雨音の色づかい

凪村師文 

目で聞く

 ここ最近、雨の日が続いている。六月のちょっと生ぬるい風を感じる雨の日である。廊下の大きな窓に、やわらかい風に乗って雨粒が打ち付けられていた。校舎の東に位置する昇降口で靴を履き替え、傘立ての中を漁る。そして今日もまた朝持ってきていた自分の傘が無くなっていることに気づく。誰かが取っていったのだろう。特に気にすることも無く彼女は鞄から予備の折りたたみ傘を取り出して、さした。

 どんよりとした、灰色の空。容赦なく降る雨。地面に落ちて飛沫があがる。その中をゆっくりと彼女は歩く。正門を抜け左に折れる。歩道の右をたくさんの車やトラックが行きかうが、彼女は気にすること無かった。目の前に広がる灰色のセカイをただぼんやりと眺めながら歩いていたのだった。

 いつもは明るいセカイでも、今日は妙に暗いセカイであった。

 信号待ちをする間にも、彼女の目の前を多くの車が通り過ぎる。中にはエンジンを改造しているのか、大きな音をたてながら走る車もいた。隣で信号待ちをする若い女が大きな音に対して顔をゆがめたけれども、彼女は表情を一切ゆがめない。なにもなかったが如く、ひたすらに信号が青になるのを待っていた。

 信号が変わり、渡る。渡り切った先にある小さな公園に彼女は入った。いつもは学校帰りの小学生でにぎわう砂場は、ただひたすらに雨に打たれるだけの砂場でしかなかった。まだ照明がつくには早い時間だが、雨ということもあり公園の照明は既についていた。

 水たまりに彼女の顔が反射する。高校生にしては大人の雰囲気がある、整った顔だった。

 そして、彼女の耳についている銀色の物体が、水たまりで反射した公園の照明の光を受けて、きらりと光った。






☆あとがき☆



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雨音の色づかい 凪村師文  @Naotaro_1024

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