第2話

 そのうち中山からの連絡は来なくなり安心したが、就活の年に、「就職したらなかなか会えなくなるし、久しぶりに忘年会しようよ」と高校の仲良し+中山のグループラインに中山が投げた。お前が発起人の立場で言うなよと思ったけど、みんなツッコむこともなく賛成していたので僕も周りに合わせた。


 みんなクラスカーストなんて古いものはもう取っ払っていて、フラットな目線でそれぞれと関わっていた。僕だけが昔の立ち位置に固執して、くだらないプライドを保持したまま大学でろくに友達ができず、就活も書類を出した大企業にすべてフラれ、中小企業しか内定をもらえず惨めになっていた。


 忘年会では思い出せもしないレベルのくだらない話が続いたあと、当然就職先の話にななった。伊藤忠、サントリー、日清、三菱地所、そして中山は三井住友銀行だった。僕は衰退産業である銀行に就職した中山を心の中で見下した。大企業にフラれた自分の立場はいったん棚に上げることにして。


 二十二歳になって、衰退産業に就職したことをいじること、素直に相手の成功に喜べないことはダサいとわかっていたから、表面上は祝福し続けた。「テラは?」と中山に聞かれたとき、正直に中小企業の名前を伝えた。聞いたことが無いけどとりあえず反応しなくてはいけない「おー」という声をもらった。


「みんな久しぶり! いきなりだけどこの度結婚することになりました! みんなには高校時代の大事な友達なので、できれば出席してほしいなと思っています。忙しい中申し訳ないんだけど招待状を送りたいので郵便番号と住所を送ってくれると嬉しいです!会えるの楽しみにしてる! じゃあよろしくです!」


 久しぶりに仲良し+中山のグループラインが動いたと思ったら中山が結婚する報告だった。二十九歳だから別におかしいことではないし、でも一番乗りが中山であることに少なからず動揺した。みんな「マジでおめでとう! 絶対行くわ!」「おめでとう! 招待状待ってます!」という温かい祝福ばかりだった。


 既読をつけたまま俺は指が動かなかった。カーストの一番下のいじられ役だった中山が大学からドンドン僕の立ち位置に追い付き、逆転されて中山の位置に近づけないほどになっていった。僕は彼女と別れたばかりでマッチングアプリに登録しようかお金がもったいないので止めようか迷っていたところだった。


「すげえ! 招待状待ってます!」


一見、普通にお祝いしている内容だが「おめでとう」と言う言葉をどうしても使えなかった。カーストを超えていった嫉妬、羨みが綯交ぜとなって祝福の気持ちにならなかった。俺は結婚式に参加できるのか?日にちは絶妙に有給休暇が取りやすいところ。参加したくないな。


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元いじられ役の友達 佐々井 サイジ @sasaisaiji

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