グッバイ、ベイビー。

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話


 自分でいうのもなんだが、僕はそれなりのモテ男だ。

 女性というものには、これまで一度も困ったことがない。

 正直にいってしまうが、僕はそれなりに女性に酷いこともしている。

 いわゆるヤリ捨てのようなことは何度もしたし、泣かせたこともある。

 妊娠させた女に中絶するように言ったこともある。

 ひどいときには、殴ったり、動画を撮ってばらまいたりもした。

 女遊びはさんざんやった。

 正直クズといわれてもしょうがない。

 けど、それくらい別にいいだろう?

 だって僕は男前で、求められるし、強いオスだ。

 だからこのくらい許される。

 女性だってそれなりに僕に抱かれて喜んでいた。

 僕がちょっと顔がいいからって、すぐに遊ばれる軽い女ばっかだ。

 そんな女たちには微塵も恋愛感情を感じない。

 いつも身体をかりて性欲を処理するだけだ。

 他人なんか、僕が気持ちよくなればどうでもいい。

 そう思って生きてきた。

 だけど僕は34のとき、運命の人に出会った。

 僕は恋に落ちて、結婚した。

 結婚したからには、僕もまともになろうと決めた。

 誠実になって、浮気はしないし、真面目に働いて、彼女を守ろうと誓った。

 これまでの僕は死んだんだ。

 僕は反省し、真人間になった。

 そして僕たちには可愛いい可愛い娘が出来た。

 娘はすくすく育って、大人になった。

 そして娘は20歳になり、ある日家に男を連れてきた。

 紹介したい人がいるのだという。

 そうか、娘ももうそんな歳か。

 しかし娘が連れてきたのは、娘よりも10は上の男だった。

 しかも肌黒で、金髪、いい歳して奇抜なファッションをしている。

 とてもじゃないがまともな大人には見えなかった。

 もちろん僕は反対した。

 このような男と娘が結婚するなんて、ゆるせるずがない。

 僕は直感的にその男がクズだと理解した。

 なぜなら若いころの僕も彼のような男だったからだ。

 とりあえず、この男には灸をすえる必要がある。

 僕は男と二人で話がしたいと言った。

 男は乗り気だった。

 男と二人きりになると、急に男は笑いだした。

 なにがおかしい。

「いえね、娘はお前なんかにやらんなんて、どの口がいうのかと思って」

「なに?」

「あんただって、若いころはさんざん遊んでいたくせに」

「なぜそれを知っている」

「あんた、みゆきって覚えてるか?」

「誰だ?知らないな……」

「あきれたな……昔あんたが妊娠させて捨てた女だよ」

「そんなの……覚えてない」

「俺はその息子なのさ……!」

「なに……!?」

「俺は、あんたに復讐しにきたんだ」

「残念だが、娘は絶対にやらんぞ。復讐なんかできない」

「残念だが、復讐はすでに完了している」

「どういうことだ?」

「あんたの娘、とんでもないビッチだぞ」

「は……?」

 そんなはずはない。

 娘には悪い男がよりつかないようになによりも大切に育ててきた。

 僕のようなクズ男にひっかからないよう、しっかり教育したつもりだ。

 娘には婚前交渉はするなといってあるし、それを守っているはずだ。

 学校だってすべて女子校だし、グレることなくまっすぐ育った。

「これを見ろ」

「これは……」

 男はスマホの画面を見せてきた。

 そこには男とまぐわう娘の姿が映っていた。

 しかも動画は何本もあって、どれも過激な内容ばかりだった。

「あんたの娘は、今や喜んで俺のケツ穴をなめるような変態だ。俺が全部調教した。あんたの娘は俺にぞっこんだ。あんたがいくら結婚に反対しようが、かけおちか、もしくはそれができなきゃ心中する勢いだ。どうだ、あんたの最愛の娘は、この俺のものだ」

「おええええええええええええええええええええええ」

 僕はその場に盛大に嘔吐した。

 気持ち悪い。絶対に許せない。

 こんなカスみたいな男に、これまで大切に育ててきた娘を篭絡されてなるものか。

 僕の大事な娘を傷ものにしやがって。

 僕は許せなかった。

 こんなクズ男が、娘の大事な純潔を奪い、汚したなんて。

 なによりもの屈辱だ。

「このやろう! ころしてやる!」

 僕は彼に殴りかかった。

「やめてお父さん!」

 娘が止めに来る。

 でもかまわずに僕は男をボコボコにした。

 男は後日僕を訴え、僕は傷害罪で逮捕された。

 僕が逮捕されているうちに、男は娘を連れてどこかにいってしまった。

 今頃娘はなにをされているのだろうか。

 そう思うと夜も眠れない。

 僕は激しい心の痛みに耐えた。

 そして思ったのだ。

 かつて僕が女性たちにしてきたことを。

 僕が捨ててきた、傷物にしてきた娘たちにも、同じように親がいたのではないかと。

 僕は激しく自己嫌悪した。

 後悔した。

 ああ、僕はなんということをしてしまったのだろう。

 親になって初めてわかった。

 僕はひどいことをしてきた。

 ひどい人間だ。

 僕はようやく、自分のしてきたことの愚かさを認識した。

 女性をもののように扱った過去の自分を恥じた。

 僕はしょせん、あの男と同じく、ただのクズ男の一人にすぎない。

 モテるからといっていい気になって、すべてを手に入れようとした。

 その末路がこれだ。

 僕が犯した過ちのせいで、娘は奪われてしまった。

 娘はもう帰ってこないのだろうか。

 なぜこんなことになったんだ。

「ええい、こんなもの!」

 僕は出所後、自分のペニスを自分で切り落とした。

 



 

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