「はる、部活休部するって」

そんな情報を吉乃から聞いたのは、高校2年生になってすぐのことだった。先輩たちの引退を見送って、同級生4人、後輩2人、マネージャー2人、あとは貫太と航と仁以外はほとんど来ない男子たち。そんなバレーボール部で、1番上の学年になって、副部長として、頑張ろう、そう思っていた私のもとへ飛び込んだ、ニュースだった。

「なんで??足、治ってきたとこじゃん」

はるは前の夏に着地をミスって大きな怪我をして、治療していた。そして、最近日々のリハビリの甲斐があって、やっと、満足にバレーボールができるくらい回復してきていた。

「私もわかんないよ。」

温厚な吉乃にしては、尖った声だった。その声で、ああ、吉乃も同じ気持ちね、と悟って、そっか、とそれ以上聞くのはやめた。

「会った?最近」

休み時間に聞いてきたこともあって、もう会話が終わると思い込んでいたために、不意打ちの質問に、ん???と聞き返してしまった。が、頭の中で再生して、質問に答える。

「いや、会ってないなあ。今年、クラス違ったし。」

確かに、本当に会っていなかった。春休み中、はるは不運なことに季節外れのインフルエンザにやられて部活に来れず、そのまま新学期、学年初めの学力確認テストのせいで部活は中断されていた。いや待てよ、と私の頭は冴える。

「吉乃、会ってないなら、誰に聞いたの、その話。」

吉乃は時間を気にしながらそれに応えた。

「顧問。きのう、挨拶したのよ。ほら、遠藤先生。」

ああ、あの特徴のなさそうな、と思い出す。

「特徴なさそうとか言うな。失礼だな、なんかちょっと厳しそうだったよ。そんで、遠藤が、『休部するのは、加藤はる、さんで合ってる?』って。へ?って声出ちゃったよ。なんか、丸山先生には、言ってたらしい。それで、引き継ぎで…。」

ふうん、と言うしかできない。私の冷静な部分は遠藤、て呼び捨ては失礼じゃないんかい、と突っ込みつつ、ほとんどの部分が、すごく驚いて、焦っている。2年前に、父に癌があるかも、って告げられた時みたいに。結局父は何の異常もなかったのだが、その時はなんで?どうして「かも」なの?正確なことわからないの?と次々疑問が湧き上がってきて、心配で、変な汗が湧き上がってきて、何にも手につかなかった。キーンコーン、カーンコーン、と、始業を告げるチャイムがなり、私はどうにか冷静な部分をフル稼働させて、じゃ、と吉乃に別れを告げて、教室へ走る。でもそんな中でもはるの顔がぐるぐる感情を支配してしまう。教室について席について、なんか吉乃が私の後ろ姿になんか言ってた気がする、と思って慌ててLINEを開く。なんて言ってた?ごめん!と打とうと思った時、吉乃からメッセージが届いていた。

『あんまり、考えすぎんな。私、今LINEしてるから。学校にも来てないみたい。返事きたら、すぐ報告します。』

ああ、吉乃のこういうとこ、ほんとすごい。彼女にそう言われるだけで、なんの根拠もないのに少し安心する。まあなんでもないでしょ、多分。と父の時と重ね合わせて、そう思った。

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高校時代。 早苗史乃 @naesi

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