4,流浪のフェイと山猫
私が山猫様の下で暮らし始めて2年が過ぎた。
すっかり山暮らしにも慣れた私は、今朝も日の出とともにぱっちり目を覚ます。
「んん~」
まぶたを開けると、そこには山神様のもふもふなお腹。
昨夜はしっかり胸に抱いていたはずだけど、また無意識に猫吸いを……これだけはいつまで経っても治らない。
『おはよう、フェイ』
頭の中に山猫様の声が聞こえる。
「おはようございます、山猫様」
私は返事をして、名残惜しさを感じながら起き上がる。
山猫様と一緒にう~んと伸びをして、ほっとひと息。
有り物で作った朝食を食べてから、洞窟の外に出る。
「わっ、寒」
顔を撫でた風に思わず身震い。
洞窟の中は山猫様の魔法で温度が保たれてるから、外に出ると温度差を実感する。
「さてと、それじゃ行ってきます」
『気をつけてねぇ』
山猫様に見送られ、私は山の中へ。
採るのは木の実や山菜、時々キノコ。
キノコは毒がある種類もあるので、帰ったら山猫様に鑑定してもらう。
と言っても、大体食べるのは全部私だけど。
前も仰ってたけれど、山猫様はほとんど何も食べない。
時折、小さな木の実をかじるくらいだ。
お陰で私は自分の分を採るだけでいい。
まあ、こうした食糧採取も前まで山猫様がしてくださっていたのだけれど……。
その上、魔法で夏は涼しく冬は温か、水も汲みに行かなくていいし、洞窟の中もいつも清潔でetcetc
もう本当に、山猫様には感謝してもし足りない。
「……」
村にはこの2年、一度も帰っていない。
山猫様との約束もあるけど、離れている内に里心も薄くなったように感じる。
今では時折思い出したり、山頂から見下ろして様子を窺う程度だ。
ああ、それでも。
心のどこかで、故郷がすぐ傍にあるということが、私に安堵感を与えていたのかもしれない。
だからこそ、その赤を。
「……!?」
わざわざ山頂まで登り、遠くから麓を見下ろして。
火で燃え盛る村を見た時、私の胸はヒドくざわついたのだろう。
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