デスゲーム&ファーストコンタクト
現状に戸惑いながらも真弘は行動を開始した。
先ずは端末のマップ機能の確認をする。
端末上に表示されたマップ画像はかなり広大だ。全体像は画面に収まりきらずスクロールしないと端から端までが確認できない。まるで入り組んだ迷宮のようだった。ローグライクゲームのダンジョンマップを連想させる。
そのマップ上の2×2マスのマス目の中にポツリと青い点があった。それ以外は特に何も表示されていない。おそらくこれが自分の現在地を示しているのだろう。無機質な部屋の壁の端から端まで動いてみるとそれと連動して青い点が動いた。
左上には1F~9Fと表示されていて、1Fの文字の横には矢印が付いている。これが1階のマップ画像であることが分かる。
こんな広いのが9階もあるのかと内心で辟易とするが、逆に考えればこれだけ広ければ逃げ道もいくらでもある。悪いことばかりではないだろう。
ゲームをクリアすれば大金が手に入る。賞金は山分けだ。自分以外のプレイヤーの中には大金に目が眩んで他のプレイヤーを亡きものとして独り占めにしようと考える悪党も居るかもしれない。
他のプレイヤーに接触するのは危険だと真弘は考えた。ゲームの全容は把握しきれていないが、自分の命を握る首輪の解除条件はただ生存すればいいだけの一見簡単そうで平和的な内容だ。
首輪の解除条件はそれぞれのプレイヤーの端末ごとで違うらしい。その内容は分からないが、こんなデスゲームを企てる連中が、真弘のような平和的な条件ばかりを設定している筈がないと思った。
デスゲーム。そうこれはデスゲームだ。
首に装着されているコレは爆弾で、進入禁止エリアに踏み込めば爆発して首が吹き飛び命を落とすことになる。
時間経過と共に進入禁止エリアは拡大していき、最終的には全エリアが進入禁止エリアとなる。つまりそれまでに首輪を外さなければタイムアウトで死亡する。
何か悪い冗談かと思わないこともない。でもそれを確かめる術は現状無い。確かめた結果、死んでしまっては元も子もない。
ふつふつと湧き上がる死の恐怖が足元から這い上がってくる感覚を覚える。大金にテンションが上がっていたが、よくよく考えるととんでもない状況だ。日頃から幼なじみ様にフルボッコにされて臨死体験を経験している恐怖とはまた別種の恐怖。
脅威は首輪だけでは無い。他のプレイヤーもそうだ。大金を手にしたいが為に他のプレイヤーがクリア人数を減らそうと襲ってくるかもしれない。また首輪の解除条件に他のプレイヤーを害することが設定されている事もあるかもしれない。そのことから他人はあまり信用出来ない。出来れば1人で行動するのが安全にクリア出来る最善策だ。
これはシンドい......真弘は素直にそう思う。
しかし、根が楽観的で馬鹿な真弘である。とりあえず逃げ回ればええんやろ?逃げるの得意やしイけるやろ!なんて結論に至るのであった。
ずっとココに居ても仕方ないと真弘は行動を開始した。
マップ上に次の階層に続く階段と思しきものは表記されていない。1Fが進入禁止エリアとなる8時間以内に次の階層に続く道を見つけなければならなかった。出なければそこでタイムアウトのゲームオーバーだ。
目覚めた部屋の扉をそっと開けて通路に出る。通路は部屋と同じように剥き出しのコンクリートの壁に白い床と白い天井。天井には埋め込まれたLEDライトが等間隔に付けられている。
人の気配は......無い。
耳が痛くなるほどの静寂。物音ひとつ聞こえない。
ひとつ大きく息を吐く。思いの外、緊張していたようだ。
目の前に見える通路とマップを見比べてみる。少し先にはT字路が見える。どうやらマップは正確のようだ。
宛もなく彷徨うか、どうするか。
マップを見てみると少し行った先に2×2マスの空洞がある。おそらく真弘が目覚めた場所と同じく部屋になってる部分かと思われる。
この施設には武器や食料、他には役立つアイテムなどが宝箱の如く配置されているらしい。ゲーム時間はまるまる3日間。それまで何も飲まず食わずとはいかないだろう。それを意識すると急にお腹が減ってきた気がした。
武器はともかく何かしらの食料が無いか。真弘はひとまずその部屋に向かって歩き出した。
(......お邪魔しマース)
音を立てずに慎重に扉を少し開けて中の様子を伺う。
誰もいない......多分。
ホッと胸をなで下ろして真弘は部屋の中に入り扉を閉めた。
最初の部屋と同じように殺風景な部屋ではあったが、部屋の中央にコンテナボックスが設置されている。アレの中に物資が入っているのだろうか。
真弘は特に何も考えずにそのコンテナボックスを開けた。罠だったり等の可能性は微塵にも考えず......実に軽率な行動だった。
「なんかの......カード?」
コンテナの中にはアクリル版が入っていた。
手のひらに収まるサイズの小さなカード型の透明なアクリル板だ。そのアクリル板の中央にはICチップが埋め込まれている。
コレは一体何なのか......少し考えて、そういえば設置されているアイテムの中には食料や武器の他に端末をアップデート出来るアビリティカードなるものがあるというルール内容を思い出した。
もしかしたらこのアクリル板がアビリティカードなのかもしれない。
真弘は早速自分の端末にアクリル板をかざしてみる。するとAppleストアで課金が完了した時の様な電子音が鳴って画面が切り替わった。
アビリティカード:プレイヤー探索
効果:マップ上に全プレイヤーの位置を表示する
効果時間:10分
再使用時間:1時間
使用回数:∞
アビリティをダウンロードしますか?
YES/NO
(DL回数1回)
「おっほっ!チートスキルキター!なんなんこの便利スキル?これはもう勝ったな!」
真弘は迷わず「YES」の文字をタップした。
効果時間に再使用までの時間はあるものの、これは逃げる真弘にとって破格のアビリティであると言えた。これで他のプレイヤーの位置を確認しながら、それを避けつつゴールを目指すことが出来る。
実に運がいい。真弘は自分の運のよさを信じてもいない神様に感謝した。ありがとうございまーーす!
真弘は早速、ダウンロードしたアビリティを使ってみることにする。プレイヤー探索のアビリティを使用するとマップに赤い点が表示された。
赤い点の数は全部で11。つまりこれは真弘の他にプレイヤーが11人居るということだろう。その赤い点はマップ上に疎らに表示されている。
(ふむふむ......。1番近くの他のプレイヤーは......)
そこで気がつく。
真弘の現在地を示す青い点がマップ上に無い。
このアビリティを使用すると自分の場所が表示されなくなるのか?そう一瞬、考えた。
しかし、それは違った。
よくよくマップを見ると真弘を示す青い点はあった。
ただ青い点の上に赤い点が覆いかぶさっていて、分かりずらかっただけで青い点は消えてはなかったのだ。
それが意味することとは、つまり......。
「へぇ。それ、便利そうだね」
声。
そして背後に人の気配。
「うひぃいっ!?!?!」
情けない悲鳴を上げながら真弘はその場から飛び退いた。力の限り床を転がりながら声を発したソレから距離をとって、ソレの姿を確認する。
冷ややかな視線が真弘を見下ろす。
その瞳は
これが真弘と詩良の初めての出会いであった。
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