲労感で体がふらふらする。オーバーブーストのあとはしばらく麻痺の状態異常が残ってしまう。動けないわけじゃないけど、機動力は段違いに落ちるしステータスも下がる。
急いでみんなの待つ西へ向かいたいところだけど、ここで油断はしない。
「ダークネス・ファイヤー!」
わたしはドラゴンセンチピードの死骸を塵も残さず焼き尽くした。
以前倒した厄災の魔物は、最後の悪あがきに再生の術を発動させて蘇ろうとしていた。まあタオが食べちゃったんだけどね。
ドラゴンセンチピードが同じ技を使うかはわからないけど、死体を残すのはボスにおいてはとっても危険なのだ。これが原作者の知恵というものだ。
「ふう……。なんとかなったよ。リゼット、ジーナ、タオ、待ってて、いま行くから!」
わたしは回復ポーションをがぶ飲みして空間転移を発動した。
そこには、傷だらけになりながらも立っているリゼット、ジーナ、タオの姿があった。
「リゼット、ジーナ、タオ! よかった! みんな無事だったんだね! エリアヒール!」
私が全体回復魔法を唱えると、みんなの傷が癒えていった。
「ミサキ! 気をつけて!」
「リゼット、厄災の魔物はどこ!?」
さっきのドラゴンセンチピードみたいな大きな魔物は見えなかった。
だけど、巨大な気配だけはすぐ近くに感じられる。オーバーブーストはまだしばらく使えない。いやな汗がたらりと流れる。
「ちがうんですっ! ここにいるのは、厄災の魔物なんかじゃない!」
小さな人影が荒野を歩いてくる。
「にゃー」
っていうか、ここ、こんな荒野だったっけ?
もっとのどかな風景が広がっていたはずなのに、地面が削り取られたみたいに広大な範囲がえぐられている。
まるで、わたしのダークネス・ブレイクのあとみたいに……。
「あなただったんですね。ミサキさん……」
そこには、マントを風にはためかせた短髪の女の子が立っていた。
「あなたは…………!」
「…………」
「…………………………………………?」
「……カエデです」
そうだった。カエデ。勇者と名乗った、あの女の子だ。
「カエデ、どうしてあなたがここに」
「厄災の魔物はぼくが倒しました。そして、ここにいる彼女たちと話して気づいたんです」
「……何に?」
「あなたが魔王なんだってことにね!」
びしぃっとカエデが私を指差した。
「ええーー!?」
そ、そんな設定あったっけ???
「なんであなたが一番驚いてるんですか! 本人でしょ!?」
「いや、そんなの知らないよ! 魔王って何!?」
「ま、魔王は魔王ですよ! だって、ぼくは魔王を倒すために生まれたんですから!」
たしかに……。勇者がいれば魔王がいるのは物語の必然。
だけどわたしが魔王? なんで??
「た、たしかにわたしは闇属性魔法しか使えないし、レベルも666だけど、だからって魔王ってことにはならないでしょ?」
「鑑定を使えばわかることです。彼女たちは、魔王の眷属でした。すなわち、あなたが魔王ということでしょう! 鑑定!」
「あ、そういえばそんなスキルあったっけ。……自分に使ったことないんだよね。鑑定」
名前:ミサキ レベル:666
職業:魔王
スキル:シャドウ○○ ダーク○○ ダークネス○○ etc.
「ほ、本当だ……。わたしって魔王だったみたい」
がーん。ショックを受けていると呆れたような声が聞こえた。
「え、ミサキって自分で気づいてなかったの?」
「わたくしは最初から知っていましたけど。鑑定持ちですし」
「しってたにゃー」
タオまで……??
「な、なにをいまさら! 白々しいですよ! さあ、観念してぼくと戦ってください!」
「…………え、なんで戦うの?」
「魔王と戦うのが勇者のさだめだからです!」
「最初はグー!」
「え、あっ」
「じゃんけんぽん!」
わたしはパー。カエデはグーだった。
「やった……! 勝ったよ、みんなっ!」
「さすがミサキ! ま、あたしは勝つって信じてたけどね!」
「ミサキさま、すてきですっ!」
「にゃー」
喜びに湧く我が魔王陣営に対して、カエデはわなわなと自分の手を見つめて震えている。
「こ、こんなのだめです! ズルです! じゃんけんだなんて! なしです、なし!」
「往生際が悪いなー。カエデちゃん負けたじゃん」
「ちゃ、ちゃん……? な、なんですか、そんな、愛称で呼ぶなんて……ぼくは屈しませんよ!」
「いいでしょ。もう。3体の厄災も全部倒したんだし、わたしとの戦いも終わったんだから。これ以上争う理由なんてないよ。よくわかんないけど、これからは仲良くしようよ。友だちになろう。カエデちゃん」
「ト、トモダチ……? ぼくと、ともだちになってくれるの……?」
じわっ、とカエデの目から涙がこぼれ落ちた。
えっ、何この子、ちょろすぎる……。
「う、うん。いままで辛かったね。さみしかったんだよね。一人でよくがんばったね、カエデちゃん。えらいね」
ぽんぽんと頭を撫でると、カエデはこくんとうなずいた。
泣き顔を胸で受け止めるように、ぎゅっと抱きしめる。リゼットとジーナとタオの目がじとっとわたしを睨んでいるけど、それはあとに置いておこう。
「へあっ、ちょっ、そんな、優しくしないでくださいっ!」
がばっと突き飛ばされてカエデが離れた。
「す、好きになっちゃうじゃないですか……」
「ダメなことなんてひとつもないよ。わたしもカエデちゃんに好きって言ってもらえたら嬉しいな。そうだ、カエデちゃんもわたしと結婚しようか。みんなで仲良く暮らそうよ」
「け、結婚!? そんな、急に言われてもっ! …………ん? みんな? みんなって、どういうことですか?」
「うん。わたし、リゼットとジーナとタオと結婚してるから」
「は、破廉恥です!! そんな重婚、ぼくは認めませんよ! やっぱりあなたは魔王だったんですね! くっ、危うくもてあそばれるところでした……今回はこのくらいにしておきます! この次はきっと、あなたに勝ってぼく一人を選ばせてみせますから!」
なんか捨て台詞っぽいものを吐いてカエデはどこかへ飛んでいってしまった。
「終わった……のかな」
残り二つの厄災が同時に現れるという最終イベントっぽいものをこなしたかと思ったら勇者が乱入して魔王と勇者が戦った。
うん。なんか文字列だけ見ると終わったっぽいよね。
現実はしまらないものだったけど、なんだかわたしにはふさわしいような気がする。
「じゃ、帰ろっか」
「大変な一日だったけど、みんな無事でよかったわ」
「当たり前です。わたくしはミサキさまとわたくしたちの力を信じていましたもの」
「おなかすいたにゃー」
そしてわたしたちは日常へ戻る。
これから先は、わたしの知らない世界が続いていくんだろう。だけどもう怖くない。
どこへでも行ける。立ち止まっていたわたしを呼んでくれる、みんながいるから。
エターナル・ストーリー ~転生先がわたしの小説の世界だったんだけど!?~ ささみし @sasamishi
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