反射

マッチゃ

また冷たいドリンクを口に含んだ。ただでさえ肌寒い風の吹く街のカフェで体が凍えそうになる。


「○○○って付き合ってる人いるの?」


「いないよ」


「え〜もったいないよ〜。○○○モテそうなのに」


「そんなことないよ」


僕は空気も読まずこんなことを聞いてくる女の子の方を見つめていた。純白のワンピースに身を包んだ彼女はいかにもモテそうな風貌をしている。


「私またカレシに浮気されてさ〜」


「カレシさんマジメそうな人だったじゃん」


「そうなんだけどさ〜…」


もしこれが、"カレシともう別れたいから、そうなったら付き合ってくれ"という暗示だったらどんなに良かっただろうか。でもそうじゃないと分かっている。分かって、理解しているからこそこんなに心が寒いんだ。


「…って感じで私のこと見てくれないっていうか〜…」


僕のことを見て欲しい。僕のことだけを見ていて欲しい。でも僕はその役に立候補すらできない。


「だからカレシのためにかわいいかっこするんだ〜。なかなか気づいてくれないけど。」


僕だって昔はよくそういうことをしたもんさ。でもそれって結局欠乏感を身にまとってるだけなんだ。


「次は髪をいつもよりバッサリ切ってみるんだ〜。今度こそ気づいてくれるかな?」


僕だったら気づいてあげるさ。でも僕にそれができても君は振り向いてくれないんだ。


「○○○は恋人作る気もないの?」


僕が普通の人間だったら作れたのかな…なんて。そんなこと考えても意味ないのに。


「ないよ」


「そうなんだ〜。絶対モテるのに。」


「2回も同じこと言わなくていいよ」


また君はそうやって僕の心を振り回すんだ。


「カレシと別れたら付き合ってください。なんちゃ……うやっ!びっくりした〜。女の子が女の子押し倒しちゃいけないんだぞ〜。」


自分でもこんなことをすると思っていなかった。

自分の行動に驚きながらも、まだすごい速度で動いている自分の心臓を抑えながらこう言った。


「…君が悪いんだぞ。」


その後しばらく沈黙は続いた。時が止まったような視界のなかでただ彼女のまとった充足感だけが華やかに香っていた。


僕がこんなことをしてしまうのも、きっとこの街がまだ寒すぎるからだ。

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反射 マッチゃ @mattya352

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