地獄で留年

@Mizuki007

第1話 合格編

「終わった...。」 そうつぶやくと男はネクタイを緩め、タバコに火をつける。世間が春の温かさに包まれる中、その男は親の視線と就活の冷たさに包まれていた。これは、そんな男つまりは僕の地獄の大学生活を綴る物語である。


「お前大学受かったの?!嘘やろ?」受験生を応援するべき立場の高校教師から出た衝撃的な言葉と共に、大学生、僕誕生。正直なとこ僕だって入れると思っていなかったのだ。というのも、高校生活を思い返すと赤点を回避した記憶が無いのだ。中学までは優秀な部類にいたのだ。それがこのザマ。燃え尽き症候群というヤツだろう、勉強をした記憶はない。おそらく高校3年間で使ったノートの冊数は片手の指で収まる。なんなら小指のないヤクザ屋さんの指でも片手で数えられるだろう。だが、受かったのだ大学に。いや、受かってしまったのだ。そうして高校から「背水の陣」という妙に長いあだ名をつけられ高校を終えた。


高校を卒業し、大学に入学するまではかなりの時間がある。この時間を何に使うのか?もちろんバイトである。自称進学校と呼ばれる高校なんかに多いだろう。バイトが規制されているのだ。それがどうだ、今、金塊が目の前にあるのだ。もちろん我々は鼻水とヨダレを垂らし己の欲望を剥き出しにしてバイトをするのだ。

初めは、塾講師だった。少し憧れがあったのだ。小学生、中学生相手にマウントを取りたいのだ。こちらは大人やぞと。人生の夏休み大学生活満喫するんやぞと。

初めての面接は緊張した。飲食やコンビニならここまでは緊張しなかっただろう。今でも鮮明に覚えている。

「あなたの長所を教えてください。」

「私の長所は、適応能力が高いところです。」

「あなたの長所が発揮された場面等聞かせて頂いてもよろしいですか?」

「部活です!サッカー部の副キャプテンとして...」

嘘である。高校生活は部活とは無縁だ。強いて言えば帰宅部だろうか。副キャプテンという絶妙なポジションをチョイスしたのも今考えると素直にキモすぎる。その他も様々な嘘を重ねた。本当のことといえば名前、住所、電話番号くらい。嘘の塊が服を着て言葉を発している状態だった。

教育に関わるのでもちろんある程度の学力は必要だ。続いては筆記テストだ。こちらは難易度自体がそこまで高くないので楽にパスすることが出来た。後日聞いた話だが、

「朴念仁」こちらの漢字。皆様はなんと読むだろうか?そう、「ぼくねんじん」である。私は何を思ったか「パクネンジン」と回答をしていた。どこの国籍の方だろう。しかし、こんな僕でも働けることになったのだ。こうして大学入学までの約3ヶ月間をバイトと遊びに費やした。

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