[目的地」

@namori-ko

「目的地」

「運転手さん、今日はいい天気ですね」

バックミラーに映る女性は微笑みを浮かべ、後部座席の窓から青空を愛おしそうにのぞき込んでいた。

「そうですね。今日はいい天気です。それで、目的地はどちらになさいますか?」

「そうね……」

彼女は深く息を吐き、肩まで伸びる艶やかな黒髪を細い指先でなでらかに滑らせた。

「私、昔はショートカットが好きだったの。お風呂上りにすぐ乾くし、手入れも楽だから。でも、あの人が長いほうが似合うって褒めてくれたから、いつのまにかこんなにね……」

ぽつり、ぽつりと雨音が車内に響き渡る。

私は無言でワイパーのスイッチを押した。

「優しいのね……でも、いいのよ気を遣わなくて。知っていたから、いつかは永遠の別れがくるって」

「そうですか……」

「そんなに悲しそうな顔しないで、なかなか味わい深かったわ、私の人生。」

「……」

「決めたわ、目的地」

「どちらでしょうか?」

「           」

私は笑みをこぼし、車を走らせる。

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