【ショートストーリー】飛ぶ自由を手に入れて

T.T.

【ショートストーリー】飛ぶ自由を手に入れて

 ある日、人は飛べると気がついた。

 これまで人が飛べないと思っていたのは単なる思い込みだったのだ。

 人は飛べる。

 そう、「飛べると信じる」だけで人は飛べたのだ。

 人々は歓喜した。

 人々は飛んだ。

 国境を越えて、海を越えて、飛んだ。

 そして、その奇跡のような日から数年が経過し、世界はこの新たな能力に適応し始めていた。

 人々は飛行する際に環境に配慮しながらも、新しい自由を十分に享受していた。

 飛行管理システムが整備され、安全な航行のための規則が確立された。

 エアウェイズと呼ばれる専用の飛行ルートが設定され、誰もが安心して空を飛べるようになった。

 人々は決められた高度と速度で飛行し、美しい空の景色を楽しむことができた。

 経済は新たな局面に入り、サステナブルな方法での飛行アクセサリーやファッション産業が繁栄した。

 飛行するための軽やかな服装や、空中での快適性を高めるアクセサリーが開発され、それらは人々に新たな仕事と喜びを与えた。

 科学者たちの努力により、飛行能力の背後にある精神と身体の相互作用がより深く理解され、特別な訓練を受けたインストラクターたちが、すべての人が平等に飛べるように支援を提供するプログラムが開始された。

 これにより、飛行における社会的格差は緩やかに解消されていった。

 教育システムも一新され、子供たちは若いうちから飛ぶことと共生することを学んだ。

 学校のカリキュラムには空を飛びながら学ぶクラスも登場し、学びの場は空の上へと拡大した。

 そして、世界はより緑豊かになった。

 多くの人々が飛行を選ぶことで、自動車の使用が減り、大気汚染が大幅に減少した。

 人々は空の自由を慎重に扱いながら、地球の自然を守ることにも目を向けるようになった。

 飛行可能な新世界には、ちょっとしたロマンスも芽生えた。

 空中でのプロポーズや結婚式が流行り、人々は愛を高めるために天空を選んだ。

 友情や家族の絆も、共に飛ぶことで深まり、人々は互いに支え合うコミュニティを作り上げた。

 そしてある日、世界は重大な発見をした。

 人類が共通して持つ飛ぶ能力は、単なる物理的な現象ではなく、心の絆や共感、協力といった精神的なつながりが引き起こしたものだということを。

 人は信じる力と愛を基盤に、空を飛ぶことで、かけがえのない平和と調和の時代を築き上げたのだった。

 夕暮れ時、人々は手を取り合い、愛と喜びの輪を描きながら空を舞う。

 その美しい光景は、地上の人々に希望と感動を与え続けた。

 遠く離れた地でも、人々は心を一つにして、この新たな時代の幕開けを祝った。

 何世代にもわたり語り継がれるであろう、人類が飛び立った、まさに偉大な世紀がひらかれたのだ。


(了)

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