第6話 引っ掛け

 焼きいもがおいしかった。2人でフーフーと息を吹きかけながら食べた。

「洋ちゃん。ちょっと訊いてもええ。権蔵爺、警察に行かんやろか」

 隆には不安が残った。

「その時は、修ちゃんのケガのこと言うたるんや。おっちゃんの方こそ、訴えると思うで。アイツもそこまでアホやないやろ」

 洋一の言うとおりだ、と隆は思った。


「まあ、まだ2本、釘が埋まっとる思うたら、アイツはおちおち松茸狩りどころやないで」

 洋一は肩を揺すって笑った。

「洋ちゃん。いつ埋めたん?」

 ずっと気になっていたことだった。

 洋一はポケットに手を入れ、カマボコ板を2枚取り出した。板には釘の抜かれた跡があった。

 隆に見せて、洋一は燃え盛る火に投げ入れた。


 中学卒業後、修司は近くの高校に進学した。洋一は大阪府下のベニヤ板工場に就職した。

 洋一は盆に帰省し、富江に女性用の腕時計、和子に少女雑誌をプレゼントした。

 洋一はわずか4か月半でずいぶん大人になった、と隆は思った。

「隆。親が行かせてくれるんなら、高校は出とけよ」

 そんなことも話していた。


 その1か月後、洋一は崩れてきたベニヤ板が頸動脈を直撃し、帰らぬ人となった。

 大阪でダビに付され、遺骨を富江が持ち帰った。

 富江が勲叔父さんに伴われて、山道をトボトボと帰っていた。小さな白木の箱を抱えていた。

「隆君。ありがとね。洋ちゃん、こんなになってしもうた」

 富江はそれを言うのが、やっとだった。


 四十九日法要が執り行われた。

 隆が学校の帰り、喪服を着た教師が山道を下りてきた。その教師は昨年、洋一の担任だった。

「時間ある?」

 隆は呼び止められた。教師は、目を泣きはらしていた。

 山道を少し横に入り、大きな岩の上に、2人で腰かけた。

「洋一君から、何か聞いとる?」

 隆は無言だった。

「給食費のこと聞いてない?」

 隆に残忍な気持ちが頭をもたげてきた。

「全部、知ってます」

 教師はしばらく黙ったままだった。


「そうやろなあ」

 教師は一語一語、かみしめるように言った。

 隆は立ち上がった。

「なんで、なくなった給食費が出てきたんでしょうか。ちゃんと調べんかったんじゃないですか」

 教師が急いで立ち上がった。

「いや。隆君。違うんや。仲間うちのことで恥ずかしいけど」

 隆は言葉をはさんだ。

「もう、いいですよ。そんなことじゃないかと、思っていました」


 その帰り、隆は和子に会った。

「洋ちゃんな、やっぱり給食費、盗ってなかったで。先生、白状した。お母さんにも言うといて」

 見る間に、大粒の涙が和子の頬を伝わっていった。

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村の少年探偵・隆 ~だまし絵~ 山谷麻也 @mk1624

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