理性ぶっ壊れ

『迷惑かけている立場で〈すいません〉の一言やスタンプを送るってありえないですよ。就活を経験したのに〈すいません〉っていう謝り方しか知らないんですか。〈申し訳ございません〉も言えないんですか。そんな状態で社会人になれるだなんて思わない方が良いですよ。

 軽々と休みますけど、あなたが代わりに講師探していただけるんですか。探さないでしょう。だったらせめて申し訳ない気持ちくらい出しておいてください。あと、頭痛くらい皆抱えながら出勤していますけどね。私は39.5度の熱を出しながら授業していましたよ』


 スマホをポケットに突っ込んで、子機を握りしめた。さすがに講師一人で五人の生徒を見るのは不可能だ。クレームだけは避けたい。保護者に詫びの電話を入れて授業を別日に振替えよう。


 明日以降も毎日講師不足と表示されているパソコンの画面にマウスをぶつけたい。そもそもなぜこんな奴のために俺が謝らないといけないのか。


 懇談最後の保護者が見えなくなるまで見届けて、玄関で膝をついた。春季講習を取ってもらうために必死で喋って声が枯れた。頭に酸素が回らない。始業から立て続けに懇談するといつもこうなる。立ち上がって壁に手をつきながら、講師の元に向かった。


「今日、浅田先生が頭痛で来れなくなっちゃって、負担かけてごめんね」


 頭痛くらいで休みやがって、という浅田への反感を講師一人ひとりに植え付けておく。


 駅のホームでスマホを確認すると『今月で退職します』と浅田から連絡が来ていた。俺の怒りの内容をすべて無視するとは良い根性をしている。どうせ授業の質が低くて生徒から人気のない戦力外の講師だ。シフトを確認すると月水金と週三で入っていたが『では本日付で退職とさせていただきます』と送信した。 


 講師不足をさらに悪化させてしまった。でも、神経を逆なでする奴が消えて良かった。


 今度は礼儀がしっかりしていてまともに対話のできる大学生を採用しよう。ここ一ヶ月、非常勤講師応募が来ていないのは不安材料だけれど。

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社会人の本音 佐々井 サイジ @sasaisaiji

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