高校時代。

早苗史乃

「はるの大学合格を祝って!!!」

「「「かんぱーい!」」」

 私、佐野葉月。来月から大学2年生だ。

 はるは高校時代、バレーボール部のチームメイトである。3月の終わり、花粉症でもない私には春の新芽の香りと陽気な日差しが心地いい。多くの人々が1週間後に控える新しい年に向けて浮き足立っていた。それは、私たちも例外なく。

「まさか、ほんとに受かるとはな。」

「正直ほんとにすごいと思う」

貫太と航が口々に言う。男子のチームメイトは、貫太と航、それに今日は留学中で来れなかった仁の3人だけだった。じつは、はじめはもっといたのだ。バレーボール部にも、男子が。中学まででバスケや野球に飽きてノリでバレーボール部に入った彼らは、強かった先輩たちが引退した瞬間にやる気を失い、ちょうど変わった顧問が厳しくて心が折れ、次々と辞めてしまった。そして、気づけば貫太たち、3人しか残らなかった。まあ、そのおかげで、少数精鋭、「チームメイトの絆」は強くなった。ここだけは、辞めた男子たちに感謝できることかもしれないと思う。

 「ほーんと、2年前までは進級さえ危なかったのに」

いたずらっぽく言ったのは、吉乃。私たちの部長だ。天真爛漫でお転婆なところはありつつも、芯のある女性だった。なんだかんだで、言いくるめられてしまう。それでいて、プレーも精神的にも支えになる。まさに適材適所、部長のポジションは彼女にぴったりだった。

 「将来は養ってもらおうかなあ」

自由人な沙耶はそう呟いた。沙耶は現役で大学に受かったはずなのに、去年の3月に石川で起きた震災に心を痛め、1番楽しいはずの大学受験後の春休みを全てボランティア活動にささげ、そのまま何を思ったのか大学を辞退してボランティア団体に入り、東南アジアに飛び立ってしまった。今日だって、ダメもとで沙耶を誘ってみたらたまたま日本にいたのである。昨日、ベトナムから帰ったと言う彼女は、高校時代より大人びて、少し、違う世界に行ってしまったようであった。なんのあてもなく彷徨っているような気がする彼女だが、今が充実していればいいんだと、人間いつ死ぬかわからないんだからと、開き直ったように言う。そんなさばさばした性格に、私たちは幾度となく助けられたものだった。

 「まあ、医者は道のり長いからなー。沙耶は、はるが稼げる医者になるまで待てるかなー」

と遠回しにいじってみると、えー冗談だしー、と沙耶は口を尖らせて呟いて、皆から口々にからかわれている。そんな彼女らを横目に見ながら、しっかりと、頷くように、はるの目を見た。

 「ほんとに、よくやったよ。」

「でも、まだこれがスタートラインだからね。」

謙遜するようにはるが言うから、そこ立てたのも、誰のおかげだと思ってんだよ……。と笑いながら言おうかと思ったとき、はるは皆に聞こえるように言った。

 「私が夢、諦めずに済んだのも、皆のおかげ。本当に、ありがとう。」

「全然、感謝されるようことしてな…」

沙耶がおどけるように、照れ隠しのように言いかけたけど、はるはピシャリと「沙耶は、私に養ってもらったら、おあいこだよ?」という。また、皆がどっと笑う。

本当に、この7人(1人いないけど)、チームメイトたちといると、高校時代が蘇ってくるようだ。楽しいことも、辛いこともあったけど……。今となっては、全てのことが思い出になって、あんなに辛かったことも、苦しかったことまで、全てが輝いて見える。




………そんな私たちの、青春のはなし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る