第3話
いつしか、俺が母と弟を守らなければいけないという使命感を抱いていた。俺が父の代わりにならなければと。本当は弱いのに強いふりをして家族を支える母と茶化して周りを楽しませていたのに心を閉ざしてしまった弟のことを。
新しい町は広大な畑や田んぼが辺りを埋め尽くす田舎だった。横断歩道なのに信号はなくてどこへ行くにも車は必要不可欠で。生活するには不便なことも多かったけれど幸せを取り戻せているような気持ちがした。前居た街と正反対なのが惨めな俺たちを忘れさせてくれるようだった。
「俺、月岡。よろしく」
入学式の日、隣の席になった宮原と名乗る男は、この町で有名な神社の跡取り息子らしい。にっこりと笑って手を差し出してきた彼は眩しすぎて太陽のようだった。
気が付けば、日々を月岡と過ごすようになった。学校でも帰り道も昼夜問わず、ずっと一緒にいた。学校でも遊びに行った家でも彼の周りは常に笑顔で溢れていた。それはきっと宮原のおかげだった。月岡の周りはいつも人が集まっていた。
明るい話題も暗い話題も軽い話も重い話も提供してくれるのは月岡ばかりで。その全てを適当に投げかけているのが羨ましくもあった。月岡と日々を過ごすことで、少しずつ灰色の日々から抜け出しかけているような気がした。
「今日の放課後、ここで集合な。」
お世辞にも上手いとは言えない木を模した絵に、乱暴な字で書かれた「秘密基地」の文字。
「なに、これ?」
目で訴えかけながら尋ねると宮原はこう答えた。
「……見たらわかるだろ。秘密基地だよ」
「それは分かってるけど……」
「なら何の文句もないだろ。とにかく放課後、ここに来いよ。」
有無を言わせない捲し立ては強引そのもの
ではあったが、別に嫌ではなかった。寧ろ月岡だから許せているような気もした。
授業が終わり、一足先に「秘密基地」に辿り着いた俺は身長の何倍もある太い木を眺めた。苔がびっしりと張り付いた表面から滴る水を煌めかせて照り付ける太陽。眩んだ光が半袖の下から覗く白い腕を赤く火照らせた。
「お前の方が先に来るとは思わなかった。なんか俺が遅れてきたみたいだな。まあいいやこっち来て。お前に見せたいものがある」
そう言って連れていかれた先は眺めていた反対側にあった。
木の麓に掘られた洞窟のような場所。中へ足を踏み入れるとまさに別世界が広がっていた。暗闇を照らすランタンの仄かで暖かな光。小さな机に大きく積み上げられた漫画や本の数々。すごろくやトランプに電子ゲーム。乱雑に立ち並ぶスナック菓子やカップラーメン。ここで一週間は過ごせそうなほどの豊富なラインアップに思わず唸り声を上げた。
「……なにここ。めちゃくちゃすごい」
「だろ。こないだ見つけて。これからはここで集合な」
段々と「秘密基地」で過ごすことが日課になっていき放課後が毎日の暮らしの中で特別な時間になっていった。
日の光に照らされた頬を冷やす洞窟の中の空気が邪魔になるほど季節を越え、雨の日も曇りの日も晴れの日も二人で過ごした。
少年 @reito_5
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