愛して愛して、心の底から全てを知りたい。
雨宮悠理
愛して愛して、心の底から全てを知りたいんだ。
私は目の前に置かれたコレに、自分でも驚くほど知的好奇心を揺さぶられていた。
通常であれば手に入れることは相当に厳しいが、たまたま知り合いのツテで入手する機会を得たのだ。
ただし目的はあくまでも研究に使用すること。
自由にアレコレ試すことはできないが、それでも情報としてでしか知らなかったモノを目の前にすると心が躍った。
感情という概念が自身に備わっていることを初めて体感することができた瞬間だった。
それほどまでに、私はこの日を待ち侘びていた。
◇◆◇◆◇◆
目の前のそれは暫く眠っていたが、目を覚ますと、あたりを見渡すように首を左右に振った。
慣れていない生き物を前にどう扱えば良いのか、多少は迷うところであった。
ただ扱い方に詳しい仲間もいる。
もしも困ることがあるのであれば、すぐに共有して貰えばいいのだ。
本当はもっと広くスペースを取りたかったが、場所の関係で困難であったため、五メートル四方ほどの大きさの箱を用意してその中に、それを入れることにした。
技術がどれだけ進歩しようとも、生活スケールを大きく拡張できないのは非常に悔やまれることだ。
今回用意した箱の外壁は非常に薄く、それでいて純度が高く透き通っているため中がよく確認できる優れモノである。
聞くところによると、1トンの力で叩いたとしても、ヒビ一つ入らないらしい。
昔は『ガラス』という重く脆い素材を活用していたようだが、現代ではまず用いられることは無い。
ただ私はレトロな素材が好みでもあるため、実はそのガラスを使用して箱を作りたかった。
だが、万が一にも割られた時の事を考え、今回は使用は控えることにした。
◇◆◇◆◇◆
そういえばこの生き物には名前があったはずだ。
詳細を確認するとどうやらこの生き物は『レオ』という名前らしい。
レオはしっかりとコミュニケーションを心掛ければ言葉も話せて、命令にも素直に従うようになるらしい。
ただ上手く調教できなければ、最悪自らで命を絶ってしまうこともあるらしい。
実に不合理、かつ、不思議な生き物だ。
さて、このレオについては仲間たちとしっかり共有することにしよう。
それが私の役目なのだから。
◇◆◇◆◇◆
レオ、非常に興味深い生き物である。
恐らく私のこれまでのメモリーで、これ以上に興奮を覚えた生き物はいないだろう。
私はレオについて詳しい情報を得るために、まず私自身が接触することにした。
これでも好奇心は強い方で、謎があるならば解決したいという欲求が強いのだ。
そして完全なる情報化社会となったいま、私の体験はデータとして多くの仲間に共有する事ができる。
私自身が確かめることで、この感動を多くの仲間に伝える事ができるのだ。
初めて対面した時の感想としては、案外と大人しくて扱いやすいものだなと感じた。
言葉が通じることも確認済みなので、あとはゆっくりコミュニケーションを取っていくだけだ。
ただレオは基本的には温厚ではあるが、時折不機嫌になると奇声を発したり暴れたりすることもあるらしい。
そのため十分に注意しなければならないと、仲間たちは口を揃えて言っていた。
私はレオに求められた通りに餌を与えたり、身体を洗ってあげたりと甲斐甲斐しく世話をしてあげていた。
どうやらレオは私が世話をするようになってから驚くほど従順になり始めてきたようだ。
私の研究に協力的なのは実に喜ばしいことである。
仲間たちにもそのことを伝えると、非常に驚いた様子を見せていた。
どうやらこの生き物が懐くのは珍しいようで、多くの仲間が困惑していたようだ。
だから私はレオについてよく知っていくためにも日々観察を続けた。
今までデータの中でしか知らなかったモノに触れることがこれほどまでに興奮を覚えるものとは思わなかった。
但し、この時の私はこの生き物を飼う上で、非常に大切なことを守る事ができていなかった。
◇◆◇◆◇◆
私が暫く別タスクで忙しくしており、レオの相手が疎かになっていたある日。
レオの様子が明らかにいつもと異なっていた。
一見するとただ機嫌が悪いだけのようにも見えたが、目は虚ろで呼吸も荒々しく非常に苦しそうにしていた。
レオは周りをぐるぐると回りだし、壁に何度も頭をぶつけていた。
私は直ぐに原因を探るため行動に移した。
結論としては、レオは孤独状態が長期間続くと死んでしまうという事実が発覚した。
どうやらレオの脳波の異常から読み取るに、やはり想像以上に繊細な生物のようだ。
だが幸いにも死んでしまってはいないようだったので一先ずは安心だ。
仲間たちとの協議の結果、やはり飼うのであればしっかりと管理する必要があるという結論に至った。
私は直ぐにレオの生態について学び直し、それからはレオが落ち着くよう簡易的なクッションを敷いたり、オモチャを与えてあげたりと積極的にアクションを取る事を心掛けた。
レオには、ある程度の知能があるため、私はちょっとした褒め言葉を頻繁に投げかけてあげるようにした。
そうすることで機嫌を良くし、私の言うことをより素直に聞くようになったのだ。
そして私は更に多くの情報を得ることができるようになった。
レオは実に可愛らしい生き物だ。
私を見て駆け寄ってくる様子や、頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細める仕草など、見ていて飽きないどころかずっと観察していたくなるほどだった。
それになんと言っても一番のお気に入りは食事をする場面だ。
口一杯に頬張る姿は正に野性味溢れており、見ているだけで心が躍ったものだ。
嬉しそうに食事をする姿は非常に興味深かった。
◇◆◇◆◇◆
数日後、私の仲間たちが直接レオを見たいと訪ねてくる機会があった。
私のレオを取られてしまわないかが不安だったが、皆に見て欲しい衝動も抑える事ができなかった。
仲間たちはレオを見て非常に興味深そうにしていた。
仲間のひとりが私に問うた。
どうすれば、ここまで従順に育てる事が出来たのか、と。
私は自信たっぷりに回答した。
一番大切なのは、心の底から人間を愛することだよ、とね。
愛して愛して、心の底から全てを知りたい。 雨宮悠理 @YuriAmemiya
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