7,流浪のフェイと山猫




 村が襲われて2週間くらいが経った。


 あれから山猫様と埋葬とか片付けをやった。


 ほとんど山猫様の魔法でやってもらったけど……。


 正直、何をやったかあんまり覚えてない。


 とにかくショックで、しばらく食べ物がノドを通らなかった。


 そんなある日。


『フェイ』


 山猫様から、久しぶりに声をかけられた。


「何ですか、山猫様?」

『うん。そろそろ決めるべきかと思ってね』

「決める?」


 ……何をだろう?


『フェイ』


 山猫様の縦長の瞳が、ジッと私を見る。


『君はこのまま山で暮らすかね? それともどこか度へ出たいかね?』

「……え?」


 急な提案に、私は小さく驚いてしまう。


「それは……どういう?」

『君が山に残ったのは、あの村があったからだろう? でも、もうなくなった』

「……っ!」


 山猫様に……たぶん、悪気はないんだろうけど。


 その言い方には少し……胸がざわついた。


『我輩としては旅がいいと思う。どこかの街へ行って、人生をやり直しなさい』

「それは……出ていけってことですか?」

『いや』


 山猫様は小さく首を横に振る。


『ただ……我輩といると、フェイの心が休まらない気がしてね』

「……!」


 ドキリとした。


 動揺したのを見透かされたのだろう……山猫様は耳をしょぼんと垂らして、


『すまないね。我輩も長く人と暮らしているのに、どうにも猫のコトワリを優先してしまう』


 猫のコトワリというのが何なのかは、正直分からなかったけど。


 たぶん、あの時のことを謝ってくれているんだなというのは、なんとなく分かった。


 野盗たちを、一瞬で灰にしてしまった山猫様。


 何の躊躇いもなくそれができてしまう山猫様に、私は恐怖を覚えてしまった。


 そのせいで、あれからずっと山猫様によそよそしくしてしまって……それがさっきの提案に繋がるのだろう。


「……ごめんなさいっ! 山猫様!」


 それに気づいて、私は思わず山猫様に謝っていた。


『フェイ?』

「山猫様が私を守ってくれたのは分かってます! なのに私、嫌な態度を取って……!」

『そんなこと気にする必要はないよ』


 山猫様はそっと私に近づくと、手の甲をザラザラした舌で舐める。


『これで仲直りしてくれるかな?』

「……っ!」


 私は頷きながら、山猫様の首筋に抱きついた。


 ――それから。


 結局、私は旅に出ることを選んだ。


 ずっとここで山猫様と暮らすのもいいけれど、外の世界を見てみるのもいい気がしたのだ。


 世界中を巡って、やっぱり山がいいと思ったらここに戻ってくればいい。


『忘れ物はないかな?』

「はい……ていうか、忘れるほど物持ってないですけど」


 軽い冗談に、私と山猫様は笑い合う。


 旅には、山猫様もついてきてくれることになった。


 というより、最初からそのつもりだったらしい。


『君をひとりで外に放り出すわけないだろう? せめて食い扶持は稼げるようになるまでは、面倒を見るつもりだったともさ』


 とのこと。


 そういうわけで、私たちは山を……村をあとにする。


 この山頂の向こう側に何があるのか、私は何にも知らない。


 だとしても、山猫様が一緒なら、きっと大丈夫だと思えた。


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100万回死んだ猫、今度は異世界に転生する べにたまご @Kanzetsu

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