6,流浪のフェイと山猫





「な、何だ!?」

「頭に声が……!?」


「山猫様!」


 混乱する野盗たちの後ろに向かって、私は大声で叫ぶ。


 すると、私の視線に釣られて、その場にいた全員がそちらを見た。


「ね、猫?」

「飛んでる……?」


 魔法で山から下りてきてくれたらしい山猫様は、ふわりと地面に下り立って、


『その子は我輩のお気に入りでね。手は出さないでもらえるかな?』


 と、普段通りの声音で、野盗たちに提案した。


『そうしてくれるなら、ふむ、理由もなし、諸君らのことは見逃そうではないか』


 それを聞いた野盗たちは顔を見合わせると、誰からともなく嘲り混じりの失笑を漏らした。


「へっ……何なんだこの猫は、偉そうに」

「おい、こいつも捕まえようぜ。見世物小屋なら高く買うだろ」


『ふむ……なら仕方ない』


 と、山猫様は片目を閉じて、


 次の瞬間、炎が踊った。


「な、何だぁ!?」


 突然の異変に野盗たちが動揺する。


 山猫様はそんなこと一顧だにせず、小さくクイッとアゴを動かして、


 そして、炎の群れが野盗たちを呑み込んだ。


 その時のつんざくような悲鳴に、私は再び息を呑む。


 炎の柱と化した人たちは、その場から一歩も動くことすらできなかった。


 まるで雷に打たれた木のように、ただそこで燃え尽きて、炭になって崩れ落ちるまで、人のような輪郭を私に見せていた。


 それから、どれくらい時間が経ったのか。


 山猫様が消したのか、村の火も全て消えていた。


 あとに残ったのは山猫様と、私だけ。


『フェイ、大丈夫かい?』

「……!」


 こちらへ近づく山猫様に――私は思わず後退る。


 それを見て、山猫様はピタリと足を止めた。


 2秒ほど間があって、


『ふむ……我輩は少しその辺を見てくるよ。奴らの仲間が潜んでいたら困るからね』


 と言って、山猫様はふわりとどこかへ行ってしまった。


「……」


 私はその後ろ姿を、ただ呆然と見送った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る