5,流浪のフェイと山猫
走る。
走る。
山をくだる。
運がよかったのか、山道を走ったにもかかわらず、転ぶこともなかった。
それがいいのか悪いのか――。
たぶん、山の上で火事を見てから、30分も経たずに麓に着いた。
そして――
「―――」
――別の赤が視界に広がった。
「え?」
人が倒れている。
見覚えは……ある。
あまりいい思い出ではないけれど。
話したことのある大人の人が。
石を投げてきた子供が。
遠目に何もしてくれなかったお爺さんが。
みんな、みんな、真っ赤になって倒れていた。
そこでようやく気づく。
火事じゃ、ない。
いや、火事は火事だけれど、失火や雷で起きた火事じゃなかった。
「ん?」
その時、誰かの家から出てきた男の人と目が合う。
「おい! ガキがまだいたぞ!」
男の人が叫ぶと、途端にわらわらと、仲間と思しき大人たちが村のそこら中から集まってきた。
その人たちは汚れた服を着て、刀とか槍とかを持っていた。
野盗だ。
村は野盗に襲われて、火を付けられたのだ。
「女か」
「あの歳ならいい値がつくぞ」
「……!?」
野盗たちに目をつけられて、足が竦む。
逃げなくちゃと思うのに、膝が笑って言うことを聞かない。
そうしている内に、野盗たちはこちらへ近づいてきて、もう手を伸ばせば届くような距離になっていた。
ああ――
今更のように後悔が滲む。
きっと山猫様との約束を破って山を下りたから、罰が当たったんだ。
ごめんなさい。
ごめんなさい、山猫様……。
『まあ待ちなさい』
その時、落ち着いたやさしい声が脳裏に響く。
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