第2話 猫婆の家

「おじゃまします。」

小声で言って入った所は、右手の垣根側が小さな庭になっていて、少し畑のようなところには野菜が植えてあった。いくつか置いてあるプランターには色とりどりの花が咲いていて、小さいけれど木々が数本生えていた。左手が家なのだが、まるでサザエさんの家みたいに縁側があったのでびっくりしてボーッと立っていたら、

「あんたも座りなさい。」

といつの間にか家に入っていた猫婆が、座布団を縁側に敷いて勧めてくれた。茶トラ猫はというと、縁側に上がるための三和土の石の上でくつろいでいる。

「あっあの猫は、猫は上がらないんですか?」

おずおずと座布団に座りながら聞いてみると猫婆は、

「そうだねぇ。上がりたかったら上がるだろうし、居たいところにいるんだろうね。特に禁止もしてないし自由だね。」

ふわっと考える感じで答えてくれた。

「さあて、今度は私が聞く番だ。名前は何て呼んだらいいの?」

「はい、新井川 真実です。シンジツと書いてマミと読みます。」

変にギクシャクしながら答えると、

「シンジツと書いてマミと読む。じゃあマミちゃん。マミちゃんと呼ばせてもらいましょうね。私は、」

「はい、知ってます。ネコばぁ。猫婆ですよね!」

と、勢い込んで言ってしまった。

猫婆がキョトンとした顔をしたので、しまった!と思ったがもう遅い。咄嗟に俯いて怒られるのを覚悟した。しかし猫婆は豪快に笑って、

「アッハッハ。ネコばぁ?私のことかい?どうして私はそんな名前なんだい?教えておくれ。」

と興味津々に聞いてきた。

「あの、学校のみんなが、ここは猫がいっぱいいて、それでお婆さんが住んでいて、だから猫婆の家って呼んでます。」

ビクビクしながら言うと、

「ふーん。なるほど、猫がいっぱいいる家に住んでいるお婆さんだから猫婆か。ところで私は、いつからそう呼ばれているんだい?」

猫婆は、怒りもせずに聞いてくる。

「えっと、私が小学生になった時に、そう聞いたの。あの裏木戸のところが集団登校の集合場所なので、上級生の人達が猫婆の家のカドに集合って言うから、それで」

「でマミちゃんは、今、何年生?」

「ごっ、5年生です。」

「ふーん。集合登校の上級生は6年生だね。ということは10年にもなるんじゃないか!アハハ。10年も経っているんだったら、しょうがないね。よし、私は猫婆だ。よろしくね」

猫婆は、たどたどしい私の話をよく聞いて質問してくれたので、猫婆がネコばぁと呼ばれていることが正しく伝わったように思う。その為か猫婆の人となりの為か怒られなかった。

だけど、私は、猫婆が何と名乗ろうとしたのか、永遠に分からなくなってしまったし、猫婆が、ちょっと考えるときには、「ふーん」という癖があることを知ったのだった。

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銀の猫は踊る 仲原 弥生 @cyu-ya

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