3,流浪のフェイと山猫
山に来て数日が経った。
私は山神様改め山猫様に運んでもらった洞窟で寝泊まりしている。
最初は寝るのも大変だったけど、柔らかい草とかを運んできて、何とか寝床は確保した。
「どうぞ、山猫様の分も作りました」
『おや、それはありがとう』
山猫様にも好評でよかった。
『もし夜が寒かったら、我輩を湯たんぽ代わりにしてよいからね』
湯たんぽが何かは分からなかったけど、山猫様を抱いて寝るのはとても温かかった。
不敬かなとも思ったけど、山猫様のお腹に顔を埋めるのには、抗いがたい魅力がある。
山猫様を抱いて思いっきり吸うと、何とも言えない幸福感が湧き上がるのだ。
これが神の力なのだろうか?
一度真剣にそう尋ねてみたけれど、
『人間はどこ行っても猫吸いが好きだねぇ』
と、山猫様は笑っていた。
『やあフェイ、ご飯の時間だよ』
「ありがとうございます、山猫様」
今日の晩ご飯は、山猫様が獲ってきてくれた川魚と、私が拾ってきた木の実。
山猫様が魔法で火を熾してくれるので、調理もあっという間だ。
『いただきます』
「いただきます」
食事は山猫様と一緒にする。
ただ山猫様はあまり食べる必要がないそうで、ほんの一口ふた口食べると、残りは全部私にくれた。
お陰で、私は村にいた時より、ずっといい食事にありつけている。
それでも……やっぱり時々、育った村のことが気になったりする。
一度村を見に山を下りていいか、山猫様に尋ねてみた。
すると、山猫様はちょっと困ったようにノドを鳴らして、
『それはやめておいた方がいい』
と、悲しそうに言った。
「どうしてですか?」
『……実はフェイの前にもね、お供えとして山に来た子がいたんだよ』
それは初耳だった。
『その子も村の様子を見たいと言って、ある日山を下りたんだけどね……』
「……どうなったんですか?」
山猫様が言い澱んだので、私は凄く嫌な予感がしたけれど、続きを促した。
『殺されたよ』
「……」
『村人は、その子が私から逃げたと考えたらしいね。それで怒ったんだ』
山猫様はそう言って、とても辛そうに目を伏せた。
その子が殺された責任が、まるで自分にあるかのように。
私は何て言ったらいいか分からなくて、
「……分かりました。山を下りるのはやめておきます」
とだけ答えて、これ以上山猫様が悲しまないで欲しいと思った。
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