元いじられ役の友達

佐々井 サイジ

第1話

 中山とは高校時代の同級生で、専らいじられ役だった。決していじめているわけではなく、本人もその立ち位置に満足していた。クラスカースト上位だった僕や友達と絡める手段がいじられることだと中山は認識していて、僕らは中山のリアクションで笑えるという相互利益に基づく関係性だった。


 いつも僕の席に友人と中山が集まって、いつどこに遊びに行くかとか現状の眠気とダルさでマウントを取り合い、密かに視線を好きな女子に移したりして過ごした昼休みの時間は、どんどん輝く思い出になる。でもやっぱりメインの思い出は中山をいじって息ができなくなるほど爆笑した時間だった。


 期末考査後、放課後にカラオケに行ったとき、徹夜でテスト勉強したからか中山が寝始めた。僕はコンビニで黒の油性ペンを買い、彼のシャツのボタンを外し、シックスパックと大胸筋を描いた。あの時代にTikTokがあれば炎上していたに違いない。笑いをこらえ、画素の粗いガラケーで写真を撮った。


 目を覚ました中山は胸元に視線を落とし、落書きに気づいた。中山が指で必死にこすっている様子を見て僕らは爆笑したが、帰宅後にさすがに今回のはいじめだったと思い、中山が命を落としたらと思うと怖くなった。メールで中山に謝ると「風呂入っても取れねえんだけど(笑)」と返ってきて安心した。


 大学進学において僕と中山の境遇は似ていた。どちらも第一志望に落ちて、俺が明治、中山が青学に進学した。ちなみに僕は青学に落ちていたが、中山には言わなかった。中山は明治にも受かっていたらしいが「おしゃれそう」という理由で青学を選んだらしい。馬鹿な理由で選べる中山が羨ましかった。


 大学に入学したてのころはよく中山と会って大学の様子を話していた。僕は入学当初の滑り出しに失敗して友達が一人もできない状況だった。だから自分より階級の低い中山に会って安心感を得たかった。なのに中山は大学での様子を楽しそうに話していた。僕の階級に中山が近づいている恐怖感を抱いた。


 入学してから夏休みに突入するあたりで中山とは会わなくなった。正確には僕は変わりなく誘い続けていたものの、中山がサークルやバイト、さらに文化祭実行委員もしていて忙しかったみたいで、会えなくなっていった。友達のいないまま前期が終了した僕とは対照的な生活を送る中山に気後れし始めた。


 その年の年末に中山から忘年会しようという連絡があったが、僕はバイトで忙しいと断った。本当は大学に入ってからすっかり立ち位置が逆転した中山にはもう会いたくなかった。都落ちした現実を受け入れる勇気がなかった。カーストのトップで大きく足を開いて威張っていた高校時代に戻りたかった。

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