そして朝になる。ニ

@harutsu

第1話

晴子の家の斜向かいには古い神社があった。白髭を垂らした濃い顔立ちのホームレスが住み着いていて、皆は彼を神さまと呼んだ。神さまはいつも布団の上に座って、どこから手に入れたか、じっと本を読んでいた。

そして晴子も本の虫であった。物心ついた時から本を読み始め、小学校に上がる頃には子供用本棚の本は読み飽きて、親の書斎に忍び込むようになった。育児書と晴子の家の教育とを密かに答え合わせしてみたりもした。

本を読んでいないときは空想した。主人公は晴子で、孤高かつ万能な、強い少女であった。空想に飽きたら、マンションの外階段と内階段を歩き、カナブンを探して回った。生きてさえいれば、埃まみれでも、足がもげていても晴子の好きなカナブンに違いなかった。必死に獅噛みつかれた時の指の感触が、晴子をこの上なく幸せにした。

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