異世界版マッチ売りの少女~マッチが売れないので、モンスター売りの少女になったら、周りが放っておけない存在になりました~
出来立てホヤホヤの鯛焼き
短編
マッチ売りの少女とは――――貧しい少女がお腹を空かせながら、お金を手に入れるためにマッチを売り歩くが、誰にも買って貰えず、寒さに耐えられずについ商品のマッチをつけて火で温まるも、次の日には死んでしまうという悲劇の物語である。
そんなマッチ売りの少女と似た状況にある少女がいた――名をファティマという。
このままでは、童話のような運命を歩むことが確定したような少女だったが……
ファティマ―はある時、お腹が空きすぎてボーッとしていると、真理に気付いてしまったのだ。
即ち――“売る物(マッチ)に問題があるということに”
そして、ファティマは何か代わりに売れない物はないかと山に探しに行くことを決意した。
その1ヶ月後――――
「ドラゴンはいりませんかー。誰かドラゴンを買い取ってくださいー。」
血塗れでピクピクと辛うじて息をしている大型のドラゴンを引きずりながら、売り歩く少女が街に現れた。
「ひいぃいぃぃぃ!!!」
「ドラゴンを引き摺ってやがる……どこにそんな力があるんだ!?」
「ドラゴン可哀想……倒さないといけないモンスターだけど……」
果たしてマッチと違い、ドラゴンは売れるのだろうか――――
結果――――ファティマは衛兵に連れて行かれた。
当然の結果である。半殺しのドラゴンを引き摺って売り歩く、危険人物を見逃したら衛兵として無能とかそう言う領域ではない。
――――――――――――――――
衛兵の詰め所にて――――
「お嬢ちゃん、あのドラゴンはどこから持ってきたんだい?」
「山から持ってきたのー」
「山からか……どこの山なんだ……あんなドラゴンが生息するような山は近くにないぞ……」
遠い目をして呟く衛兵長さん。
損な役割である。
「ところで、なんでドラゴンを売りさばこうと思ったんだい? しかもあのドラゴンは危険な……いや、とてつもなーくヤバいモンスターなんだが……」
「マッチを売ってたんだけどー、全然売れなくて餓死しそうだったのー。
代わりの商品を山で探してたらー、ドラゴンを見つけてー、弱かったから捕まえて売ろうと思ったのー。ドラゴンって男の子が好きなんでしょー? なんかいつかドラゴンを倒す冒険者になるんだーって言ってる人いっぱいいたよー?」
「いや……たしかに男はドラゴンが好きだが……実際に目の前に持ってこられても……」
「倒さずに持って来るの大変だったんだよー? ころっと死んじゃうんだからー」
えっへん、とでもいうように胸を張って、自慢気に笑みを浮かべるファティマ。
彼女にとってドラゴンとは、蟻か何かなのかもしれない。
「そうか……」
ファティマの金銭的事情には同情しつつも、このまま売り歩きをさせるわけにはいかない衛兵長さん。
「提案なんだが――ドラゴンの死体だったら買い取れるかもしれない」
「えー……?苦労して、生きたまま持って来たのに、そっちの方が良かったのー?」
「あぁ……生きたまま持ってこられても、こっちは困ってしまうんだ……」
「わかったわー」
ヒュンッ
返事をした後、目の前からファティマが一瞬で消えた。
「はっ?? えっ、どこいったの??」
そして、次の瞬間――
ボキッっという大きな音が鳴り響き、目の前にファティマが戻ってきた。
「戻りましたー」
「お、おう……いつの間に……?? えっとどこに行っていたんだい??」
「ドラゴンにトドメを刺してきましたー。これで買い取って貰えるんですよねー?」
「あの一瞬で……??」
戦慄する衛兵長さん。
一瞬見逃したと思ったら、国すら滅ぼすドラゴンが始末されていた時、人はどう答えればいいのだろうか。
「………………」
「あれ? どうしたのー?」
「………………」
「おーいー」
「……ハッ!? 意識がどこかに飛んでいた……。
何の話してたんだっけ??」
「もうー! ドラゴンの買い取りの話だよー。」
「そうだったな……夢であって欲しかったな……」
「ねー! ねー! いくらで買い取ってくれるのー?」
「オークションになるだろうから、まだ分からないが、一生遊んで暮らせるだろう。良かったな!」
「一生!? そんな長い間遊べるのー!? やったーー!!」
ドラゴンが売れ、以後幸せに生きていけるだけのお金が手に入ることが確定したファティマ。
ファティマが、これからマッチ売りの少女のように餓死することはないだろう。
だが――こんな実力を持った人物をまわりはもちろん、権力者が放っておかないはずがない。
しばらくして――ファティマの実力に目を付けた、お偉いさんによって学園への入学を誘われたり、そこでなんやかんやして、最終的に魔王を倒した英雄へと成り上がるのであった。
歴史書において――世界で初めて魔王を生け捕りにして、歩き売りをした最狂の英雄として、後世にもファティマの名は語り継がれている。
ドラゴンよりレアな魔王を歩き売りしてみたかったのだろうか?
――ファティマは英雄となった後もずっと変わらない。
これは――――誰にも相手にされなかったマッチ売りの少女が覚醒して、モンスター売りの少女へと転職し、英雄へと成り上がる物語。
異世界版マッチ売りの少女~マッチが売れないので、モンスター売りの少女になったら、周りが放っておけない存在になりました~ 出来立てホヤホヤの鯛焼き @20232023
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