銀の猫は踊る
仲原 弥生
第1話猫婆
猫婆の家は、下校途中にあった。友達とバイバイして最初の別れ道のT字路の角にあった。真っ直ぐ進めば家、角を曲がれば角沿いに巡らせた山茶花の生垣の間に猫婆の家の裏木戸があり、その先が格子戸の玄関となっている。曲がり角から玄関までは見えないのだが、木戸を右目の視界に入れながら、自分の家へと真っ直ぐに帰るのが常だった。
けれど、その日は違っていた。
裏木戸の前に太った茶トラ猫がデンと座っていたのだった。まるで、私が来るのが分かっていて待っているかのようだった。
そう思わせるようなは様子で、猫はじっと私を見た。しばらく猫と見つめ合ったまま立ちすくんでいると
「ニャア」
と、茶トラ猫が鳴き、付いてこいといった調子で裏木戸の方へスタスタと歩いていく
「ニャアー」
と、今度は大きく誰かを呼ぶように鳴いた。すると、
「はい、はい。」
と誰が来たのか分かっているような返事をしながら、猫婆が裏木戸を開けて出てきた。
猫婆は足元しか見ていなかった。 そこに茶トラ猫を見つけた後、「おや?」 という顔をしてすぐに顔を上げると、当然、私と目が合った。
猫婆は、白髪でおかっぱ頭。藍色の作務衣のような服を着ていた。身長は150cmくらいだろうか?婆というほど歳は取っていないように見える。
「・・・お入り」
猫婆は、体を私に向けたまま手でぐいっと木戸を押し開ける。
「なぁン」
茶トラ猫が甘えた声を出しながら、でも誇らしげにしっかりとした足取りで家に入っていく。
猫婆は、その様子を見ながら
「ああ、お手柄だ。」
と茶トラ猫を褒めた。
一体何がお手柄なんだろう。私はどうしたらいいんだろう?と身動き出来ないまま立ちすくんでいると、
「どうしたんだい?あんたもお入り。」
にっこり笑って猫婆 が 言ってくれた。
「はい、えっと、お邪魔します。」
言われるがままに私は木戸をくぐり抜けて、猫がいっぱい集まる不思議な噂のある家に初めて入ったのだった。
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