デスゲーム&クローズドルーム



『マウス端末保持者の死亡』



詩良の爆弾付き首輪の解除条件。


人死を強要する内容に現実感が湧きにくい。なにかの冗談だとさえ思う。この首輪にしてもそうだ。爆弾付きだと言うが、本当に爆発するのか?


確かめてみたくはあるが、もしもの可能性でそれが本当だった場合、首が吹き飛び即死。おいそれと試せるものではなかった。


だいたい、この場所は一体何処で何故自分はこの様な事態に巻き込まれているのか、さっぱり分からない。


ここで目覚める前。確か学校からの帰り道だった。その途中で記憶が途切れている。その時に何者かの手によって拉致されたのだろうと詩良は推測する。


異質な現状に置いても詩良は淡々としており、冷静に現状を分析して取り乱しもしなかった。



どうしたものかと考える。このままここに居ても現状は動かない。それにゲームルールによれば、1階から順に時間経過で進入禁止エリアとなる。進入禁止エリアに滞在していれば首輪が起動する。それはつまり死を意味した。


まずは上の階層を目指す。それと首輪の解除もしたい。


端末のマップ機能で最上階のマップを見てみると、ポツリと1箇所だけ進入禁止エリアになっている場所があった。実に不自然な箇所である。おそらくこれがゴールポイントなのではないかと思った。


クリア条件はゴールポイントへの到達であって首輪の解除は含まれてはいない。しかし、ゴールポイント内が進入禁止エリアならば首輪を外さなければゴールポイント内に入ることは出来ない。


記載されていないだけで、ゲームクリアには首輪の解除は必須ということだろう。なんとしても解除条件を達成して首輪を外す必要があった。


詩良は手にしている端末に目を落とす。そこには人死を強要する内容が書かれており、軽いはずの端末が妙に重く感じた。


他人に興味などない詩良ではあるが、進んで人を殺そうとは思わないぐらいの倫理観は持ち合わせていた。


出来れば人殺しなどしたくはないが、それで自分が死ぬのも嫌だった。この世に未練はあまり無いが、潜在的に死に対する恐怖はある。それに簡単に死を選ぶのは癪に障った。






ーーーーー






「ひぇええ......。なんでもするので命だけはお助け下さい......!お願いしますぅ......!」



床に額を擦り付けて無様に土下座をする男を前に詩良は自分が運がいいと思った。


行動を開始して早々に他のプレイヤーに遭遇した。


自分と同い年ぐらいの男。端末を弄っていたので気配を消して背後から近寄って声をかけた。それに驚いて情けない声を出し飛び退いた男だったが、詩良が若い女であると見ると態度を豹変させた。


なんかすごくイキリ散らかした。その態度にイラッとしたので反射的にボコボコにした。男は驚くほど弱かった。


結果、コレである。


男の床に擦り付けた頭を踏みつけながら、詩良は男から取り上げた端末を確認した。



『mouse』の文字とネズミの絵柄。



マウスの端末で間違いないだろう。


コレがマウス端末の所持者。


運がいい。自分の首輪を解除する条件が目の前にあった。


コレを殺せば首輪を外すことが出来る。



............。



......人を殺すのか?



............。



他人に興味などない。しかし、だからといって簡単に人を殺せるほど詩良は狂ってはいなかった。


それに、このゲームがタチの悪い冗談という可能性もまだある。そうだった場合、殺人などしようものなら詩良はただの殺人鬼で犯罪者だ。ここから出たあとに自宅に帰還ではなく豚箱に直送されることになるだろう。手を汚したくは無い。余計な罪など背負いたくは無い。



(......今は止めておこう)



コレを殺さなくても、なんとかここから抜け出す手段がある可能性も否めない。まだ、ゲームは始まったばかりだ。殺人に手を染めるのは、もう他にどうしようもなくなった最後の手段でいいだろうと詩良は結論を出した。



「あんた、名前は?」



頭を踏みつけたまま詩良は男に声をかける。



「はい。私は中里真弘と申す者です」


「そう。私は詩良」


「詩良様ですね!どうかこの愚鈍な凡夫にお慈悲を!ホントなんでもします!なんでもしますから!命だけはお助け下さい!お願いしますお願いします!」


「なんでもするって言ったね?」


「はい!詩良様の命令とあれば何でもいたします!」


「いいよ。助けてあげる。だから私の言うこと聞いて、なんでもしてね?」


「はい!仰せのままに!」



詩良は真弘の頭から足を下ろす。



「頭、上げて」


「はい!」



ガバッと床にこすり付けていた頭を上げる真弘。その顔前に詩良は真弘が所持していた端末を掲げて告げる。



「コレは私が預かるから。もし逆らったりしたら......壊すね」


「は、はひぃ......」



端末の破壊が何を意味するか。


首輪の解除に端末は必須だ。端末が壊れれば首輪を外すことが出来ず、結果として時間経過で爆発する。現状に置いて端末はイコールで自分の命と直結している。それを他人に握られるのは命を握られているのと同義だ。


真弘の生殺与奪は詩良によって握られた。



(今は、まだ、これでいい)



これで真弘は詩良の言いなりだ。こうしておけば逃げられることも無いし、いつでも好きにできる。


詩良は真弘を傍に置いておくことにした。


詩良のように首輪の解除条件に他のプレイヤーを襲うことが前提のモノがいくつかある。となればそういったプレイヤーに襲われ戦闘に至る可能性があるのは目に見えていた。


他にもなにか危機的な状況に陥る場合もあるだろう。


その時に肉壁にでもしようと思った。囮にするのでもいい。何かしらの役には立つだろう。


そして、ついでにその過程で死んでくれたら御の字。自らの手を汚さずに解除条件を達成出来る。


解除条件はあくまで『マウス端末保持者の死亡』であり、自分で殺せとは書いていない。


進んで人を殺すのは気が乗らない。しかし、他の誰かが殺人を犯したり、不慮の事故で死んだりしても、詩良は特に何も思わない。


生きている目的は無いが、死にたくは無い。殺しをしたくもない。だが、他人がどうなろうと興味は無い。自分に関係ないところでの生き死にであればいい。自分はそれに関与したくは無い。


それが詩良の自分自身の中にある線引きであった。






ーーーーー






ゲーム開始から10時間ほどが経過した。



真弘と詩良、2人で行動を共にし、事は概ね順調に進んだ。ゲームプレイヤーのグループの中で3階に初到達を果たす。


所定時間までの生存が首輪解除条件の真弘と真弘さえ居れば首輪解除条件が満たせる詩良。


他プレイヤーと接触する利点が少ない2人は必然的に他プレイヤーを避けるように行動した。真弘の端末にインストールされたプレイヤー探索のアビリティが大いに役立つ。


他プレイヤーに接触することでプラスなることはあるだろうが、出会ったプレイヤーが善人だけとは限らない。突然、襲われて戦闘になる可能性もある。


ゲーム開始から5時間経過したあたりでプレイヤー探索を使用した際。プレイヤーを示す点の数がひとつ減っていることに気がついた。


おそらくは1人目の脱落者が出たという事だ。


首輪が起動したか、誰かに殺されたのか、はたまた現状に絶望し自ら命を絶ったか、それとも他に何かしらの要因があったのか......原因は分からないが、なんにしても人が1人ーー死んだ。


直接見たわけでも無く現実感は湧かないが、背筋が凍る思いだった。



「ぬぐぉお......死にとうない......死にとうないよォ......」


「そうだね。死にたくは無いね」


「ですよね!詩良様!なんとしてもここから2人で生きて脱出しましょう!」


「......そうだね」


「そういえば今更ですけど、詩良様の解除条件ってなんですか?俺は時間まで逃げてれば大丈夫だけど詩良様はなんかしなくて大丈夫なんですか?」


「......私は、これ」



そういって詩良は真弘に端末を見せた。


その端末には『rabbit』の文字とウサギの絵柄が書かれている。



「なになに......『他の参加者と36時間以上行動を共にする』と。なるほど。つまりこのまま一緒に行動してればいいだけ?うわっ、なにそれ、ちょろぉ!こりゃ余裕で2人で脱出して賞金いただけるのでは?ちょっとヌルゲーすぎません?ラッキー!」


「............」



嬉々としてイキる真弘を前に詩良は口を閉ざす。


詩良は思う。


詩良を主人と付き従う従者ーーないし何かとヨイショして持ち上げてくる下っ端取り巻きの様に振る舞う真弘。


真弘はバカではあるが悪人ではない。むしろ善人寄りだ。バカだが。ここまで行動を共にしてきて、そう感じた。


真弘の端末を握り、命令を強要している詩良だが、それでも真弘はそれをあまり感じさせ無い。


口数の少ない詩良に対して真弘はペラペラと無駄口が多い。放っておくと返答の有る無し関係なく永遠と話し続けている。まるでそれが当然の様に、普段から詩良のような人物をよく相手にしている様な自然体で接してくる。


不思議と不快感は感じなかった。


真弘と2人。よく知りもしない男と、会ったばかりの男と、この非日常で2人きり。


それがどうしてか居心地が悪くないのだ。



だからか、詩良は真弘を騙した。



詩良はゲーム開始時から端末を2つ所持していた。


ひとつはスネークの端末。そして、もう1つ『wild』の文字だけが表示された端末だ。


ワイルドーーそれは他の端末に偽装できる特殊な端末だった。真弘は端末をひとつしか所持していなかったから、端末を2つ持っていた詩良は特別なのかもしれない。理由は分からないが。


詩良はワイルドの機能を使い解除条件が緩かったラビットの端末に偽装して、それを真弘に見せたのだった。



(騙す必要......あったかな)



詩良は真弘の端末を所持し真弘の命を握っている現状で、わざわざワイルドの偽装機能で真弘を騙すーー否、安心させる必要があったのかを自問する。


いや、その必要はあった。もし真弘に自分の首輪を解除するのに真弘を殺す必要があると知られれば真弘がどのような行動をとるか分からない。いくら命を握っているからといって玉砕覚悟で襲いかかってくるかも知れない。


それならばそもそもの問題で真弘に自分の首輪解除条件を教える必要はなかったのではないか?真弘の問いかけに沈黙し、隠していればよかった。


そうしなかった。何故?


明確な答えは出なかった。


代わりに『ただなんとなく嫌だった』という漠然とした答えのみが出た。






ーーーーー





『エクストラゲーム!』



「なにごと!?」



それは突然だった。


真弘と詩良が何かと物資が無いかと小部屋に入ると、どこからともなく無機質な機械音声が聞こえてきた。



『これより中里真弘様および田井中詩良様の2名にはエクストラゲームに参加していただきます』


「突然なんなんですか、それェ!?」


『まずは端末にてマップをご確認ください』


「マップ......は?ナニコレ!?ウソでしょッ!?」



機械音声に従いマップを確認した真弘は驚愕の叫びを上げる。


真弘達が居る小部屋を覗いてマップ全域が真っ赤に染まっていたからだ。



『中里真弘様と田井中詩良様のみ、この部屋以外を進入禁止エリアに指定させて頂きました』


「なんたる理不尽!?えっ、それってこの部屋から出たら首輪ボカンするじゃん!」


『お2人にはこれを解除するためのミッションが設定されました。ミッションをクリアしないと進入禁止エリアは解除されません』


「強制参加というわけね」


『ミッションの内容は小部屋中央のコンテナ内にある指令書をご確認ください。それではエクストラゲームスタート』



言うだけ言って機械音声が途切れた。



「唐突すぎる.......」


「なんにしてもやるしかないね。真弘、箱開けて」


「了解です!」



真弘がコンテナを開けると中には白い紙が1枚だけ入っていた。取り出して中身を確認する。



「ほう」



紙に書かれていたミッション内容に真弘は思わず二チャリと笑みを零した。



「なんて書いてあったの?」


「これです」



真弘は詩良に指令書を渡す。詩良はその指令書の内容を確認する。


そこにはこう書かれていた。



『腟内・射精1回』



極めて端的に、分かり易く、簡単に、真弘と詩良がこれからヤラなければならない事が書かれていた。


腟内とは腟内の事である。


射精とは射精の事である。



「詩良様......どうやら生ハメ生中出しをしないとこの部屋か出れないみたいです......コレはコマッタナー」



とか言いつつ真弘はとても嬉しそうである。


ミッションをクリアしないと進入禁止エリアは解除されず部屋から出ることが出来ない。


つまりエクストラゲームのミッションにより真弘と詩良が居る、この部屋は......。



『セックスしないと出れない部屋』と化した!



「............」



詩良は無言で指令書をくしゃくしゃに握り潰した。










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両親不在をいい事にクラスメイト女子を自宅に連れ込んだら他にもなんか来た 助部紫葉 @toreniku

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